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新米(仮)です 015

「深い闇に迷う私を導く銀に輝く十字」


 床に伏していた雫音しずねの目がゆっくりと開いた。そして焦点が定まらない瞳のまま天井を見つめて呟くように言った。

 それはめぐるが雫音の制御結晶体の修復に手を貸した翌朝のことだった。

 ぼんやりと天井を見つめていた雫音の金瞳に、しばらくすると生気が戻ってくる。同時に徐々に覚醒する意識が自然と雫音の体をゆっくりと起こす。


「私の神宿男かんなど……」


 雫音は、一人残されているような不安に、呟きながら辺りを見回す。

 ふと、腹部に重みを感じて視線を落とすと、


「……四季しき…………巡…………四季巡君」


 ベッド脇のイスに座ったまま、自分のお腹を枕代わりに突っ伏すように寝ている巡がいた。雫音は巡を起こさないように優しく、とっても優しく、慈しむように頭を撫でる。


「私……今度は……見放されてなかったのね」


 そんなことを呟きながら。


 浅い眠りだった巡は雫音の心遣いとは裏腹に、頭から伝わってくる心地よい感触に目を覚ました。ゆっくりと頭を上げると、起きしなのぼやけた視界に穏やかな笑みを自分に向ける雫音が映った。


「し、雫音さん? …………どうしてそんな格好してるの」


 雫音が起きていたことと、目覚め直後で未覚醒の意識が記憶の混同を招いたのだろう、いつもなら一糸纏わぬ姿で巡の寝床に夜襲をかける雫音が寝間着を着ているのは何故? と言いたげに巡は首を傾げる。


「あらあら起こしちゃったわね、ごめんなさい」


 そんな巡に構わず雫音が普段と変わらないおっとりとした口調で返す。と、巡がちょっぴり残念そうに、


「いつもの……全……あっ!」


 言いかけたところで、ここが寮の自室ではなく医療施設の一室ということにようやく気付いて言葉を止めた。そして雫音に預けていた体を名残惜しそうにゆっくりと起こす。

 雫音と視線を合わせた巡は、どこか照れくさそうに、それでも安堵の表情を作り、


「……良かった……雫音さん、本当に戻ってきてくれて……本当に……本当に……良かった」


 こみ上げてくる感情を堪えながら声を搾り出した。


「四季君なら、きっと四季君なら、私を――」

「もう二度と……もし雫音さんに何かあったら、俺……泣いちゃいます……いいえ、泣いちゃうだけじゃすまなくなっちゃいます……だから二度とあんなことは……」


 しないで下さい、という前に巡は堪えきれず、堰を切ったように大粒の涙をボロボロとこぼし、雫音の腰を抱き込んで腹に顔を埋めた。

 雫音は、しゃくるように嗚咽する巡の背中を愛おしそうにそっと撫でながら、


「……今度は守ることができたのね。ありがとう四季君」


 遠い目で独り言を呟くように言う。そして巡を包み込むように体を折って、巡の背中に頬を寄せた。




「相変わらず雫音って、男を泣かすのが上手いわね」


 病室の外からガラス越しに巡達の様子を見ていた三月が、とても養護教諭とは思えないほどクッキリとくまの浮き出ている青白く不健康そうな顔に悪戯っぽい笑みを作って言った。でもその言葉は、室内の雫音に向けて言った言葉ではない。


「えっ? 雫音さんは……悪女? なのですか? 三月先生」

「四季なら、あのけしからんおっぱいにコロッと騙されそうだな、ぬはは……ちきしょう」


 見当外れのことを想像した蓮華れんか菜乃花なのかにだった。


 三月が来る少し前、蓮華と菜乃花は、長イスの寝心地の悪さに早くから目を覚まし、巡達の様子をガラス越しに伺っていた。

 雫音が目を覚ました時には、蓮華と菜乃花は揃って喜びの表情を作っていた。しかしそれは長くは続かなかった。雫音の無事に、ほっ、と安堵すると張りつめていた緊張も解かれ、溜め込んでいた心労が寝不足の体を襲った、からではない。

