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2.フィンランディア_6

2-6.


「ささ、入りましたよ。どうぞ召し上がってください。」



 段々ニヤニヤからニコニコ顔に変わってきた竜宮寺がいれてくれたのは、柑橘の香りがほのかにするアールグレイのようだった。

やはりそこは異世界クオリティなんだろう。ここが昔の日本なんだとしたら、この時代には本来アールグレイというフレーバーティーは存在しなかったような気がするからだ。


まぁ美味しい紅茶に罪はないし、別に俺はタイムスリップとかしてるわけでは……ないよな?地名も大きく違うし、授業でやったような地名は聞かないからやはり異なる世界で、昔の日本のような感覚なんだろうと勝手に納得させておく。


俺がこの紅茶がこの時代にあるはずない!なんて言ってしまったらせっかく機嫌がよくなった竜宮寺がどうなるかわからないからな。


「えぇ、ありがとうございます。いただきますわ。」


 リリアはすっと上品にカップに口を付けて素人目に見てもわかるくらいに本当に微量だけ紅茶を飲んだ。


なんだろう、毒薬対策?

でもそれだとカップに口を付けてる時点でアウトなんじゃ…?


というかリリアはそういう命狙われちゃう系ヒロインとかではないよな?今までの話の感じだとそういう話ではなさそうだし、俺がこの世界を歩いていくのにそういう女の子とわずかな時間でも一緒なのはちょっとさすがに勘弁してほしい。


俺は平和に、そう一応はラブアンドピースの精神でに異世界を渡り歩きたいのだ。


「……何か、お気に召しませんか?」


 さすがの対応に竜宮寺自身もお気に召さないらしい。リリアは静かにカップを置くと竜宮寺の方へ向き直った。


えっついに戦いの火蓋が切って落とされるんですか?リリアさん?

早くない?俺もうちょっと紅茶飲みたいんですけど?


「いえ、そういうわけではありませんわ。お屋敷もとても立派で、お紅茶も大変美味しいです。

それ故に…この街の中心街以外の地域…。いえ、このお屋敷の様子だけ見れば中心街も含めて良いと思います。

なぜ領民のみなさんがお住まいのところとここまで格差が出てしまうのでしょうか?もちろん多少は領主の威厳として許される範囲もあると思いますが…。

街の入口側、中心街の外周に辺る地域の貧困は本当に目を見張るものがあります。どういうことでしょうか?」


 竜宮寺もつっこまれるとわかっていたような、まさかそこまでぶっ込んでくるとは思ってなかったのか。

微妙な表情のままリリアの言うことを流して紅茶のポットをワゴンに戻した。

どうやら出したばかりの紅茶の片づけをしようとしているらしい。帰れってことだろうか?


「竜宮寺様?」


「……たしかに領民との暮らしに差があることは認めましょう。しかし私は人々の収入に対し一定の税収を定めており、そこから街の諸々へ資金を回しております。

決して人を選んで徴税額を決めているわけではありませんよ。それを聞きたくて、確かめたくてわざわざこの街にきたのですか?

……もし本当にそれが目的なら、こちらにも考えがありますよ。」


「そういうわけではありませんよ、気になっただけですから。誰だって自分が綺麗な家に住みたいですわ。竜宮寺様だって、当然23区域出身の方なんですから。誇示したい気持ちは分かります。」


 その答えに眉は潜めたままだったが一応納得したらしく、片づけようとしていた手は止めた。あぁもうすっごい気になる、23区域ってなんなんだよ。


ここで聞いたらめんどくさいことになるのは火を見るより明らかだから俺は黙っておくけど、リリアから後でしっかり聞き出さないと気が済まない。


「……そういえばリリアさんは、どちらのお家の方なんですか?」


 もはやお馴染みになりつつある性格の悪そうな顔をリリアにも向けながら竜宮寺自らのカップにも紅茶を注いでいた。


それにしても竜宮寺の疑問はもっともだ。リリアはリリアとしか名乗っておらず、恐らくそれがファーストネームなんだろう。ファミリーネーム、『吉村』とか『竜宮寺』とかを教えてもらっていない。


それに竜宮寺のことを親しい人は『ルテイン』って呼ぶともリリアは言っていたし、もしかしてリリアのそれは竜宮寺のと同じように愛称でしかないのではないのだろうか。少なくとも竜宮寺はそう思ってリリアに尋ねていることは間違いない。


……それにしてもこの世界の人達はみんな開き直るというか切り替えが早すぎるんですけど…。


「そんなに気になるならお調べになってください。逆に23区域の方だからこそ、私はリリアと名乗ったつもりだったのですが。」


 リリアが相変わらず喧嘩腰なことに思わずソファからずっこけて落ちそうになる。

なんなんだ、リリアは何に警戒してるんだ。警戒してるって意味では竜宮寺もそうだ。


俺にわからない駆け引きが目の前で繰り広げられていることだけが確かで、俺はおろおろするしかない。


「何度見ても特別な物を持っているようにも見えませんし。23区域の人間でもないのにそんなに大事にされてる様子をみると何か勘ぐってしまうものですね。」


 もはや俺に向かって視線を向ける気力もないらしく、チラッと横目で一瞥してくる。その態度はさすがにどうなんだよ…。


こんなにされたら俺だってイラッとくるくらいにはプライドってものがあるんですけどね。


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