5月18日 金曜日 黒板消しと赤色警報4
さて。ヘアピンも見つかったことだし黒板消しを叩くことにしよう。
手を頭の後ろに回し、髪をまとめてきゅっとひねる。ピンにくわえこませれば、準備完了だ。
後ろの黒板からひとつ、黒板消しを回収しにいく。
ところで、と当然のように居すわった彼は、唐突に尋ねる。
「……俺の名前、覚えてるか?」
いきなりの質問だ。
「突然なんですか」
黒板消しをひとつだけ手に持ったまま、教室の中央にいる彼の方を向く。とりあえず、問い返してみた。
「どうなんだ」
答えはもらえず、逆に答えを迫られる。抜き打ちチェックってやつか。
まあ、そろそろ教育実習も一週間にもなるので、さすがに覚えているけれど。それでも、もしかしたら間違っているかもしれないという若干の不安を込めて、答える。
「芳賀さん、でしたよね」
「下は?」
間髪を入れずまた問われる。苗字は当たっていた、のか。
「えー、っと」
知るかそんなもん。とは言えない空気だ。空気を読むのに長けていない私にも、それくらいわかってしまう。どうせ得意じゃないならもっと鈍感になりたい。いや、直子にいわせれば私は十分鈍いらしいけれど。
思いつきで当たるはずもないので、記憶を辿ってみる。
ただ、関係のありそうな記憶といえば、初日に自己紹介されたのと、そのとき黒板に書かれた彼の名前を消したことくらいだ。黒板に書かれた名前は、下の方は確か二文字で、画数が少なかったはず。
……うーん、これではあまりにもおぼろげすぎる。
どうしよう。
「たちわかれ」って、記憶にも効くんだっけ。まったく思い浮かぶものがないので、失せもの探しのおまじないにも頼りたくなる。
そもそも覚えていないから効かない可能性が大だが、まあものは試しだ。
たちわかれ、と口の中でこっそり唱えようした私に、溜息をついて彼は答えを告げる。
「佑介だ。芳賀佑介」
ほら、と首からぶら下げられたネームタグを私に見せる。そういえば、教育実習生はみんなそれをつけていた。
『芳賀佑介』
『はがゆうすけ』
ご丁寧にふりがな付きだ。
さっきまではYシャツの胸ポケットに突っ込まれていたらしい。名札は見えなければ名札の意味がないじゃないか、まったく。
それとも私が覚えているのか確かめるためにわざわざ隠した、とか。
まさかね。そこまで芸が細かいとは思えない。




