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5月21日 月曜日  黒板消しとブルーマンデー3

 放課後は今日も部活である。

 合唱部の部活があるのは月木金、週のはじめと終わりに偏った配置だが、そのかわり休日の練習はない。土日は潔く吹奏楽部に明け渡している。


「バドもこなしやがった、スーツ男のくせに」

 練習の合間に、直子は剣呑な表情で報告する。今日の昼休みはバドミントンか。「スーツ男運動音痴仮説」の証明は、今日も叶わなかったらしい。

 私としては、彼の話題は勘弁してほしい心境なので、あまり相槌を打たずに聞き流す。

「明日はバレーにしてみっかな」

 で、バスケ、テニス、サッカーと順にやらせるわけ、とおそらく直子の独断よる活動量が多くなる順に、スポーツを挙げていく。さすがに、屋外でやるスポーツは勘弁してあげた方がいいんじゃないだろうか。スーツだし。


 そういえばさ、と直子はやけに楽しそうに尋ねる。

「6組だよね、理保のクラス。旧暦エイプリルフールの発生源」

 2年と3年は、1組から4組が理系、5組から8組が文系というクラス分けだ。人数は文系の方が少し多いくらいで、そんなに差はない。

 直子は1組で、結構教室間の距離もあるし、共通の授業もない。だから、そうそう話は伝わらないはずなのだけれど。

 ほかのクラスにもあの騒ぎが広まったのか。思わず遠い眼をしてしまう。世間は狭いな。というか、これほどまでに発言の影響力があるとは、例の教育実習生はかなりの有名人とみていいだろう。……うわ、センセーショナルな先生、という限りなくどうでもいい駄洒落が頭に浮かんでしまったじゃないか。私の精神もぎりぎりだな。


「あのスーツ男が言い出したってほんと?」

「あ、うん……」

「スーツ男がまさか、そんな理保みたいなこと言うとはねー。びっくり」

 いつもながら直子は鋭い。

「……そう、だね」

 歯切れも悪く、私は答える。一日中自業自得の精神的ダメージにさらされ続けた私に、その話題はつらいものがある。というか、私ってそんな的外れなことをいいそうなイメージがあるのか。否定しきれないのがつらいところだけれど。

「理保、実は関係あるとか?」

「まあ、……それなりに」

 私は嘘が下手なのだ。


「そっかー。ま、それじゃ好きにしなよ。理保の問題ならあたしはほっとくから。面白いことに変わりはないし」

 こういうとき、直子は距離をとる。突き放されて、でもそれがやけに心地よいから困る。

 ありがとうと言おうとして、でもそれは違う気もして口ごもると、直子に人の悪い顔で覗きこまれた。


「ま、あたしの言ったことも嘘かもしんないけど」


 旧暦エイプリルフールだけにね、とにやりと笑いつつ直子は告げる。


 こんなところにも流行の波が押し寄せていました、という実例である。

 こういう、「のっぺらぼうに出くわしてほうほうの体で家に逃げ帰ったら家族ものっぺらぼうだった」という感じの、安心できるはずの最後の砦も破られたというパターンが一番精神にこたえるのだ。わざとじゃないよね、直子。まさかね。

 ああもう早く帰りたい。

 


 早く今日が終わらないと、憂鬱の青に溺れそうだ。


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