5月16日 水曜日 黒板消しと赤の他人6
私が口に出した言葉は、私のものじゃない?
なんだ、それ。
いきなりの発言に、混乱する。
「なんですか、それ」
「話し手がどういう意味で選んだ言葉だろうと、解釈は受け手に委ねられるんだ。自分の発言に責任をもて、とよくいわれるが、できないことの方が多い。自分の手を離れた言葉はすでに自分の意図から離れ始めているんだ」
ああ、そういえばこの人国語科の教育実習生だったな。話し手だの受け手だのというとややこしい話を聞きつつ、それを思い出した。担任が国語科だから当たり前といえば当たり前だけれど。
わかったような、わからなかったような。
首をかしげつつも、とりあえず反論してみる。
「解釈しようとするから間違うんですよ」
そのままでいいのに。理由なんて、見つからないことの方が多いのに。
自分でもわけのわからないことを言ってしまったときに、相手にあれこれ解釈されたのではたまらない。
「解釈しなければ、理解できない。理解しなければ、なにも伝わったことにならない」
「伝わりますよ。とりあえず何かは。そのまま素直に受け取っておけばいいんです」
素直にわーい黒板消しとネクタイがおそろいでなかよしだーと思っておけばいいのに。うーん、ちょっと無理があるか。
「解釈を諦めることは、わかろうとする努力を放棄することだ」
「結果が間違っているなら、解釈なんかいりません」
嫌味として受け取られるくらいなら、私の言葉はそのまま放っておかれればいい。
というか、これってそういう話だよね?
黒板消しとネクタイがおそろいだという私の微妙な発言を、嫌味として解釈しないでほしいという。
いつの間にか、わけのわからない抽象的議論に陥ってしまっているではないか。
だからよく知らない人と話すのは嫌なんだ。
助けて、直子。
このわけのわからない会話をどうにかして。
この人にも、黒板消しでなく麩菓子の話をした方がましだったかもしれない。
そういう問題じゃないか。