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5月29日 火曜日  黒板消しと青二才2

「え? じゃんけん?」


 倉橋くんは首をかしげる。

 敵が油断しているときが勝負のチャンスだ。

 教壇の窓側の端に倉橋くん、廊下側の端に私が立っている。

 いざ勝負。

 出さなきゃ負けだよ、じゃーんけんぽんっ、と指を2本立てた右手を突き出す。事態がよくわからないという表情のまま倉橋くんは握りこぶしをためらいがちに出していた。


 私はチョキ、倉橋くんはグー。

「負けた……!」

 右手をほどく。

「勝った……?」

 なぜかちょっと疑問形で、倉橋くんは腰のあたりで曲げた肘の先にある、握られたままの自分の手を見つめている。

 なんで嬉しそうじゃないんだ、倉橋くん。苦難というか棚ぼた的勝利の末に黒板消し掃除を手に入れたというのに。

「今日のところは譲るから」

 潔く負けを認めるつもりなのに、未練がましい言い方になってしまった。

「譲るって何を? だいたいなんでいきなりじゃんけん?」

 構えていたこぶしをようやく下ろして、倉橋くんは問う。わかっていなかったのか。


「倉橋くんも、黒板消しの掃除がしたいんだよね」

 だから放課後来たんでしょう、休み時間にはなかなかできないもんね、黒板消しクリーナーだとすっきりしないしね、と黒板消し掃除の先輩としての理解を示しつつ、倉橋くんに向かって重々しく頷く。

 美化委員なら誰でもやってみたいはずの、黒板と黒板消し掃除。

 黒板からチョークの跡を消し、黒板消しからチョークの粉を吐き出させる。今日一日、ホタテ貝からできた筆記用具で積み重ねられた記録を、完全にリセットする行為。いや、ホタテ貝は関係ないか。

 とにかく、やってみると結構はまるのだ。毎日やっても飽きないくらいに。


「前も言ったけどさ、違うから」

 困ったように眉を下げて、倉橋くんはふうっと息をつく。違うって何が?

「黒板関係については理保ちゃんに任せることになってるし、不満はないよ」

 不満はないのか、よかったよかった。


 でも、それなら。

「なんでいるの?」

 遅きに失した感のある問いを投げかける。

 これだよ、と倉橋くんはじゃんけんに使ったのとは反対の手を、胸の前にあげた。

 その手に白いものがあるのに初めて気付く。ぴらぴらと片手に持っていたそれを振って見せつつ、倉橋くんは告げた。

「掃除用具の点検。これ提出するの明日だったんだよね。忘れててさ」

「……そういえばそんなのあったね」

 確かに先週の委員会でそんな紙を渡された記憶がある。黒板と黒板消しの清掃意外はノータッチだったから、そんな雑務があったことをすっかり忘れていた。


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