表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された聖女は砂漠の国で愛される ~すべてを奪われたけれど、女神の祝福は私と共にありました~  作者: 黒猫ている


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/15

8:初めての居場所

「愚か者どもが――!」


神官長カールとエリザベスの企みを知った王太子アリスターは、怒りに身を震わせていた。


確かに、平民上がりの聖女を妃に迎えねばならぬ身を、内心で疎ましく思ったことはある。

孤児の娘など、自分の隣には相応しくないと感じたことも、一度や二度ではない。


だが、だからといって。

偽の聖女を仕立て上げ、本物を国外追放するように仕向けただと?


それは王家への欺瞞(ぎまん)であり、ラドクリフ神聖国そのものを危機に陥れる暴挙だ。

かつて愚王が引き起こしたという“暗黒の時代”の再来すら招きかねない。


そんな失態を、自分の代で認めるわけにはいかなかった。

次代の王たる自分の経歴に、汚点などあってはならない。

王族とは常に正しく、完璧でなければならないのだ。


「よいか。草の根を分けてでも、ローレルを探し出せ」


額を押さえたまま、アリスターは居並ぶ騎士たちに命じた。


「あの女を必ず連れ戻せ! 何としてでも、だ!」

「はっ!」


騎士たちが一斉に頭を垂れる。


こうして、大勢の騎士がラドクリフの聖都を発った。

ローレルを取り戻すために。

いや――正しくは、失われた加護を取り戻すために。




その頃、ローレルは戸惑いの中にいた。

ウォーベック侯爵邸での日々は、あまりにも穏やかで、あまりにも恵まれすぎているのだ。


肌触りの良い上質な衣服。

温かな食事。

毎日の入浴。

そして、侯爵夫人ソフィアとの賑やかなティータイム。

神殿での暮らしとは何もかもが違いすぎて、いまだに自分がここにいてよいのか、分からなくなることがある。


この日もローレルは、ソフィアに誘われて街へ出ていた。


本来なら夫人には護衛騎士が付く。

だがソフィアは「ローレルさんと二人きりでは心許ないもの」と笑い、そこへルークが当然のように付いてきた。


もちろん護衛は別にいる。

それでも「彼らに任せきりは不安だ」と自ら警護を買って出た息子の態度に、ソフィアは何度も吹き出しそうになっていた。


あまりに分かりやすすぎる。

だが、そこで指摘するのも野暮というものだ。


「陽差しが強くなってきたわね。ローレルさんには、もう少しつばの広い帽子が似合いそうだわ」

「えっ、あの……でも」

「遠慮しないの。ほら、こっちも合わせてみましょう。あら、このリボンの色、とても似合うわ」


ソフィアに連れ回されるうちに、いつの間にか帽子だけでなく、それに合わせた髪飾りや小さな宝石まで選ばれていた。


最初こそおろおろしていたローレルも、今では少し慣れてきている。

ソフィアの勢いに抗っても無駄だと学んだのだ。


「では、ひと休みしましょう。あのカフェでお茶にしない?」

「はいっ」


ローレルが素直に頷くと、ソフィアが満足そうに笑った。


店内に通されるなり、ソフィアは店員へ向き直る。


「おすすめの甘味を、一通り持ってきてちょうだい」

「あの……そんなに頼んで、食べきれないのでは……?」


目を丸くするローレルに、ソフィアは涼しい顔で答える。


「いいのよ。ルークもいることだし」

「はいはい、仰せのままに」


ルークが苦笑しながら肩を竦める。


いつもなら、母に振り回されるのはごめんだとばかりに逃げ出していた。

だが、ローレルが一緒なら話は別だ。


ウォーベック侯爵邸に来てから、分かったことがある。

ローレルは、どうやら甘いものが好きだ。

お菓子を口にした時の、あの綻ぶような笑顔。

それが見られるなら、荷物持ちでも付き添いでも母の相手でも、いくらでもやる気でいた。


ほどなくして、テーブルの上には色とりどりの菓子が並んだ。


焼き色の美しいアップルパイ。

艶やかな果実のタルト。

生クリームを添えた焼き菓子。

小さな砂糖菓子まで、まるで宝石箱のようだ。


「さあ、どれから食べる?」

「あの……アップルパイが、食べたいです」


少し照れたように答えるローレルに、ルークは母より先に皿を取った。


「どうぞ。好きなだけ食べて」

「は、はいっ」


ローレルが小さな口にフォークを運ぶ。


さくり、と生地が割れ、甘酸っぱい香りがふわりと広がった。

その瞬間、ローレルの表情がぱっと明るくなる。


「美味しい……!」


その顔を見て、ルークは我知らず頬を緩めていた。


侯爵邸に来たばかりの頃に比べれば、ローレルはずいぶん食べられるようになった。

まだ量は少ない。

けれど、一口ごとに味わって食べるその姿には、確かな変化があった。


少しずつでいい。

時間をかけて、心の傷も、痩せ細った身体も、癒えていけばいい。


そんなことを、ルークは願わずにはいられなかった。




侯爵邸へ戻ると、馬車の前でルークが先に降りた。


「さあ、どうぞ」


差し出された手に、ローレルは一瞬ためらってから、おずおずと自分の手を重ねる。


こうして手を取られて馬車を降りることにも、まだ慣れない。

貴族の令嬢であれば当たり前なのかもしれないが、ローレルにとっては何もかもが新鮮だった。


その様子を、屋敷の中から見下ろしている人物がいた。

ルークの兄、ヘンリーである。

ソフィアとローレルが屋敷に入るのを見届けてから、ヘンリーはゆっくりと階段を下りた。


「ルーク、少しいいか」

「……兄上?」


呼びかけられたルークが足を止める。


ローレルのことは母に任せ、そのまま兄の後についていく。

人気のない廊下には、二人の足音だけが静かに響いていた。


「何なんだよ、一体」


先に痺れを切らしたのはルークだった。

怪訝さを隠しもしない声に、ヘンリーは足を止める。


それから、振り返りもせずに言った。


「ルーク、お前……ローレルに惚れているんだろう?」


その瞬間、ルークの全身がぴたりと硬直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
以下の小説も、どうぞよろしくお願いします!
(イラストをクリックすると、販売/掲載ページに飛びます)
双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします! 1 表紙画像
ネトコン13入賞の、小説家になろう連載作品です!
小説版はこちら
どうして私が出来損ないだとお思いで? 表紙画像
小説家になろうに掲載していた短編を、書籍化していただきました!
小説版はこちら
二股王太子との婚約を破棄して、子持ち貴族に嫁ぎました 表紙画像
ピッコマノベルズ連載中。
捨てられた公爵夫人は、護衛騎士になって溺愛される ~最低夫の腹いせに異国の騎士と一夜を共にした結果~ 表紙画像
ピッコマノベルズ掲載。(完結済)
魔族生まれの聖女様!? 表紙画像
ピッコマノベルズ掲載。(完結済)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