5月21日 月曜日 黒板消しとブルーマンデー6
宮口くんは、宿題を写したいやらなんやらでよく私のところに来る。一年のころから席が前後のよしみだ。
そういうとき宮口くんは、「人を見たら天使と思えっていうだろ。実は俺天使なんだよ、天使。天使に親切にしとくと恩が売れるぞ。ほら、死んだあと星になれるかもしれねえし」とかいうやたらおかしい理屈をつけてくる。私は別に星になりたくはないが、断るのも面倒なので結果的には親切になってしまう。
「人を見たら天使と思え」というのは、天使が行き倒れに身をやつして現れ人を試したという逸話から、「見知らぬ人にも親切にしよう」という教訓らしい。
宮口くんはそれをさらに発展させて、「世の中結構天使だらけじゃね? 俺も含めて」みたいなことを言っている。
意味がわからない部分も多いが、深く突っ込むと「人を試すってことは、天使って名乗らないんじゃないの?」「そこはさ、裏をかくわけ。ふつう、天使って名乗ってる奴が天使だと思わないだろ?」「いや、名乗ってなくてもなかなか思わないけど……」などという自分でもあとで振り返ってみるとよくわからない問答に発展し、最終的には宮口くんに勝ちを譲ることとなるので、最近は抵抗を諦めている。
彼に背を向けて黒板消しを上下に滑らせつつ、宮口くんについて簡単に説明してみた。
で、と話を聞き終えた彼は、どことなく不機嫌に問う。
「信じてるのか、そのたわごとを」
「まあ、信じた方が楽しいですからね。半分本気で信じてますよ。信じる証拠はないけど、疑う証拠もないですしね。どうせなら、信じた方がお得ですし」
正直に答える。実際、宮口くんの話は結構楽しい。相手にするのが面倒なこともあるが、話を聞くだけなら面白いし、お得な感じなのだ。
「俺の告白はまったく信じなかったくせに、うさんくさい天使は信じるのか」
恨みがましくぶつぶつ文句をつけられる。
「あー、あれは……そう、カレンダーが悪いんですよ」
振り返らず、反論する。
「見事な責任転嫁だ」
確かにそうだと自分でも思うが、あえて言い募ってみる。
「お得感がないんですよ。信じた方が得、っていう」
私はそれを望まないから。信じなかったわけではなくて、ただ、望まなかった。でも、それは私のわがままで。
「得だろうが」
やけに自信ありげに、背中に言葉を投げつけられる。
彼の言葉を信じたら、楽しいだろうか。それはまだわからないけれど。
肩越しに振り返り、告げる。
「とにかく、今はちゃんと信じてますよ。芳賀さんが言ったことも、宮口くんが天使であるのと同じくらいに」
「……それはかなり扱いが軽くないか」
そういうものだろうか。




