5月17日 木曜日 黒板消しとグレーゾーン2
「遅い」
部活が終わったあと、黒板消し掃除のために教室に戻ると、教卓に背をもたせかけて教育実習生がいた。
「いや、だって今日部活ありましたし」
部活のない日は図書室で時間をつぶし、誰もいなくなったころを見計らって教室に戻る。部活がある日は、遅くなってしまうこともあるがだいたいは同じ時間のはずだ。
しかし、言い訳をしなければならない理由がわからない。そもそもなんでいるんだろう。
ああ、そうか。
「昨日はよくわからないことを言ってすみませんでした。忘れてください」
頭を下げる。
今日の彼は白地に紺と緑のストライプが走ったYシャツで相変わらずお洒落だが、蒸し暑いからか上着とネクタイは身に着けていない。というか、ネクタイをつけていない理由は、暑いからだけだと信じたい。
よし、ちゃんと謝罪できたはず。私だって緊張していなければ結構きちんとできるのだ。普通にしてればおとなしい優等生なのにね、と直子もいってくれるし。褒められてはいないが、それはこの際無視しておこう。
それなのに、彼はあっさり言う。
「ああ、それはいい」
いいのか。じゃあなんでいるんだ。
教室に入るのをためらっていると、当たり前のように彼が問う。
「掃除、しないのか」
「やりますよ」
やりますとも。そのために来たんだから。
持っていた荷物をいつものように教卓に置こうとして、彼がいるので一番前の誰かの机に置き場を変更した。しばらく置かせてください、と心の中で断って。
Yシャツの胸ポケットからヘアピンを取り出すと、髪をまとめあげる。
さて、始めるか。
黒板消しを前後の黒板から回収し、ベランダで叩き始める。
初めから勢いよく叩きすぎると、猛烈に舞い上がるチョークの粉に襲われることになる。
あくまで優しく、ゆっくりと叩き始め、出てくるチョークの粉の量が少なくなるにつれ、力を強めていく。最後は力を込めて思い切りたたき、それ以上綺麗にならないと確認する。
やはり黒板消しクリーナーだと最後の仕上げが十分でないな、と満足して仕上がりをながめる。
さてと、黒板をふくとするか。
教室に戻ろうとして、まだ彼がいることに溜息をつきたくなる。まだいるのはわかっていたけれど。
そんな私に、おい、と彼は呼びかける。
「『合コン』ってなんだ?」