 雫音に続いて目を覚ました巡とのやり取りを見ているうちに、二人の胸中にえも言われぬ敗北感がこみ上げてきたからだった。

 蓮華や菜乃花に限らず神宿女かみやめは、元の世界に神宿男を連れ帰るために『異世回廊いぜかいろうの交差点』に来た。一人の神宿男を巡って、何人もの神宿女が争奪戦を繰り広げる。


 ――これでは雫音さんが一歩リード、どころか十歩も二十歩もリードしてしまったのではないか――


 と、蓮華も菜乃花も不安気な難しい表情にいつの間にか変化していた。


 ガラス越しの光景を見て、肩を落とし項垂うなだれる蓮華と菜乃花から返ってきた見当外れの答えに三月は、小さく気だるそうに笑うと、そうかもしれないわね、と言いながらガラスの向こうへと視線を向けた。

 その視線の先、巡の背中を頬でさすっていた雫音が、ようやくというように三月達の存在に気付いて、少々ばつの悪そうな表情を作り巡に覆い被さっている体を起こす。

 そして、まだ小さくしゃくる巡の背中を左手でさすりながら、穏やかな笑みを三月達に向けて、ただいま、というように空いている右手を小さく振ってきた。

 三月達は、お帰りなさい、というように手を小さく振って返す。

 ハンドジェスチャーだけで無言の挨拶を交わし終えると三月が、


「巡君……いい男よね。うちのかける君は……さてさて、どうかしら」


 口ごもるように言って、蓮華と菜乃花に振り返る。


「じゃあ、雫音の無事も確認できたし、お姉さん行くわね」


 言って立ち去る三月の背中は、どこか物悲しそうだった。

 そんな三月の後ろ姿を見送った蓮華と菜乃花が、ちょっぴり遠慮がちに病室内に視線を戻す。すると雫音が、二人に向けて手招きをした。蓮華と菜乃花は一度顔を見合わせると、小さく頷き合って病室の扉を開いた。




 蓮華と菜乃花が病室に入ると、未だに雫音の腹に顔を埋めて小さくしゃくる巡と、それを優しい微笑みで見守る雫音の姿が視界に飛び込んできた。二人とも一部始終をガラス越しに見ていたから、巡が流した涙の理由をもちろん知っている。しかし外と中を分けていたガラスが一枚無くなっただけで、漠然と感じていた敗北感が決定的になったような気がした。そして、自分がこの場にいても良いのか、と思わず考えてしまった。

 蓮華と菜乃花は、そんな巡に困惑するような、更には男泣きをする巡を優しく受け止める雫音を羨望せんぼうするような、それとも敗者が勝者に向けて嫉妬するような、複雑な感情が入り混じった表情で立ち尽くしていた。


「さあさあ、そんなところに立ってないで座って座って」

「で、でも……」

「なんていうのか……ほら……」


 雫音は、病室に入ったところで突っ立っている蓮華と菜乃花に声を掛けるが、二人は口ごもって返すことが精々だった。

 雫音は、そんな二人の態度に何かを感じ取ったのだろう、巡の耳元に口を寄せると、


「そろそろ顔を上げましょうか、四季君。蓮華ちゃんと菜乃花ちゃんが困ってるわ」


 優しく囁いた。

 巡は雫音の言葉にうながされるまま、ようやくというように涙で目の周りを赤くした顔を上げた。そしてゆっくり立ち上がると、どこかワザとらしく大きなあくびと伸びをして、


「ふぁぁ……大あくびしたら涙が出てきちゃったよ……あはは」


 乾いた笑いとともに、今起きたばかりですよ、とでもいうように、赤く腫れぼったい目を擦りながら蓮華達に振り向いた。

 事の顛末てんまつを知っている蓮華と菜乃花は、それが巡の照れ隠しだとわかっている。寝起きの真似事をしている巡に深くツッコミを入れず、


「あ、ああ、おはよう」

「お、起こしちゃったか」


 少々苦笑いを浮かべて、当たり障りのない朝の挨拶を交わした。

 とはいえ、どこかよそよそしくする二人の態度に気付いた巡は、


「えっと……その……何というのか…………見ちゃってました?」


 問いかけを作りながら、非常にバツが悪そうに目を泳がせた。

 そんな巡の三文芝居を台無しにした蓮華と菜乃花も、どこかバツが悪そうに無言のまま小さく首肯する。

 がくりと肩を落とす巡が、やっぱり見られちゃったか、と呟いていると、


「い、いや、だからな、きょ、今日は疲れただろう。ゆっくり休むといい。そ、それにしてもだな、何だか感動的だったぞ。そう、あたし達も感動した……ぞ。なっ、卯月うづき菜乃花」

