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5月25日 金曜日  黒板消しと金魚掬い1

正体を見破る方法はふたつある。ひとつは名を暴くこと。

そしてもうひとつは。

















「なんかさ、最近スーツ男に避けられてる気がするんだよなー」

 部活の合間に直子がこぼす。

 20人程度の部員が思い思いのことをする休憩時間は、ただでさえ手狭なこの教室がかなり窮屈に感じられる。


 合唱部の活動は、微妙に面積の小さい第二音楽室で行われる。

 第一音楽室はといえば、音大に進学希望の生徒の個人レッスンや、吹奏楽部のパート練習などに使われている。

 合唱部は、共学の高校なのに男子部員がいないのに加え、コンクールにしても「参加してみると楽しいよね」という気楽なスタンスの部活のため、ほぼ実績はない。

 それでも、文化祭での発表やコンクールへの出場に加え、「学校の式典の際に校歌の二部合唱の下のパートを歌う」というたぶん部員と顧問以外の誰も気付いていない使命など、やることは多いのでなかなか忙しい。


「昨日もだけど、今日も昼休み捕まらなかったし」

 直子が呼ぶところのスーツ男とは、わがクラスの教育実習生である芳賀さんのことだ。

 昼休みなんかさっさと6組でバリア作るか逃げるかされてるし、なんかもうめんどくさくなってきた、と直子は投げやりに言う。

 ここしばらく昼休みの間、彼が6組、つまりは私のクラスで生徒に囲まれて過ごしていたのは、やはり直子から逃げおおせるためだったらしい。

「それにかなり観察してたけど、特に変なところないし」

 つまんない、とぶつぶつ文句をつける直子に、意見してみる。

「そうかな? かなり変わった人だと思うよ」

 変わっていなければ、毎日放課後に来て私とよくわからない会話をしたりはしないだろう。

「やっぱ理保もそう思う? どことなくうさんくさいんだよね。あ、でも2組の実習生がスーツ男と同じ大学らしいから、今度話してみよっと」

 私の言葉に頷くと、直子はうきうきと来週の予定を立て始めた。


 教育実習生はクラス担任ひとりに対しひとりずつついている。クラスは一学年当たり8クラスあるから、全部で24クラス。教育実習生は15人くらいだから、当然いないクラスもある。

直子は1組で担任は数学、2組の担任は物理の担当だったはずだ。

「何を話すの?」

「そりゃもちろん、スーツ男はなぜスーツなのかについて」

 当然だという口ぶりで直子は述べる。

「直球だね」

 というかほかに話すことないのか。


 ふと思いついたとでもいうように、直子はそういえばさ、と声を上げる。

「理保だけだよね。スーツ男が変人だって言ってるのは」

 直子は少し考えるそぶりをし、ぱっと顔を上げた。短い髪が顔の横で元気に揺れる。

「わかった! つまりは理保と一緒にいるときのスーツ男が変なんだ」

 なんだ簡単じゃん理保をエサにすればいいだけか、と直子が物騒なことをやけに楽しそうに呟く。

「よっし、来週こそスーツ男が変人だって証明してやる」

 スーツ男運動音痴仮説を諦めたかと思えば、今度は新たにスーツ男変人仮説が浮上してきた。


 なんとなく来週が不安になってくる。

 暗雲が立ち込めてくるというほどではなく、小雨がぱらつく今日の曇り空くらいのものだけれど。



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