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5月28日 月曜日  黒板消しとブラックマンデー1

 鎮まりたまえ、止動方角。
















 月曜日は憂鬱だ。

 もちろん朝も憂鬱だが、今日の場合放課後はそれを上回る勢いで、お先真っ暗と表現するのがふさわしい。

 恐怖だ。恐慌だ。


 朝のショートホームルームからずっと、彼の方に視線を向けないよう心がけた。

 目を合わせたくない。だってこわいんだもん。いやほんとに。

 といっても、さすがにあの「本気の冗談」を週明けまで引きずるほど、私も非現実的ではない。いや、確かにあのときは世界が崩れたかと思うほどこわかったけれど。

 あれは芳賀佑介監督兼演出兼主演による放課後恐怖劇場だ、と今では割り切っている。つまり彼なりのエンターテイメントなんだ、たぶん。かなり趣味が悪いけれど、きっとそうだ。本人も冗談だと言っていたし、それを受け入れないほど私は狭量ではないはずだ。


 では何がこわいのだろう、と。

 週末、睡眠に逃げる代わりに考えてみた。

 導きだされた答えはは、彼のことがわからない、と感じてしまったこと。

 わからないからわくわくするのと同じくらいに、わからないことは恐ろしい。だから私の非日常への憧れは、ずっと「憧れ」のままなのだ。

 あるべきところから離れるのが憧れの語源だ、と彼は言った。私にとっては、近付きたいという気持ちが憧れだ。

 近付きたくて、でも手に入れたいとまでは思わない。

 近付きたくて、でも近付くのがこわい。

 だから私は、金魚掬いはしなかったのに。

 


 2時間目の授業が終わると同時に、5組と6組の女子がぞろぞろと移動する。3時間目は体育だ。

 女子更衣室として使っているのは、少子化のためか使われなくなった旧9組の教室だ。ちなみに男子はそのまま教室で着替える。

 ああ今日も黒板が消せなかった、4時間目も教室で授業なのに、と少し未練がましく体育着の入った袋を手に廊下を歩く。

 ここで注意しなければならないのは、未練があるからといって振り返ってはいけない、といことだ。振り返ってしまうと、私が未練のあるのは黒板でなく男子の着替えだというはなはだしい誤解を呼ぶ。

 体育なんて4時間目がいいのに、そうしたら黒板だって満足のいくまできれいにできるのに、と未練を前に向けて旧9組に行こうとしているところで、わざわざ1組の方からやってきた直子に声を掛けられた。

「理保、今日早弁しといて」

 それだけだから、と直子はすぐに踵を返す。

「え、なんで?」

「昼は忙しくなるから」

 そう答えて、じゃ、よろしく、と直子は軽やかに駆け去って行った。


 なんだろう、と少しの間その場で首をかしげていたが、休み時間は短いのでさっさと旧9組に向かうことにする。

 直子が唐突な言動をするのは、中学時代から変わっていない。

 直子には逆らわない。別に逆らえないというわけではないが逆らわないほうが無難だ。

 しかし、と着替えつつ考える。

 弁当を食べるチャンスは3時間目の体育が終わったあとの休み時間しかない。10分しかない休み時間に黒板を消して弁当を食べることになると、着替えは諦めた方がいいな。

 この高校では、登下校さえ制服ですれば、校内では制服でも体育着でも構わないことになっている。だいたいの生徒は、体育がある日は着替えたついでに一日中体育着で過ごす。

 私は制服の方が好きなのだけれど。

 まあいいか。直子に逆らってまですることではない。

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