「そ、そうだよ、四季はきっちりと役目を果たしたんだし、あ、あたい達だって涙の一粒二粒くらいは……と、とにかくだ、お疲れさん」


 巡を気遣いその場を取り繕うような蓮華と菜乃花の言葉が虚しく病室内に響く。そんな中、巡は気恥ずかしさのあまり崩れるようにイスに腰を下ろした。


 ベットの側まで足を進めた蓮華と菜乃花も、雫音に促されるまま巡と反対側のベット脇のイスに腰を下ろした。しかし先程までの気まずい空気は簡単にほぐれず沈黙が流れる。

 そんな重苦しい時間が十数秒経過した頃、静寂に終止符を打つように、私ね、と雫音がゆっくりと口を開いた。


「――これで二度目なのよね。学習しない私ってもしかしてドジッ娘かしら」


 普段通りのおっとりとした笑みを浮かべる雫音の言葉に気まずい空気が緩んだのか、巡と蓮華と菜乃花はどこか物言いたげな表情でお互いに顔を見合わせる。もちろん、何が二度目、などと聞き返すためではない。二十歳は越えているであろう雫音の実年齢はさておき、『ドジッ娘』という表現について三人は思うところがあったのだろう。


 ――『娘』ねえ……まあ『町娘』的なくくりなら雫音さんもギリギリセーフ……かな? てかさ、あれだけ危険な目にあって『ドジッ娘』とかですます雫音さんって……ホント、その『ドジッ娘』ぶりはもうやめて下さいよ――


 巡は、後の展開を考えると口に出す事ができず胸中に言葉を作った。そして多分蓮華も菜乃花も、同じような事を胸中に思ったのだろう。

 大人の対応をとった巡達の胸中を知ってか知らずか、雫音はおっとりとした笑みを消すと物悲しげな遠い目で語る。


「私ね、前の『執行部』でも制御結晶体を傷つけてしまったの。

 撃退最中にクラスアップした『迫り来る魔』に手こずっているうちに……焦れてね……独断専行で切り込んでいってね……それで……ブスリ、とね」


 雫音は言葉を切ると、大きな溜め息をきながら寝間着をたくし上げた。未だに痛々しさが残る今回の傷跡の側には古い傷跡があった。雫音は、ここよ、と指で示して話を続ける。


「皆は体験したからわかるでしょうけど、『執行部』は七人が揃って十全の力が発揮できるのよね。Sクラス相当の『迫り来る魔』相手に私が欠けちゃったわけだから……『執行部』は私をその場に残したまま敗走。私は運良く後詰めの『執行部』に救われたけれども、船に戻った翌日、私の静的連結は神宿男から切られたわ。その後、制御結晶体の自己修復が終わるまでの一年半、眠ったままだったのよ」


 雫音は再び大きな溜め息を吐きながら、たくし上げていた寝間着を戻した。残念そうな表情を作る巡に雫音が耳打ちで、退院したらゆっくりと、と言ったところで、蓮華と菜乃花のわざとらしい咳払いで遮られた。雫音は、あらあら、と姿勢を戻して話を続ける。


「それは独断専行した私へのペナルティーとして納得できた。でもでもね、その一件で三月ちゃんと十二月ちゃんまで静的連結を解除されちゃったみたいなのね。『過加給かかきゅう領域』を解除された危険な状況下で、撤退する『執行部』の殿しんがりを努めて……結果、制御結晶体を傷つけてしまったのに、修復してもらえなかったらしいの。

 酷い話よね」


 当時の事を思い出してなのだろう、雫音の金瞳にはわずかに怒りの色を灯していた。そんな半ば強制的に同意を求めるような視線を向けられた蓮華と菜乃花は、そうですね、と頷いた。雫音は、それに安堵したのだろう、その金瞳から怒りの色を消し、とは言え、と言葉をつなぐ。


