#2 オカルト研究部 活動開始
「紫陽花通りィ?」
「...それ来栖とまったく同じ反応じゃないスか!神寺先輩!」
放課後。現在、部員3人による会議及び審議中。
4階のオカルト研究部・部室から見える空は相変わらずしとしとと泣いている。
じめじめと湿っているこの場所にいると頭の中にカビが生えそうだ。
「興味深いな、それ」
「そうっスよね!そうっスよね!」
「可愛いかな、そのオナゴ」
「きっとベリーキュートっスよ!!」
おいおい。こっちのおふたり様、何やら勝手に盛り上がってる模様。
幽霊に欲情してどうすんだ?何がしたいんだ?この人達は。
3人で使うには勿体ないほどの広い部室。
その真ん中で、1人疎外感を感じていた。
目の前ではしゃぐ港川。
その隣で顎に手を添えて「むぅ...誰似だろうか」と考え込むこの人は、神寺麗奈先輩。
自分より2つ年上の高校3年生。
そして我がオカルト研究部に所属する唯一無二の女子部員兼部長だ。
なぜか可愛い子好きのおじさんのような方であらせられる。
しかしその姿たるや、まるで幽霊の如く白いやわらかそうな肌の持ち主だ。
長い睫毛に肩まで伸びた艶やかな黒髪、整った鼻梁。
『可憐』というに相応しい華奢な身体つきをしているのにも関わらず中身は変人という、なんとも興味深い人なのだ。
「おい!ナツ!」
神寺先輩の声で意識が現実に引き戻される。
声の主は、俺の方を睨みながら頬杖をついていた。
「な、なんですか?てか、そのナツってやめてくれません?女みたいなんで」
「君も行くんだろ?早くいこーぜ!ナツ」
「ナツじゃないです、夏斗です」
この人俺の話聞いてないな。俺も聞いてなかったけれど...。
もう何度言ったかもわからない自分の名前を再度認識してもらう。
...おそらく無駄な努力だろうが。
神寺先輩と港川は既に鞄を持っており、ドアへと歩き出していた。
その後ろ姿を追うようにして、俺も2人とこの部屋を出る。
たとえば果てしなく続く俺の人生にスイッチがあるとして。
俺の生き方が切り替わったのは、たぶん、この時だ。
「...そんじゃ、行きますかね!来栖!神寺先輩!」
港川がおどけたように笑う。
暗く淀んだ曇天の下。
この雨は、いつか止むのだろうか。
そんなことさえ考えてしまうほど、水無月の空は冷たくて。
梅雨の涙を受けながら、俺達は学校を後にした。