壊れたとき
そのあとも時は流れて、私は中学生になった。
中学生になれば、周りはみんな誰が誰を好きだの、誰が誰と付き合ってるだのそんなことばかり話すようになる。
背伸びをした子供達の中にはそのうちエッチな話題が混ざるもの。
思春期真っ盛りの中学生の男子はセックスのことを興奮気味に話し、それを見ている女子たちは、男子って本当バカだね!などと言いつつも興味深々であったりする。
しかし私はそんな話題に混ざることが出来なかった。
中学生になって、あまり父が帰ってこなくなった。
母は初めこそ、彼は仕事を頑張ってる、とか、遅くまで大変ね、などと言っていたが、後々彼女は毎晩8時を過ぎると父に鬼のように電話をかけるようになった。
どこにいるの?
なにしてるの?
誰といるの?
なんで帰ってきてくれないの?
彼女の叫ぶような声が家の中で響き渡り、夕飯を私と共に食べてくれることも減り、私はどんどんと一人になってしまう。
それは私を部屋から出ることをためらわせるほどだった。
そんな日々が何ヶ月か続いたある日の夜、私は母の叫ぶ声に目を覚ました。
私はこんな時間に何なんだとリビングに様子を見に伺ったところ、母が父の上に上乗りになり父の胸ぐらを掴み泣き叫んでいる。
私は唖然としてしまい、部屋の中に入ることは出来ずドアを少し開けて立ちつくした。
母が何を話しているのかはよくわからない。聞こえない。
私はその時、この家が壊れてしまったことを痛いくらいに実感した。
そのあとのことはよく覚えていないけれど、私が起きた時には自分自身の部屋の布団の上にいて、夢だったのかと疑ってみたものの父の姿はなかった。
それから私の両親が離婚したのかどうかは知らないけれど、私はあの夜以来父を見たことはないし、気付いた時には家から父のものは消えていた。
しかし家がお金に困っている様子はないから、金銭的援助はあるのだろうと思う。
母は私と話すことは減り、彼女が家に帰る時間もがどんどん遅くなっていった。
はじめこそ作られた夕飯が置いてあったものだが、そのうち千円札が一枚ぽつんと置いてあるだけに変わっていき、必然的に関わりはなくなっていった。
そして最後は今のように、家に男の人を連れ込むようになった。
娘が帰っているかどうかなどもう気にかけることもなく、甘い声で囁きあい、体の関係を築いていく。
中学生、思春期真っ盛りで甘酸っぱい恋をする時期、そして反抗期、
私はそんな時期を母親の喘ぎ声を壁越しに聞いて育つこととなった。
そんな生活が続いた中のとある日、夕方家に帰ってみると母が珍しく一人で寝ていた。
珍しいと思いながら近づいてみると、何ヶ月もろくに顔を見ていなかった母親は香水となにか訳のわからない臭いに囲まれていて、まるで知らない人のようになっていた。
「まどか」
彼女は私の名前を呼んだ。
「…ねぇまどかってば…聞いてんの?」
母の少し苛立った声がまた私を呼ぶ。
しかし私は返事が出てこない。
まどか
まどか
彼女は私をまどかと呼んだ。
その事実は私な音もない声も出すこともない涙をぽろぽろと溢れさせた。
母が母に見えない。
私の家族はどこにいってしまった?
あの暖かかった家族は…
教えて欲しい。
誰か
誰か聞いて欲しい。
一人になってしまったんだ。
誰か…
その後何時間か何分か何秒かわからないくらいの時間を経て、私はようやく口を開くことができた。
私のその言葉はおそろしくも落ち着いていて
「ねえお母さん。
セックスって、気持ちいいの?」
その時が私な誰かの助けを探すのを諦めた瞬間だったと思う。