「――全ては私が招いた結果なんだけれどもね、一日も早く元の世界に神宿男を連れて返りたいと思っている二人には申し訳なくてね」


 雫音は言い終えると、三度目となる大きな溜め息を吐いた。


 巡は、シリアスにそしてどこか辛そうに話す雫音の過去語りを、黙って聞いていた。ただ蓮華や菜乃花のように全てにおいて共感はしていなかった。もちろん雫音の言い分はわかるが、神宿女達には、制御結晶体の修復は神宿男の記憶を触媒として劇的に促進される、という事を伝えられていない。『迫り来る魔』との戦闘に悪影響を及ぼす可能性がある、として秘匿事項扱いである。巡も説明を受けた後、かなり厳しく口止めをされている。

 だから事情を知らない雫音が言うように、ペナルティーで制御結晶体の修復を拒んだのはない、と思ったからだ。

 雫音の前神宿男は例え自分が悪者になったとしても、封印されて思い出せない記憶を決して失ってはならない、と言い切れるほど元の世界で過ごした時間に大切な何かを感じて決断をしたのだろう。


 ――羨ましいな――


 と胸中に思う巡は、元の世界の生活に特別な不満があったわけではない。だからといって、充実していて満足な生活を送っていた、とも言い切れない。エリート志向の無い巡には、確固とした目標が無く、ただ、漠然と流れに身を置いていただけだから、不満も満足感も湧いてはこなかったのだろう。もちろん、小遣いが少ない、とか、彼女ができない、とか、テストの山が当たった、とか、ゲームでハイスコアをたたき出した、等々の一般的な男子高校生として誰しもが思うような不満や満足感は持ち合わせてはいた。

 つまりは毎日がおもしろおかしく過ぎていけば良いと思っていた。

 では、おもしろおかしくとはどんな事があったのか、と問われれば返答に困ってしまう。そんな印象も記憶も薄い生活を送っていただけだった。


 ――まあ、それだから俺は、迷う事無く雫音さんの制御結晶体の修復を選択できたわけだし、それはそれで前神宿男が俺を羨むかもしれないけれどね――


 巡は妙な優越感が胸中に思い浮かんだ。


「あらあら四季君、何か良い事でも思い出したのかしら」


 巡の表情が緩んだ事に目ざとく気付いた雫音が声をかけてきた。

 巡は、不意にかけられた言葉に我に返り、どこか胸中を雫音に見透かされたような気恥ずかしさを感じて、


「あっ、いや、その……雫音さんが元気になって良かったなって思って」


 照れを隠すようにちょっぴり視線を泳がしながら返した。

 雫音は、そんな巡を優しく見守るようにおっとりとした笑みを向けて、


「四季君、私を闇から引っ張り上げてくれて、本当にありがとう。あなたが私の神宿男で本当に良かった。言葉では言い表せないくらい感謝してます」


 言いながら頭を深く下げた。

 巡が、


「お、俺、自分のできる事をしただけですし、そもそも雫音さんが皆を守ってくれたんじゃないですか。お礼を言いたいのは俺の方です。と、とにかく頭を上げて下さい」


 言いながら、上半身を折った雫音に慌てて手を差し込み、起こそうとして、


 あん(は~とま~く)!


 雫音が妖しく艶っぽい声を上げた。


「あらあら、やっぱり男の子よね。お礼はこういうのが良いわよね」


 巡は、あっ! 離さなきゃ、と思いつつも雫音の吸い付くような柔らかい膨らみの感触に抗えず、そのまま堪能してしまう。そんな夢見心地の中、耳障りな低い唸り声が届いた。よくよく聞くと、しきめぐるぅぅぅ、とか、しぃぃぃきぃぃぃ、とか自分を呼んでいるようにも聞こえる。

 仕方なく巡はこの上なくだらしない表情のまま、声の聞こえてくる方へ視線を向けた。と、そこには魔界の悪魔も、それこそ恐怖を克服した勇者ですら裸足で逃げ出すほどおぞましい形相の何かが二つあった。


