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5月18日 金曜日  黒板消しと赤色警報1

 失くしものをしたときは、慌てず騒がず、まず。
















「これ、なんて読む?」


 部活の合間に、直子に尋ねてみた。楽譜の表紙に書かれた文字を指さして。

「え、普通に『ゴウコン』じゃないの?」

 飲んでいたペットボトルから口を離すと、直子は言い放った。

「裏切り者……!」

 合唱部員のくせに、なんで合唱コンクールって読まないんだ。こんな表紙の楽譜をもっている私が浮かばれないじゃないか。

「いいじゃん、別に。どうせ本番は楽譜見ないんだし」

 それはそうだけど、と釈然としない私を尻目に、直子はあっさりと次の話題に移る。


「それより今日の昼休みさ、あのスーツ男、スーツのまま卓球やってたよ」

 運動音痴じゃないっぽかった、と直子は残念そうに口をとがらせる。

 スーツ男、とはあのお洒落な教育実習生のことか。そんな情けない呼び方をされているとは、あの人は夢にも思わないだろう。そう考えると申し訳ないが笑えてくる。

 今日の昼休みは直子と一緒に食べなかったのでなんだろうと思っていたら、わざわざ体育館まで出向いて観察したらしい。いや、今度はバドに誘ってやる、と言っているところをみると、卓球するよう仕向けたのは直子だな。

 このままいくと、「スーツ男運動音痴仮説」が証明されるまで粘るかもしれない。これは、しばらく昼休みは直子に会えないと覚悟しておいた方がいいな。

 そんなことを諦め混じりに考えている私に、直子は言う。

「でもスーツ男ってさ、見ててもそこまで変じゃないんだよなー」

 どっちかっていうとむしろかっこいいんだけどさ、あたし別にかっこいい人見たいんじゃないし、とつまらなそうに直子は続ける。

 相変わらず正直だね、と呆れつつ相槌を打つと、ま、あっさりバレるようじゃかえってつまらないか、と思い直したように直子は呟いた。

 よしっ、気合いを入れるように頷くと、瞳が強い光を宿す。


「絶対ぼろを見つけ出してやる」


 物騒な宣言をされてしまった。何かが直子のやる気を目覚めさせたらしい。


 はい、休憩終了、と顧問の先生がピアノの前に座ったので、そこで話は終わった。昨日の放課後にその「スーツ男」が蘊蓄を語りにきたことは言いそびれたが、まあいいか。教えるとますます観察に力を入れそうだし。

「合コン用」と書かれた冊子を譜面台に乗せる。



 さて。部活が終わったら、黒板消し掃除だ。


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