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黒板消しと国語教師  作者: 草苅晏
黒板の裏側
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実習生観察雑記 5月21日

 今日もにっこり笑顔でスーツ男を第二体育館に連れていく。手順は前回通り、ギャラリーの数は前回より多めだ。

 第二体育館の一階はバドミントン部とバレー部、二階というか天井裏みたいな部分は卓球部が使っている。今日は、卓球をのときよりも場所は広いので、ギャラリーの人数が増えても余裕だ。

 今日はバドミントン。卓球より運動量多めだ。あたしはそんなに得意じゃないので、さっさと見物に回る。


 バドをやってるスーツ男を観察する。

 体にぴったり合った細身のスーツは、ついスーツ男って呼びたくなるくらいにはよく似合う。動くたびにさらりと揺れる髪はときどき眼を隠して、そのたびに整えられた隙のない様子が少し崩れる。下半分にだけフレームがついた眼鏡も、バドくらいの運動には邪魔にならないみたいだ。長い手足を持て余すことなく、シャトルを打っている。

 普通にかっこいい。むかつく。

 なんでわざわざ昼休み潰して観察してんのにこんな見た目よし運動神経よしみたいなつまんねー部分を見せられなきゃいけないんだ。

 ボロ出すならさっさと出せ。

 あたしは嫌なことは徹底して嫌だし、つまらないことに長々とき合うほど辛抱強くない。


 スーツ男から意識を離すと、体育館のバドミントン用ネットを張っていない反対側、スーツ男とは関係なく円陣バレーをやってる男子の会話が耳に入ってきた。

「そういえば最近さ、女子の間で大縄が流行ってるだろ? 8の字とかやってるうちにいつの間にかひとり増えてるんだって。病気で死んだこの高校の生徒が混ざってるとか」

 なにその噂。運動音痴じゃないかもしれないスーツ男よりおもしろいかも。ベタな怪談だけど実際あるなら確かめたい。大縄ってほんとになんで流行るのか謎だし。

「こわっ。それほんとかよ?」

「嘘」

 嘘かよ。つまんねー。

「嘘っておい」

「今日は旧暦のエイプリルフールだから」

 もうひとりの男子が会話に入ってくる。

「あー、知ってる。2年6組の実習生が始めたっていう」

 なんだそれ。2年6組の実習生ってスーツ男じゃん。

「2の6は担任も嘘ついたらしいよ」

「それ嘘だろ」

「いや、これはほんとだって」

 そのまま会話はぐだぐだになっていく。

 へー、旧暦エイプリルフール、ね。旧暦って目のつけどころが意味不明だ。意味不明すぎて理保っぽい。なんでスーツ男はそんなこと考えついたんだ。やっぱ変人のにおいがする。


 そのうちスーツ男がコートから出て、近くの生徒と交代する。

 ま、もういっか。バドもできることはわかったし、これ以上見ててもつまんないし。

 コートから出たスーツ男に、ジャージ姿の男が話しかけている。確か2組の実習生だ。物理の授業で見かけた気がするので、なんとなくわかる。

 ここからだと話が聞こえないので、そばに近付くといきなり2組の実習生がスーツ男にがばりと抱きついた。

「佑介、愛してるよ。嘘だけどねー」

 これも旧暦エイプリルフールってやつか。

「黙れカモ」

 スーツ男はどんっと相手を突き放し、冷たい目を向ける。

「カモ言うなって。だいたい何だよ、この嘘だらけの状況。自虐プレイ?」

「うるさい」

 溜息をつくスーツ男。

 

 スーツ男はやたらと邪険だ。いつもの静かで整った態度じゃない。これはこれでおもしろい。

 自虐プレイ? 何が? 嘘が? スーツ男否定しなかったし。

 へー、自虐かー。

 そっか、自虐趣味ね。その線もありか? 運動は得意だけどあえてスーツという縛りを加えることにより自分に試練を与える、みたいな。

 ……微妙。この仮説はなんか微妙。これはないか。運動音痴っていう方がまだ説得力あるし。だいたいあたしが誘わなければ卓球もバドもやってなかったわけだし。

 じゃあ何が自虐なわけ? 話の流れからすると、「嘘だらけの状況」ってことになるけど、なんでなのか謎だ。

 ま、もうちょっと観察続けてみるか。明日はバスケでもやらせてみよっと。





 放課後の部活では、理保はものすごく疲れた顔をしていた。一日中続いた嘘に辟易しているらしい。

 めずらしい。「合コン」は合唱コンクールの略だとかダイが天使だとかいう大嘘を放置してるくせに、なんで普通の嘘に弱いんだか。

 追い打ちをかけるとうつろな目をした。ま、ここまででやめておくか。

 日頃ぽやぽやしてるくせに、理保は結構打たれ弱いから、追い詰めない程度に楽しむくらいがちょうどいい。





 命題:スーツ男は運動音痴か。

 反例その2、バドミントン。


スーツ男自虐趣味説の浮上と否定。

観察続行。

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