突然すぎるお出かけ
「ふぁぁあ…」
昨日はなんだかんだでよく眠れなかった。別にあれのせいではなくて、ただベッドの中で夜更かしがしたかっただけだ。
しかしやっと長い授業も終わり放課後だし、
昨日亜紀が言っていたケーキ屋とやらに行くことになるのかな。
ずっしりした鞄を持ち立ち上がったその時
「見つけた!行きますよ!!」
あろうことか、教室のドアにあの少女が爛々とした瞳で立っている。
キコはツカツカ、というよりドカドカと私の方に歩いてきた。
私は怯んでしまってただそこに立ち尽くす。
というかここ、先輩の教室なのになんという度胸なのか。
「行きましょう!」
彼女は私の手を握り歩き出した。
「え、ちょっと行くってどこに!?ちょっと!聞いてんの!」
彼女は私の手を決して話さずグイグイと引っ張り歩いていく。
「ねえ私をどこに連れてくつもりなの?ねえってば!」
なんだかんだもう玄関のあたりまで来ていた。
「私ね、ずっと一緒に行きかった所があるの。」
「だからそれはどこなのよ…。」
彼女の強引さに、もう抵抗する気も失せてしまった私は、されるがまま彼女に連れられ歩いていった。
とんでもないのに目をつけられでもしまったようだなと、ぼんやりと考えながら。
…
ここは…
「では早速行きましょうか!楽しみですね!」
キコは目をキラキラさせながら店の中に入ろうとしている。
「ここって…あの」
和菓子屋さん…よね?
「あんみつ、好きでしょう?」
どこからその自信がやってきたの。
…好きだけどさ。
私があんみつが好きなことを知っている人なんて、いないと思ってた。
というかこの子、どうやって知ったのかな。
「ほらほら、行きますよ!」
キコは私の手を引いて店に入っていく。私は久しぶりのあんみつにわくわくしてしまって、抵抗するのを忘れてしまっていた。
ドアは昔ながらな引き戸で、お店に入ると綺麗な鈴の音が響いた。
店内はぽつんぽつんと人はいるけれど混んでいる様子はなく、落ち着いた雰囲気の中にふわりと甘い香りが漂っていた。
私はあまりに久々の和菓子屋さんにそわそわとしてしまい、落ち着きをなくしていた。
他から見たら大分ぎこちなくて挙動不振だったろう。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
「二人です!」
キコの返事はやけに元気が良く、静かな店内に響いてしまって少し恥ずかしくなる。
「そこの席に座らせていただいていいですか?」
彼女は窓際の丸いテーブルの席を指して言った。
「ええ。どうぞ。」
店員さんは微笑みながら私たちをその席へ促してくれた。
すごく、久々の和菓子屋さん。
もう何年ぶりかな…
「あの…まぁちゃん?」
「ひゃっ!あ、うん、うん、なに?」
「座らないの?」
私は大分緊張していたようだ。
お店の真ん中で立ち尽くしてしまうだなんて…
ん?
まぁちゃん?
いま…まぁちゃんと呼ばれた?
「ね、ねえ今あんた…」
「わー!すごいです!本物のクリームあんみつ!
あ、あんこ特盛なんてものまである…!」
彼女はもうメニューに夢中である。
とりあえず私もそそくさと席に着く。
私もメニューを開いてみたものの、まったく頭に入ってこない。
まぁちゃん、と確かに彼女は言った。
それは私の小学生の間までの、両親からの呼び名であり、どんな友達にも亜紀にでさえも、呼ばせたことはない、特別な名前なのに。
しかも不思議なことに、彼女にまぁちゃん、呼ばれた時、不思議と嫌な感じがしなかった。
「決まりました?私、やっぱりね、抹茶クリームあんみつのあんこ特盛にしようと思うんです!ふふふ!」
「え!あ、うん。えっと…」
完全に考え事をしてしまっていて、メニューを全く見れていなかった。
「私は、この白玉クリームあんみつに、しようかな…?」
「……そうですか!」
キコはなんだか一瞬驚いたような顔をして、またいつも通りの元気な返事を返した。
何か意外だったのかな?
本当に変な人。