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0.

 春から夏。進学した俺は少し捻ったとてもハイセンスな自己紹介を披露しようとして…それはひどく平凡な自己紹介をした。結果、クラスの中心になった奴の自己紹介も一般的なものだったが、その差は歴然だった。

そんな俺でも、テストを乗り越えて友人達と夏休みを迎えた。一緒に騒いで、身の丈にあった範囲でバカなこともした。


 秋から冬。文化祭のシーズンだ。先述の友人達といろいろと見て回ったが、多くの生徒と同じく涙を流すほどの青春ドラマも無くそのイベントを終えた。

そのままの勢いで恋人の『こ』の字もないまま聖夜を迎える。またも友人達と集まっていた。ジュースで酔ったふりをしながらカップル達への恨み言を言い合うのも楽しかった。


 冬から、また春へ。誰かが留年の危機に今更焦りだす。しかし教師の茶番劇の末に結局全員の進級を告げられる。多くが早く終われと思いながら、その謎の一体感に参加する。


春が目前に迫る。『4月になったら可愛い後輩の女の子から、先輩!って呼ばれるのかぁ。』という、ワンチャンを信じて疑わない奴が出てくる。みんなそのまま流しつつ、心の中でバカにしているか、そのポジションは自分だと野心を燃やしているかのどちらかだ。



 簡単にまとめてもまとめなくても、こうとしか書きようのない1年を俺は過ごした。


青春の汗や非日常の世界だとかは、結局は小説やマンガの中の話だけなんだと心に刻まされたわけだった。


制服だって校舎の設備だって奇抜なものや飛び抜けたものでもない。本当に普通だ。



 こうして新学期を当然のごとく迎えた俺は、最寄り駅から家までの道をいつもと変わらぬスピードで歩いていた。今更桜に対して特別な感情は無かったが、視界の端に捉えて謎の幸福感を覚える程度には人並みの純日本人であったらしい。


 来月発売のゲームのことや、週明けに控えている実力テストのことをつらつらと考えていたらスマホの通知音が鳴った。

どうせ誰かが今からゲーセンにでも行こう、と言い出したんだと思いポケットから取り出して開いてみた。


『君が異世界に来てくれたらお姉さんとっても助か………』


文章が長すぎてプレビュー表示に収まりきっていない。

それどころか完全に見知らぬアカウント名から届いたものだった。


メールと違って開いただけでは何かに感染したりはしないし、すぐに俺のアカウントからブロックされることも相手はわかっているだろう。


無いとは思うが、誰かがアカウントを乗っ取られて表示名を変更された可能性も考えて、俺はそのメッセージの全文を読むことにした。


(それにしても、今時こんな出だしの文句で売り出すものなんてそれこそソーシャルゲームくらいしかないだろうけどな…。)


