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5月24日 木曜日  黒板消しとエメラルドの都5

 まあ、私にとって恋愛は確かに非日常かもしれないけれど。

 今のところ、その話を続けるのはやめよう。

 彼に、つまりは教卓に背を向け、黒板をふき始めることにする。


 ところで、と話題を変える。

「流れ星って、見たことありますか?」

 黒板の端の方から黒板消しをかけつつ、話しかける。

「あるな。小学生のころだが。それが何か」

 やけに楽しそうに、彼は答える。

「流れ星って非日常の代表選手みたいなものですよね。日食もそうですけど」

 非日常は、別にファンタジー世界のものだけではない。普段と違ってわくわくすることこそが、非日常なのだ。金環日食とやらは、週末に睡眠に逃避した名残で見逃したけれど。

「実は、私流れ星見たことないんですよ。どんな感じなんですか?」

 なんとなく憧れてはいても、流星群が現れる日を調べたりずっと夜空を見上げたりするだけの根性はなく、機会を逃し続けていた。

 黒板消しを、上から下にできるだけまっすぐ動かしつつ、彼に尋ねる。

「それは、遠回しの誘いか?」

 楽しそうな声のまま、彼は問う。

 え、何?

 遠回しの、誘い? なんで?

「……なんでいきなりそんな話になるんですか」

 手を止めて、黒板消しを持ったまま彼の方に体を向ける。

「わかってて言ったんじゃないのか」

 彼は相変わらず教卓に肘をついてこちらを見ていた。

「意味不明です」


 そうか、それなら解説しよう、と彼は先生らしくもったいぶって始める。

「流れ星は凶兆とされることもあったが」

 言葉を止めてにやりとする。また、何か企んでいるような笑みが登場した。

 あ、嫌な予感。もういいです、と私が遮る前に彼は口を開いてしまう。

「枕草子にも出てくるんだが、婚ひ星、つまり夜這い星ともよばれていてな」

 知ってるかと思ったんだが、と人の悪い笑みを浮かべたまま、私の顔を観察するように見据えてくる。

 ……よばいぼし……?

「流れ星は『少しをかし』だが、尾がなければ良かったのに、と清少納言は書いている。夜這いは見つからないようにするのがあの時代のマナーだからな。ほら、尾がない方が見つかりにくいだろう」

 いつものことだが「をかし」のいい現代語訳はどうも思いつかないんだよな、不本意だが、と本当に不本意だという調子でひとりごちる。


 いやいや、なんだそれ。

 会話の裏を読むと、なんか私が夜這いについて探りを入れてる……いやいやいや、ないないない。これは事故だ! 断じて事故なんだから!

「深読みしすぎです! そんなの知るわけないじゃないですか!」

「ほう、それは残念」

 これは完全におもしろがっている。


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