5月16日 水曜日 黒板消しと赤の他人3
私は初めて会った人や、よく知らない人と話すのが得意じゃない。人見知りとまではいかないが、まあ隠れ人見知りとはいっていいと思う。
初対面と友人の中間のような、よく知らない人と会話をしなければならないとき、傍目にはそうと見えないがかなりの緊張を強いられる。
学校生活となると、よく知らない人を避けてばかりはいられない。だいたいは、中学のころから親しくしている直子にくっついていればどうにかなった、というか現在進行形でどうにかなっている。
直子は素晴らしい。
どこが素晴らしいかって、あっという間に人と人との距離感を破壊する。友達づくりがうまいとか人懐こいとか、もうそういうレベルじゃなく木っ端みじんに距離感をぶち壊すのだ。
空気を読まず、雰囲気にのせる。かといってリーダーシップなどとは無縁である。直子に任せるとまとまるものもまとまらない、とすらいわれるほどだ。
こういうと無責任な感じだが、直子にいわせると結構気は遣っている、のだとか。そう告げられたとき、「ごめん、私には直子の気遣いがどこに表れているかわからない」ととりあえず謝ってみたが、「理保でもわかるほどばればれな気遣いなんかするわけないじゃん」と一笑に付された。
……あれ、改めて考えると、もしかしてあれは、私は鈍い、と言いたかった、とか……なんてね。
それはともかく。
直子は、人に好かれるか嫌われるか、はっきりわかれてしまう性格らしい。
人間関係がうまく読めない私にはわからないようだが、あからさまに直子を敵視する人もいるそうだ。そう聞いたときに、「見えないところでも頑張ってて偉いね」とねぎらうと、「なんか理保にすっごいバカにされた気がする」と返された。褒めたのに。
なんで直子が私と一番親しいのかは不明だ。「親友」という言葉は直子が嫌うので使わないが、それでも最も親しい友人である事実に変わりはない。クラスは違うが、昼休みと部活はほとんど一緒に過ごしている。
私のことを気に入ったのだ、と直子は言っていた。なんでも、初めてふたりだけで話したとき、隠れ人見知りを発動した私が、緊張のあまり麩菓子がいかにおいしいものかを語り倒したのが面白かったのだとか。
でも、あんなことになったのは一度きりでこれから起こることもないだろうし(というか起こさないように気をつけなくては)、私といても面白くもなんともないだろうに、と考えることもある。
まあ、直子といるのは結構楽しいので、細かいことは気にしないことにしているけれど。
直子と違うクラスになると、こんなときに直子がいればいいのに、と思うことがよくある。
そして今も思っている。
ここに直子がいればいいのに。