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3.ワルキューレの騎行_2

3-2.



「あのさ、リリ…。」


「お待たせしました!!!!」


 なんて間が悪い。


肩を大きく上下させながらトングをぎゅっと握りしめた少女が戻ってきた。

その様子にリリアは慌てて少女に駆け寄り背中をさすってあげていた。


しかしいくら服装がそれでも溢れるオーラを消すことはできないらしく、少女自身も恐らくこの人が自分とは大きく身分の異なる存在であることに感づいているようだった。


そのさすってくれる手を慌てて断り、頭を何度も下げている。

その姿にリリアは再度涙ぐむ。なんていうか、無声映画を早送りで見させられているかのような、独特のスピード感だった。


女子ってそうだよね、何故かものすごい速度で手を振って喜びや同調を表現したりするよね。

この蚊帳の外な感じ、リリアも少女も年頃に女の子なんだなってすごく感じさせる。


……さっきの拗ねてるリリアはすごい可愛かった。

それは認めるよ、というかリリアは常に可愛いと思う。

俺じゃ隣にいるのが不釣り合いすぎるくらいに。


って俺は恋人気取りか!


「それじゃあ、そのあんパンを売ってくださる?」


「もちろんです!……い、一個ですか?」


 少女の期待に満ちた瞳にリリアが白旗をあげるのに何秒とかからなかった。

その少女の瞳とまったく同じ類の期待が見え透く勢いのままリリアは俺の方をゆっくり振り返る。


無言を貫く俺。


一度視線を逸らしてみたが、こちらを見つめる期待のまなざしは2人分になって眩しさを増すばかりだ。


「……今日は腹減ってるから、俺は5個くらい食べるよ、リリア。」


 正直これで堪忍してください。買うのなら残したくはないし、サイズを見ても5個が限界だ。

俺は体育会系でもないし、大食いへの自信は1ミリもない。それでも5個はかなりがんばってる方だと思う。


俺の返事に対して、やった!となぜか少女と手を合わせるリリア。

おいおいあの数分でそこまで打ち解けたの?女子怖い。


「いつもここでお店を出しているのですか?この近くにご家族で住まわれているの?」


 袋に嬉しそうにパンを詰める少女に対してリリアは話しかけた。

質問の意図がわからないのか、少女はコクコクと頷いてみせた。


そして俺はリリアのこの問いの真意に気付いていた。


マジで?パン屋さん泊まるの?俺早起き苦手なんだけど、翌朝にはお仕事のお手伝いとかしないといけないやつなんでしょ?これ。


「まぁ、それは素敵な偶然。私達、いろいろあって今夜泊まる宿がないんですの。それでもしよろしければお父様かお母様にお願いしていただけないかしら。

もちろん私が直接お話してよろしいのなら、私がお話しします。お礼もきちんと致しますから、ね?」


「へ?へ???」


 どこかのお嬢様と思われる女性が自分の出店で多めに買ってくれただけでなく家まで案内しろ、しかも今日泊めろ、と言っているのだ。


混乱するのもわかる。俺だってたぶん混乱する。


しかしリリアはある意味おかまいなしで、少女に割と無理矢理家まで案内することを約束させていた。


大丈夫ですか?リリアさん?

最近は女性でも幼い子に対していたずらしちゃうと捕まっちゃうんですよ?


「そうとなれば、これを早く売ってしまわなければなりませんね!さぁ涼介様!おいしいパンのお礼にお店のお手伝いをしましょう?」


 どうでもいいけど、今日一日を通して俺に拒否権があった試しがないんですけど。


ていうかパンのお礼って、ちゃんとお金払ったし…。しかもリリアが見つめるから多めに払ってる上に、何よりもまだパン食べてないんですけど…。


食べもせずに美味しいって言っちゃったよこの子……。


俺が何か言うよりも前においてあったエプロンをつけて少女によろしくお願いしますわ、とか言ってて、もはや少女はオーバーヒート寸前状態。


リリアはほっといてもがんばってくれそうだから、俺はこの少女をひとまず現実の意識に引き戻すところからしようと思う。


「じゃあリリアは店の前で呼び込みとかどう?リリアが宣伝したらきっと買ってくれるから。よっ看板娘!」


 そういうとリリアは嬉しそうな顔をして、はいっ!と元気に返事をしてから通りに出て行く。


なんかリリアの扱いがわかってきた気がする。


そうか……こうやって男性は唯一無二の現金自動預け払い機として機能するようになっていくんだな……。


いやいや本人が納得してそれが幸せならそれでいいんですよ……ははっ……。


まるでリリアが悪女のような書き方になってしまったが、そういうわけじゃない。


そう。結局は、かかあ天下の方がうまくいくってことが言いたいだけだよ。ほんとだってば。


ただ世の中の不憫な思いをしている男性諸君には恐れ入る。


俺なんかまだどうて……ごほん。偉そうに語ることじゃなかったな。


女性は立てて好きなようにさせながらも、間違った道に行かないようにたまにリードしたりするのがきっと一番輝ける条件なんだろうな、と楽しそうに道行く人へ呼び込みをするリリアを見ながら思った。


そしてそれをすることで満足感を得られれば、その人はきっと大切な人なのかも……なんて。


まるで俺がリリアを好きみたいな話になってきてしまっているが、これぞ吊り橋効果ってやつだと信じる。


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