「ひっ!!」


 巡は引きつるような悲鳴とともに、慌てて雫音から手を離し、凶器は隠していません、とアピールするヒールレスラーのように両手を上げて首を振った。


「じ、事故です。ふ、不慮の事故という奴でして……そ、その……決してですね、それが目的ではですね、ござりませんことです、はい」


 慌てふためく巡は、雫音ではなく蓮華と菜乃花に向かって言い訳をしていた。けれども依然として蓮華と菜乃花の怒りの色は消えていない。そこへ、


「蓮華ちゃん、菜乃花ちゃん」


 抜き差しならぬ状況になると颯爽さっそうと現れる正義の味方の如く、スーパーお姉様雫音が登場した。そして名乗り口上の代わりに、


「四季君をもらっちゃっていいわよね」


 とんでもない事を言った。

 蓮華と菜乃花は、何を言われたのかわからない、というようにおぞましい形相から一転、口をあんぐりと開いて間の抜けた表情で、瞬きも忘れて雫音を見つめていた。


「って、お、俺、雫音さんに貰われちゃうの? ぺ、ペットなの? いろんなところをぺろぺろさせられちゃうの?」


 雫音の突拍子もない言葉に蓮華達と同じく、機能を停止していた巡がようやく再起動を終えて言った。


「あらあら、四季君はそういう事がしたいのかしら」


 雫音が視線で蓮華と菜乃花を牽制しながら、巡には穏やかな笑みを見せるという器用な振る舞いで言った。


「まあ……そりゃ……そうかも……ですね」

「でもでもそうじゃないわよ。私が四季君を貰っても、私を四季君にあげちゃうから、四季君は私を好きにしてもいいのよ。それともやっぱり好きにされちゃう方がいいのかしら?」

「……! …………!!」


 雫音の魅惑的な言葉の直撃で、巡の頭の中を、あんな事をしたり、こんな事をしたり、嬉し恥ずかしいけない妄想が次から次へと駆け巡った。

 で……許容範囲を超えた妄想に巡は、だらしない顔のままハングアップ。

 かろうじて動く目が正面に座る蓮華と菜乃花に合った途端、にらみ返され、恐怖のあまり萎えた。

 直後、だん、と立ち上がった蓮華が、巡を睨めつけたまま、


「は、は、破廉恥だぞ四季巡! た、例えだな、お、お前の母親が許してもあたしが許さん!!」


 言いながら、ビシリ、と人差し指を突きつけた。その隣で小さな影がフワリと浮き上がり、


「そ、そうだぞ四季! そんな事をしたら、お前の父ちゃんが羨ましがるだろう!!」


 言いながらやはり、ビシリ、と指を突きつけた。

 蓮華と菜乃花の、どうしてそうなった的叱責に巡が呆気に取られていると、


「あらあら、私でいいじゃない。だってだって、二人は四季君に厳しすぎるわよ。だから甘々の私が丁度良いのよ」


 割って入ってきた雫音の言葉に、蓮華と菜乃花は、うっ、とひるむ。しかしすぐに気を取り直し騒ぎ出す。


「と、とにかくだ。四季巡は、あたしが……あたしが頂く事になっているんだから、あたしをもてあそべばいいんだ。そ、そうだ、それがいい」

「違うよあたいだよ。ほら、し、四季はお人形遊びが好きだろう。だったらあたいを好きにいじったらいいんだよ」

「そうじゃないわよ。四季君はいけない事の方が好きよね。だったら私で良いんじゃないかしら」


 三人の女子が巡の取り合いを始めた。しかもその内容はかなり際どい。

 巡にとっては仮想世界の中だけしかありえなかった、いうなれば夢にまで見た光景だった。しかし現実はそんなに甘ったるいものではなかった。取っ組み合に発展しそうな迫力にたじろぎ、蚊帳の外に置かれて、一人取り残されていた。


「は、破廉恥な行為は……あたしで――」

「そんなのあたいで――」

「いえいえ、私で――」


 気付けば、いつの間にやら大騒ぎ。


「あなた達何をしているのですか! 病室では静かに!!」


 そんな騒ぎに終止符を打ったのは、医療機器の警告音を聞いて駆けつけた医療担当官だった。ドタバタしているうちに雫音からセンサーが外れて誤発報ごはっぽうしていたらしい。

 真面目と定評がある医療担当官は、VIP待遇の巡達にも怯まない。その後巡達四人はたっぷり一時間、こってり油をしぼられた。

読み進めていただき、ありがとうございます。

次話より新章とする予定でしたが最初より見直したく、当話で完結といたします。

物語半ばでの終了、申し訳ございません。

改稿版として新たに掲載した際、またお付き合い頂ければ幸いです。

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