#1 港川の聞いたウワサ
「紫陽花通りィ?」
「うん、ホラ!あの赤いレンガの喫茶店があるとこ」
正午。空腹を満たす弁当タイム。
ミニトマトを箸で挟めず悶々としていた時、向かい側でおにぎりを頬張っていた港川祐介が可笑しなことを言い出した。
「どうせ噂だろ?」
「ほんとに出るんだって!赤い傘のユーレイ!女の子の!」
「うわぁ、なんかうさんくせーな...」
「そういうなって来栖!すっげぇ気になるだろ?だろ!?」
大きい声を出すな。咀嚼したものが飛ぶだろうが。
...ほら、やっぱり飛んだ。
まったく汚いな。
「それ誰から聞いたんだ?」
「もう学校中で噂になってるよ、幽霊が出る紫陽花通りって」
「うーん...」
「だからさ、今日行こうよ!来栖と俺と神寺先輩の3人で!」
川端高校。1年A組。
梅雨入りしたばかりの黒と白をない交ぜにしたような空を眺める。
じめじめとした蒸し暑い教室の中で、港川が一際強い熱を放っていた。
5月からオカルト研究部に所属することになったその日、俺はこの港川と出会った。
第一印象は、不良。
まさしくその言葉がぴったりと言えるほど、港川は厳つい風貌をしていた。
金に近い茶色の髪に、ピアス。
周りの皆が萎縮してしまうほどの鋭い目付き。
実際は不良なんてものとは程遠い、天然で気の良い奴なのだが。
そして、オカルトを語らせると右に出る者はその饒舌っぷりに怯えてしまうほどの怖いもの好きだ。
肝っ玉が座っているということなのだろう。
俺はというと、もともと幽霊部員になるつもりで入部したのがいつのまにか港川に連れられ、活動に参加させられるようになっていた。
...オカルト研究部の幽霊部員ってなんか馬鹿馬鹿しいな。
「とりあえず、放課後は部室に集合な!」
また、めんどくさいことに巻き込まれることになりそうだ 。
水無月。
赤い傘をさした少女の幽霊、か。
はっきりいって俺は幽霊なんて信じてはいない。
部活だって、一番活動していなさそうなオカルト研究部を選んだのに。
どうしてこんなことになっちまったんだろう。
後悔したところで、俺は“オカルト研究部”の一員なのだから、参加するのは当然のことなのだろうが。
「はぁー...めんどくせ」
さっさと噂がガセだと決定付けて終わりにしよう。
弁当タイムの終わりを告げるチャイムが、校内に響いていた。