実習生観察雑記 5月23日
今日は理保が美化委員会だから昼は暇だ。いつもは食堂に行くけど、昼を食べるだけなら教室で十分間に合う。
美化委員といえば6組のもうひとりの委員はクラハシだ。クラハシとは同じクラスになったことがないからよくわからないけど、理保のびっくり発言も余裕で受け流すあたり、将来は意外と大物かもしれない。
前にクラハシには理保が6組で「妹または姉にしたい女子ナンバーワン」だとかいう面白い話を教えてもらったので、お礼に理保が提唱する周期的モテ期というやつについて話しておいた。
「ナンバーワン」も「周期的モテ期」も、どっちも根元はおんなじだ。
要するに、理保はかわいいけど変、ってことだ。
理保は見た目かわいい。160cmに少し届かないほどの身長に、華奢と表現してもいい細身の体。目は大きく、くっきりとした二重で、寝不足のときは一重になる。いつもは肩まで下ろされている髪はしゃらりと動くたびに揺れて、まとめ上げたときに覗く首筋はとてもきれいだ。だいたい行動はのんびりしていて、失くしものをしたときも大して慌てない。黙っていれば申し分のない優等生だ。
でも、見た目を補って余りあるくらい未解明な部分が多いので、そばに置きたいが恋愛の相手にはちょっと、というポジションだ。そんなあなたにナイスアイディア。姉か妹ならいいじゃん。ってわけで「ナンバーワン」なんだろう。
「周期的モテ期」についても同じことだ。
モテ期はたぶん周期的にはならない。いや、周期的にあったとしても定期テストやバレンタインのたびにモテ期がくるなんていう短いサイクルはないはずだ。周期的モテ期なんてものがあるとすれば、それはただの発情期だと思う。ま、これは理保には言ってないけど。
理保の場合は発情期じゃないけど、「周期的」だっていうのは理保の思い込みってわけでもない。定期テストのときに人気が出るように見えるのは、テストとかの共通の話題があった方が会話が普通に進むからだ。
世間話を始めようとすると、「爪に半月がないと病気になりやすいってほんと?」とか「殻付きで売ってるホタテ貝って、殻がチョークに利用できないからもったいないよね」とかいう話題が飛び出してくるから長く続かない。
あと、理保にノートを借りる人が多いのは、理保が人に教えるのは向いていないからだ。「私は結構フィーリングで解いてるから、説明下手だよ」と理保本人も言っていたが、フィーリングどころじゃない説明で、聞く人を路頭に迷わせる。
「平家物語の敦盛の段に、『泣く泣く首をぞかいてんげる』ってあるよね。『ぞ』っていう係助詞がないと、係り結びがなくなるから、『首をかいてんげり』になるんだよ。というわけで、係り結びの法則には注意してね」(なにが「というわけで」なのか意味不明だ。なんでわざわざそんな例をもってくるんだ。首を回転蹴りって……なにその恐ろしい光景。首サッカー?)
「ブループリントは青写真だけど、ブルーフィルムはピンク映画だよ。訳すときに気を付けてね」(何をどう気を付ければいいんだ。ていうか教室で気軽にピンク映画とか言うな。周りの視線が痛い)
そもそもそれ説明じゃないだろ、というような話が延々と続くので、真面目にテスト勉強をしたい人はノートを借りていく。ありがたいことにノートは普通だ。
ま、人気にもいろいろあるってことだろう。でもあたしは、それは違うと思う。理保は変だから楽しい。
そばで理保がほけっとしていてもそれはそれで和むけど、観賞用にはもったいない。ばんばん使ってどんどん理保で、じゃなかった理保と遊ばなくちゃ。
理保がいなくて暇だからスーツ男でも構おうかと思ったら、さっさと6組に逃げ込まれてた。教室の外からじっと見つめると、絶対こっちに顔を向けようとしなかった。
ち。警戒されたか。やりにくくなるな。
没タイトル。
「黒板消しとピンク映画」




