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5月31日 木曜日  黒板消しと白うさぎ3

「理保もガキのころ聞いただろ」

 十二支の順番の話とかと一緒に、と宮口くんはもうひとつブドウ糖の包みを開けつつ言う。

「うーん、聞いた気もするけど……よく覚えてない」

「マジで覚えてねえの?」


 仕方ねえな、話してやるよ、といささか得意げに宮口くんは語り出す。

「天使が貧乏人のカッコして森に来て、腹へって死にそうだからなんか食わせろって頼むんだ。猿とか狐とかは豪華なごちそうを見つけてくるけど、うさぎには食わせるもんがない。だから、自分を食えと言って火の中に飛び込んだ。それに感動した天使がうさぎを月に送ったんだとさ」

 おぼろげながら話の輪郭を思い出す。

 でも、気になるのは。

「それってほんとに天使だったっけ?」

 天使じゃなくて、カミサマとかそんなもんじゃなかったんじゃないか。

「そうそう天使。ま、そういうふうに人を試すのが天使のお仕事の一環ってわけ」

 うさぎは動物だけど、と遠慮しつつ引っ掛かった部分を指摘すると、人も動物も試すんだよ、と訂正してくれた。意外と律儀だな、宮口くん。

「ほら、よくいってるだろ、『人を見たら天使と思え』って」

 ほら俺天使だし、親切にしたり食い物恵んでくれたりするといいことあるかも、と宮口くんはブドウ糖を握った手を軽く振ってみせる。

 結局それが結論なのか、と呆れつつも結構楽しんでいる自分がいる。まあ、ブドウ糖くらいじゃ月には行けないだろうけれど。


 でも、生きたまま火に飛び込むってことは、と気付いたことを尋ねる。

「血抜きもしない肉じゃおいしくないんじゃない?」

 血抜きをしないと生臭くなってしまうはずだ。

「まずそこかよ。貧血になったら自分で動けないだろ」

 まあ確かにそうかもしれない。動けないと火に飛び込めない。

「それに動物の肉って熟成させた方がおいしいっていうし。ほら、この前の家庭科の授業で」

 魚は新鮮なうちがおいしいが、肉をおいしく食べるにはある程度の熟成期間が必要だと習った記憶がある。

「そこはうさぎの心意気汲んでやれよ」

 心意気を汲んでやれ、ってなんというか人情家の親分みたいな言い方だ。

「うさぎだって、どうせ食べられるならおいしく食べてほしいんじゃないかな」

 うさぎの立場に立ちつつ反論してみる。

「腹減ってりゃなんでもうまいんじゃねえの? 学食の油揚げが甘すぎるきつねうどんでも」

 もごもごと小さく宮口くんの口が動く。

「今ブドウ糖でも、って言った?」

 勘がそう告げている。

「……言ってねえよ」

 否定が弱々しい。図星か。

 人にたかっておいて厚かましい天使(自称)だ。

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