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黒板消しと国語教師  作者: 草苅晏
黒板の裏側
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実習生観察雑記 5月18日

伊東直子視点のスーツ男と周辺の適当観察記録です。

あくまで雑記です。

 科学者のすなる観察といふものを我もしてみむとてするなり。


 はい、やめた。

 あー古文やってらんねー。スーツ男が国語担当だからちょっと無理してみたけど、あえなく挫折。


 あの理保が変人だという6組の教育実習生、名前なんだっけ。ま、いっか。

 コードネームスーツ男の詳細観察を開始する。

 スーツだからスーツ男っていうのは、包帯ならミイラ男なんていう呼び方よりよっぽど単純明快だとあたしは思う。呼び方なんてわかりやすさとインパクトが勝負だ。



 さて、ここに取り出したりますは、スーツ男の個人情報。

 芳賀佑介、21歳、身長181cm、体重不明(最近測ってないらしい)、S大学文学部国文学科在学、自動車普通免許所持、彼女所持せず。普段は一人暮らしだが、実習期間中は実家から通う。趣味特になし、性格不明だが聞き上手、男女ともに人気あり。


 へー。

 観察に先だって、下調べのようなものをしてみた。噂話だけだが、結構わかっている。

 なんか適度に真面目な感じがうさんくせー。

 観察に予見は邪魔なのはわかってるけど、理保が変だって言うなら間違いなく変人だ。


 理保は自分のことを隠れ人見知りだと言うが、半分間違っている。

 よく知らない人相手に緊張すると変な話題になるんじゃない。いつも変な話題だけど周りが勝手に慣れるだけだ。

「オクラは英語でイクラはロシア語だよ」(だからなんだ。わあそっかーサクラは日本語だねーあははー、とか返せばいいのか。それともイクラちゃんにはロシアの血が入っていると言いたいのか)

「孔子って訓読みするとアナゴだね」(それがどうした。なんでわざわざ訓読みなんてする必要があるんだ。アナゴが食べたいのか? それともマスオさんの同僚のアナゴさんと何か関係が?)

「この前こっそり各クラスの黒板消しの数を確かめたんだけどね、一番多い3年4組が8個もあるのに直子のクラスなんて2個しかないんだよ。これって生徒会に投書した方がいいかな?」(知るか。黒板消しの数よりあんたの行動の方がよっぽど問題だ。こっそりっていったいいつ調べたんだ。暇人か。と思ったら土曜に学校でやった希望者対象の模試の休み時間にうろちょろして調査したらしい。模試の合間って、なにその余裕。ていうかやっぱ暇人)

 ……なんていう各種反応に困る発言を生み出すことにかけて理保はツワモノだ。

 だから、理保に変と言われる人は絶対変だ。観察して損はない。


 昼休みの卓球場。

 理保の発言を思い出すのは、あたりにばらばらと転がっている卓球のボールのせいだ。

 1年のころ体育で卓球をやってた理保は、しみじみと「卓球のボールって海亀の卵みたいだよね」と呟き、近くにいたダイ(自称天使の宮口大成)を巻き込んで白とオレンジとどっちがより海亀の卵に似ているかの論争を繰り広げていた(理保は白派、ダイはオレンジ派)。あたしとしては、オレンジ色は金柑だと思うので、かろうじて白派か。

 いや、どうでもいい。そもそもなんで海亀。

 どうでもよさすぎてかえって記憶に残ってんのがむかつく。


 で、なんで卓球場にいるかといえば、スーツ男の観察のためだ。

 スーツ男が毎日スーツなのは、運動音痴を隠すためである。

 さて、この仮説は真か偽か。

 ま、この仮説自体「運動音痴」の定義抜きにはどうにもなんないんだけど、それは放置。


 ここでちょっと言い訳みたいなもの。

 観察するときは、介入を最小限にするのが理想である。

 そう個人的には考えている。つまり傍観者に徹しろってことだ。

 とはいっても、あたしの存在はどうしてもスーツ男に影響を与えてしまう。同じ高校の校内にいるんだし、それはしょうがない。

 ってことで開き直って観察に徹することなく介入もしちゃうことにする。ここまでくると観察っていうより実験だけど、ま、いっか。

 大事なのは仮説の真偽だ。


 教育実習生の溜まり場になっているのは、職員室の隣にある、普段は未使用の会議室だ。

 昼休みが始ってからできるだけ早くスーツ男を待ち伏せし、会議室の手前で捕まえた。んでそのままにっこり笑顔で有無を言わせず、第二体育館の卓球場に連れてきた。ちょろいちょろい。

 意外じゃないけどスーツ男にほかの生徒もついてきたので、狭い卓球場はぎっしりだ。結構暑い。

 別にそこまでやりたくはないけど、いちおう連れてきたのはあたしなので、肩慣らし程度にスーツ男と打ちあってみる。これ海亀の卵だったら割れてるよな、と白い球にラケットを当てながらふと考えてしまうのが自分で嫌だ。

 かっ、かっ、と軽い音がして、白い球が卓球台を行き交う。あたしは授業でしか卓球経験はないが、まあまあ続く。

 打ち合いながら観察する。

 ……そこまであからさまに下手じゃない。

 あーつまんねー。しかも上着を脱がないあたりが余裕っぽくてむかつく。

 とか思ってたら球を取り損ねたので、卓球部の女子に場所を譲ることにした。

 引き際が肝心、観察のための介入は最小限に。ま、いまさらだけど。


 あ、そういやスーツ男ネクタイしてない。卓球台の横から見ていると気付いた。

 昨日からだったっけか。理保に黒板消しとおそろいとか言われたせいだとしたら笑える。理保の発言ってときどき破壊力あるし。ちょっと納得。

 昼休みが終わるまでスーツ男は相手を変えたりペアを組んだりして卓球をやっていた。で、あたしはそれを観察していた。

 

 結果。

 命題:スーツ男は運動音痴である。

 反例その1、卓球。


 ま、これはこれで興味深い結果だ。

 スーツ男は、結局卓球部の男子部員が相手になるまでスーツの上着を脱がなかった。卓球は、できる。

 でもほかのスポーツはどうだろう?

 よし、今度はバドでリベンジだ。

 

番外編らしきものを始めてしまいました。

ぽつぽつ更新します。

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