5月31日 木曜日 黒板消しと白うさぎ2
「あー腹へった。理保なんかくれ」
昼休みが始まって早々、宮口くんが後ろから声を掛けてくる。
クラス替えしたばかりのままの席順、つまり出席番号順の並びになっているので、「宮口」くんは「宮内」である私のすぐ後ろの席だ。
振り返らずに答える。
「自分のお弁当があるでしょう」
「ない。もう食った」
「もうって……」
早すぎないか。体を後ろにひねり、宮口くんの方を向く。
直子が来るまで宮口くんと話していることにしよう。
昼休みには、一緒に食べられるときには直子が5分以内に迎えに来て、連れだって食堂に行く。5分経っても直子が来なかったら、勝手に教室で食べ始める。暗黙の了解だ。
「今日移動教室なかっただろ? 早弁しやすくて」
2時間目の芳賀さんの研究授業を含め、今日の授業はみんなこの教室で行われた。確かに休み時間のたびに後ろで何か食べているのはわかったけれど。
「だからって全部食べなくても」
木曜はいつも早弁というわけじゃないのになんで今日に限って、という思いを込めて言う。
「そういう気分だったし」
あっけらかんと宮口くんは言い放つ。
「ブドウ糖しかないよ」
弁当の入った手提げ袋をごそごそ探って、四角いビニールに入った角砂糖のような包みを引っ張り出す。
以前生物の先生が「ブドウ糖は摂取してすぐに使えるから非常食としてふさわしい」と雑談交じりに語っていたので、何かあったときに備えて常備してある。
「飴とかチョコじゃなくてブドウ糖って……」
まあもらうけど、と宮口くんはビニールを逆さに振って、出てきた包みを5個ほど片手で受け止める。
「さんきゅ」
ビニールを私に返すと、宮口くんはひとつ包みを開けて砂糖の塊を口に放り込んだ。あー、甘さが五臓六腑に沁みわたる、さすがブドウ糖さまさま、と大袈裟に感想を漏らす。なんとなくブドウ糖が馬鹿にされている気がする。いや、気のせいだろうな、うん。
「理保は死んだら月に行けるかもな」
ブドウ糖を味わいながら、不意に宮口くんはそう口にする。
「え? 何の話?」
「月にうさぎがいるわけ、知らねえの?」
まるで知っているのが当然だというように問い返されてしまった。
もしやこれが彼の話していた「共通の認識」というやつだろうか、とちらりと思う。




