四把
運命はある日突然壊れるのである。
運命の境目はある日突然にやってくるのである。
音もなく、気配を微塵も悟らせることなく私の背後へじりじりと迫ってくる。
それは絶望の始まりの音。じりじり、じりじりと、少しでも感じたら逃げなさい。
だって犠牲者は私一人で十分でしょう?
その日は編集者の郁曰く、冬が明けやっと春になったと実感できるようになったばかりだと言うのにその日を境に快晴も快晴な紫外線地獄。作家の原稿の様子を窺うために走り回る編集者達への嫌がらせなのではないのだろうかと思うほどに日光の強い日だったと言う。
まあ、天気もいいし、(雨が降ってる中、車の免許も持っていないのに出かけるのは愚かだと思う。)原稿は進まないし、(一応これでもベストセラー。締め切りまでに書かないと編集部より読者が怖い。)ネタ探しもとい情報収集と称して出かけることにした。
滅多に外出しないのだから、たまにはうっんとお洒落して昼間のカフェテリアで若いカップルの初々しい姿を見るも良し、それとも薄暗いバーで早々に飲んでるちょっと危ない雰囲気の二十代の若者達の会話を肴に飲むのもいいかと自分的には後者は遠慮したいが、仕事的には後者の情報が欲しかったりする。
だって生まれた年月イコール恋人いない歴なんだもの。
しかし、そんな女の書いてる本がベストセラーを維持し続けているわけなのだ。
世の中、摩訶不思議なことがあるものである。
「さて、行ってきます。母さん。」
玄関の靴箱の上に置いてある母の写真に一言残して玄関を潜る。
今、住んでいるのは実家から少し離れたところにあるマンション。2LDKの独り暮らし。
実家には幼いころからずっと面倒を見てくれている家政婦さんとかれこれ3年前位から来てくれている新人掃除婦さんだけ。
大学に通うためにはあの家は少々不便だったのと、一年に一度ほどしか帰ってこない父がいない屋敷のような広い家は、私には辛かった。
だから大学に入ってすぐに大学から徒歩十分ほどの新築マンションに住むことにした。
独り暮らしは思ったより大変だった。
洗濯物を回して止まったらすぐに干さないと生臭い臭いがしてきたり、まな板を洗い忘れて放置していたら白カビのようなものが生えてきたり。
今まで自分がどれだけ甘やかされて暮らしてきたのか思い知らされた瞬間だった。
「フハッ、独り暮らししてて倒れたら気づかれず死ぬかも。」
そんなことを考えながらエレベーターを降りて自動扉を潜る。
確かに今日は日差しがきついな、、、と先ほどまでネチネチと原稿の催促を募っていた編集者
がぽつりと零して言った言葉を思い出した。
そして自動ドアから一歩を踏み出し、た。




