表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/95

5月16日 水曜日  黒板消しと赤の他人1

 知ってましたか? 黒板消しって綾織りなんですよ。















 開け放したガラス戸からベランダに出て、腕をまっすぐ胸の前に突き出す。

 風はさほど強くないが、はっきりと感じ取れる程度には吹いている。

 体を風上に、突き出した腕は風下に。

 日が長くなったので6時前の今も十分に明るいが、腕まくりしたYシャツ1枚だと少し肌寒い。日があるうちはちょっと速足で歩くけば汗ばむほどの陽気で、5月ですらこの気温なのかと夏が思いやられたのに、ずいぶんと涼しくなった。 


 放課後の教室、そのベランダ。

 私の日課は、黒板消し掃除。


 黒板消し掃除のやり方はだいたいこうだ。

①黒板消しを叩く。

②きれいになった黒板消しで、黒板をふく。

③汚れた黒板消しを再び叩く。

今やっているのは、1度目の黒板消し叩きである。

 黒板消しはなるべく体から離して構え、叩く。

 風向きも考慮に入れるのがプロの仕事だ。黒板消しよりも風下にいると、チョークの粉をまともに浴びることになる。



 黒板消しは、前の黒板に3個、後ろに1個。2つずつ組にして、片手にひとつずつ持ち、ベランダでぱんぱんと叩く。

 前の黒板は授業のたびに使うので、黒板消しの汚れは、一日が終わるころにはものすごいことになっている。

 後ろの黒板も絵のうまい人たちがよく落書きをしているので、掃除は欠かせない。まあよく毎日毎日描くものがあるな、と感心するくらい多様な落書きで埋め尽くされている。後ろの黒板については、自然消滅を待つのが私のささやかな流儀だ。勝手に消して文句を言われたくないという理由もあるけれど。

なんとなく考え事をしつつも、体は習慣になった動きを繰り返していく。

 ぱんぱん、と黒板消しを叩く。チョークの粉が風に乗って舞う。

 よし、4つすべてきれいになった。

 ベランダから教室内に戻り、後ろの黒板に黒板消しを戻したあと、前の黒板に向き直る。

 よし。

 黒板消しを上から下へ、できるだけまっすぐかける。黒板消しの幅分だけ右にずれ、同じようにする。これを端から端まで繰り返すのだ。黒板消しは一方向にかけ、余計な跡が黒板に残らないようにするのがポイントだ。

 終わったら、黒板をふくのに使った2つの黒板消しを手に、再びベランダに出る。

 黒板消しを突き出し、思い切り叩く。ぱんぱん、といい音がする。これで最後だ。


 そんなときだった。


「ああ、まだ残ってるのか?」


 突然、教室の前の扉の方から声がした。

 びくりとして目を向けると、そこにいたのは。

 私のクラスの教育実習生だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