多くの企業が莫大な売り上げを求めて開発され続けているソーシャルゲーム。

学生の身分の自分には重課金など出来ないし、強くも弱くもない範囲でいくつか楽しんでいるゲームは確かにある。


そういう類の広告か何かだろうと思い、現時点では差出人が不明のメッセージを軽い気持ちでタップしてみた。



 途端、眩しい光に目がやられてしまった。

うっ、というみっともない声を上げて目をつむってしまう。……が、そのままなんの音もしないし気配もない。


しかしいつまでも目をつむっているわけにはいかない。意を決して恐る恐る目を開けてみるとそこは何もない真っ白な場所だった。


桜の木も住宅街も、ましてや青い空すらない。


「なんだよここ…。」


 地平の区別もつかないほどにその場所は真っ白だった。

それは自分が白い地面に立っているのか浮いているのかも混乱してくるほどだった。


気づいたら震えている両足のことは見なかったふりをしながら、なんとかしてかがんで足下を指先で触ってみた。

すると堅くひんやりとした感触が指に伝わってくる。


地面か床かはわからないが、とにかく自分の足で立っているということを認識して少しだけ安堵した。


今度は辺りを軽く見回してみたが、やはり白い空間でしかない。


上や前後に腕を伸ばしてみたが、スカッと空を切った。それなり以上には広い空間であるようだ。


助けなんて声に出してみても無駄なことはわかっているし、そもそも現実なのか夢なのかすらわからなかった。現実であって欲しくはないけれど。


もしかしたらメッセージを開いたのと、いつ恨みを買ったのかもわからない不良から不意打ちを受けたのが同時で自分は意識を失ってしまったのかもしれない。


ぐるぐると考えていても当然埒はあかないし、夢か何かであろうこの時間が醒めることを待つほかないのだろう。


「あーっ!いたいた!ごめんねー。見つけるの遅くなってー!」


 もういっそこれは夢なんだと自分に言い聞かせ、なるべく自然に後ろを振り返った。たぶんぎこちなかった。


「そんな怖い顔しないでよ、とって食ったりしないし。食ったら元も子もないし。」


 怖がらせないように言っているのだろうか。推定20代後半程度の女性がこちらに向かって小走りで近寄ってくる。


顔つきからは日本人のようだったし、髪の色も黒が強い紺でやはり日本人のようだ。

淡い水色で和服のような襟の形をした服をまとっていたが、裾は丈の長いスカート状だった。一風変わったワンピース、というやつだと思う。


袖はなく、肩から先は白い腕をのぞかせているが手首から先は服と同色の手袋をしており、手首の周りには派手すぎない装飾品が縫いつけられているようだった。


服に余計な装飾はなく、帯代わりのような紐を腰に巻いている。


和服に似たデザインの服が似合うということもあって、体型として強く暴力的に主張しているものは見受けられなかった。

だがスラッとした体型に見えるし、主張しすぎないサイズくらいの方が正直俺は好みだ。


って何を言っているんだろう。


だいぶ近づいてきて気づいたが、女性の襟には見たことのない文様がかかれた襟章のようなもの大小併せていくつかついており、夢の中とはいえ身分の高い人間が出てくるなど夢にも思わなかった。


というかそもそも夢だった。


夢だよな?



「いやあお待たせ。どこに現れてくれるのかよくわかんなくて、少し探しちゃった。

よく来てくれたね、いや来てくれないとすっごい困るから何度でも呼ぶつもりだったんだけど。」


 さわやかに嫌み無く、にこやかに笑う女性が言っていることがいまいち理解できなかったが、夢ってそんなもんだ。


でもなんだか少し怖いことを言っているような気がする。


「私の名前は河野茜(こうの あかね)。今は何がなんだかわからないと思うけど、これから長いつき合いになるんだと思うし、茜おねーさんって呼んでね!君の名前は?」


 茜って名前は確かにお姉さんに多い名前な気がするな、という偏見で完全に色々と聞き流していたが、どうせ夢だしどうでもいいだろう。


美人な人に変わりはないし、だってほら夢だし、名乗っておいて損はない。


「吉村涼介、です。……茜、さん。よ、よろしくお願いしま、す。」


 俺自身としてはかなりサラリと言ってのけたつもりだったが、どうやらそんなことはなかったらしい。

茜さんは一瞬目を丸くした後、苦笑するような顔で俺をみた。


そんなに変な言い方になってただろうか。

やはりきれいな女性というものを目の前にすると男はみな緊張するものなんだろう。



夢なんだけどな。



「茜さんかー、まぁそうだよね。高校生くらいかな?そんな子に『おねーさん』なんて言い方を強要するほうが間違ってたわ。ごめんごめん、じゃあ改めてよろしくね涼ちゃん。」


「りょ……!?」


「んー?やっぱり男の子は抵抗あるのかぁ。でもそんな風に愛称で呼んでくれる人ってこの先ではきっと現れないだろうし…。一人くらいそういった距離感の人がいたほうがいいよ!」


「い、いや、さすがにひどくないですか…。」


 びっくりしてしまったが、なんだか悪意無くバカにされたような気がする。

すると茜さんは何とも言えない同情を交えた笑顔で話してくれた。


「でもね、きっと涼ちゃんはこの先『賢者様』とか『吉村様』とか。あとは『ご主人様』とか『団長様』とか…。まぁ肩書きは涼ちゃん次第だけど、こんなのばっかりだよ。」


「いやいや、いくら夢とはいえそんなわけのわからない話をされても困ります!しかもちょっとだけバカにされたような扱いまで…。

いやまぁ夢だから仕方ないっていうのはわかりますけど!」


「夢じゃないよ。信じられないし、受け入れられないよね。けど、全部現実。

そんで涼ちゃんは、今からこの空間よりも更に神秘的で信じられないほど素晴らしい世界に飛び込むことになる。これは決定してる。残念だけど。」


「ますます意味が分かりません、いくらなんでも夢の主の意志を無視しすぎですよ!

それにせめて夢じゃなかったとしても、俺に選択権とか拒否権とか、なんかそういう基本的な人権っぽいものってないんですか!?」


「だから夢じゃないんだってば。そして涼ちゃんに拒否権はない。

涼ちゃんはそんな運命のなんとかの元に生まれてしまった、幸であり不幸なようなそんな感じのあれなんだよ。

だから今ここに呼ばれて、そして私に代わってあの世界に行ってもらうの。」


「わかりました、夢じゃないんですね?ただそれにしてはあまりにも理解不能すぎます。

夢じゃないならもう少しわかりやすく説明できたりしないんですか?それがないと俺はいつまでもやっぱり夢だって思い続けますよ。」


「もー、涼ちゃん。もう少し落ち着いて話が出来ないとあの世界だとすぐパクッと食べられちゃって人生THE ENDになっちゃうよ?リラックスリラックス。はいよしよーし。」


「な、なにするんですか!?」


 茜さんは優しい同情を含んだ笑顔を崩さないまま、俺を頭を優しく撫でていた。

ふんわりと髪の毛を掻き分けられる感触だけでなく、手袋ごしでも手の温もりが伝わってきた。



初投稿です。マイペースですが更新頑張っていきますので応援していただけると幸いです。

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