5月23日 水曜日 黒板消しと青写真2
美化委員会は踊る、されど進まず。
世界史で出てきた文句を頭に浮かべながら、顧問の先生の話を聞き流す。
いや、進まないというほどではないけれど、集まる意味は皆無に等しい。
わざわざ人を集めたわりに、渡されたのはクラスあたり一枚のプリントだけとは、やっていられない。なんでもクラスの掃除用具入れの中をチェックして、箒だのバケツだのモップだのの数を確かめて記入し、提出させるらしい。
この内容のためだけに集まったのか。別にひとクラス代表ひとりでいいじゃないか、なんでふたりとも出席しなきゃいけないんだ。
黒板消し掃除と比べると、格段にやりがいのないお仕事である。やりたくないものは人に任せるに限る。
というわけでもうひとりの美化委員、倉橋くんの出番と相成るわけだ。こういうとき、美化委員がふたりでよかったと思う。
ようやく終わった。
弁当が食べ終わるまでかかる委員会って長すぎる。
弁当箱にふたをしている私に、倉橋くんがこちらを向いた。
「あのさ、いつも黒板任せきりにしちゃってごめん」
面倒だし今書けるとこは書いちゃおっか、ともらったプリントの所定の欄にクラスと名前を書き入れつつ、倉橋くんは言う。
「あ、ううん、別に。こっちこそほかの仕事全部押しつけちゃってるし」
「全然。僕あんまり仕事やってる気がしないんだよね」
いやいや、そんなことはないはず。でも、そういえば美化委員会の招集は、今学期2回目だ。雑用(黒板と黒板消し掃除以外の仕事)が少ないような気もするけれど。
「そう? まあ、気にしないでいいよ。私も好きでやってるんだし」
「ああ、それはわかる。理保ちゃんいつもすごい楽しそうだよね」
「……そんなに私わかりやすい?」
「まあね。でも、僕、結構見てるから」
見てる? 何を? 私を? まさかね。
この発言は、私じゃなくて「黒板をふいている」私を見ているという意味だろう。
ということは、もしかして。
「倉橋くんも、黒板掃除がしたいとか?」
おそるおそる、尋ねる。
今までまったく考えなかったが、倉橋くんも私と同じように、黒板と黒板消し掃除がしたくて美化委員になったという可能性もあるではないか。委員が決まった直後に「黒板の掃除は私がやるってことでいいよね」と半ば強引に決めてしまったので言いだせなかったのかもしれない。
そういえば倉橋くんもときどき嫁姑ジョークを仕掛けてくる。あれはもしかして「お前のやり方で黒板がきれいになると思ったら大間違いなんだよ」という意味なのか。
どうしよう、少しは仕事を譲ってあげた方がいいのだろうか。
「違うから」
手を止めて悩んでいる私を見て、倉橋くんはちょっと笑うとあっさり否定した。
そうか、違うのか。それならいいか。
止めていた手を動かし、弁当箱を手提げにしまう。
「じゃあ、点検頼んでもいい? これでおあいこということで」
仕事の分担も今まで通りでいいだろう。黒板掃除は私、それ以外は倉橋くんに。
「了解」
じゃあ行こうか、とプリントとペットボトルを持って倉橋くんは立ち上がる。私が弁当をしまい終えるのを待っていてくれたらしい。




