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追放された聖女は砂漠の国で愛される ~すべてを奪われたけれど、女神の祝福は私と共にありました~  作者: 黒猫ている


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7:女神が愛するもの

ベレスフォード王国の大地に祝福が広がる一方で、ラドクリフ神聖国は混乱のただ中にあった。


「一体、どうなっているのですか、叔父様!!」

「そんなもの、私に聞いて分かるか!!」


エリザベスの甲高い声が、王城の廊下に響き渡る。

カールはそれを振り払うようにして歩を速めた。

いや、もはや歩くというより、逃げるように神殿の奥へと向かっている。


新聖女の就任式は、最悪の形で終わった。

民衆はざわめき、疑念の声を上げ、期待に満ちていた空気は一転して不穏なものへ変わっている。


それも当然だ。

新たな聖女が誕生すれば、乾いた大地に恵みの雨が降る。

誰もがそう信じて疑わなかったのに、結局、空は一滴の雨さえも降らせてはくれなかったのだから。


「待って、叔父様!」

「どけ!」


縋りつくように追いすがるエリザベスを、カールは苛立たしげに振り切った。


全ては、上手くいくはずだった。

平民の小娘ローレルを神託の聖女として利用し、魔石を作る要領で紫水晶に神聖力を蓄えさせる。

十分に力が溜まった頃合いで、ローレルを偽聖女として切り捨てる。

そして姪であるエリザベスを新たな聖女として祭り上げる。


そうなれば、神殿内の権勢はさらに盤石になる。

フォレット家の地位は高まり、王家に対してすら強い発言権を持てるようになるはずだった。


そのための布石は、すべて打ってきた。

そう、思っていた。


なのに、なぜだ。

なぜ紫水晶は反応しない。

なぜ神官たちの神聖力まで失われた。

なぜ、一斉に何もかもが崩れ落ちた。


(何かがある……)


カールが目指したのは、王城奥深くの禁書庫だった。


そこには表には出されぬ記録が眠っている。

ラドクリフ神聖国が、かつてただ一度だけ女神の加護を失ったという、“暗黒の時代”の記録が。


重い扉を開き、薄暗い室内へ踏み込む。

積み上げられた古書の匂いと、長年閉ざされてきた埃っぽい空気が鼻を突いた。


カールは乱暴に書架を漁る。

古びた革表紙を引き抜き、荒い息のまま頁を繰った。


そして――ようやく見つけ出した。


「こんな……馬鹿な……」


掠れた声が落ちる。

そこに記されていたのは、死刑宣告にも等しい真実だった。


女神は、国を守るのではない。

土地を守るのでもない。

女神はただ、聖女を愛し、慈しむ。


聖女の在る土地こそ、女神の祝福を受ける地となる。

ゆえに、決して聖女を国の外へ出してはならない。

二度と同じ過ちを繰り返さぬように――。


そう、はっきりと書き記されていた。


「そんな……」


カールは力なく膝をついた。


もしこの記録が真実なら、ラドクリフ神聖国から加護が消えた理由は一つしかない。

ローレルを追放したからだ。


国を守っていたのは神殿ではない。

王家でもない。

まして、自分などでは決してない。


あの平民の聖女、ただ一人。

あの娘がいたからこそ、この国は女神に守られていたのだ。


「これを……王家に、何と説明すれば……」


額を冷たい汗が伝う。


ローレルは今、どこにいる。

まだ国境付近にいるのか。

それとも、すでに隣国へ渡ってしまったのか。

考えれば考えるほど、足元から奈落が口を開いていくようだった。


その時。

禁書庫の扉の向こうから、耳障りな声が響いた。


「これがあれば、力を使えるはずなんです!!」

「なんだ、それは。ただの魔石ではないか!」


エリザベスの焦った声と、王太子アリスターの怒声。

どうやらエリザベスが、紫水晶の欠片を持ち出したらしい。


「ここに、あの女の……ローレルの神聖力が蓄えられていて……!」

「なんだと!?」

「本当です! 今までの祈り、すべての分が蓄えられています! これだけの神聖力があれば、あの聖女がいなくても大丈夫だと、叔父様が――」


一瞬、しんと静まり返る。

次いで、アリスターの怒号が廊下を震わせた。


「貴様らが、あの平民に成り代われると言ったのだろうが!!」


カールは、静かに目を閉じた。


――終わった。

全て、露見したのだ。

やがてアリスターと騎士達が、この禁書庫に踏み込んでくるだろう。

そうなれば、もはや言い逃れはできない。


扉の向こうでは、なおも言い争う声が続いている。

エリザベスの甲高い悲鳴。

アリスターの怒鳴り声。

そのどれもが、妙に遠く聞こえた。


カールはゆっくりと天井を仰いだ。


信仰よりも、権勢を。

神意よりも、家の栄華を。

そう願い、そう動いてきた自分が、今さら神に縋るなど、滑稽にもほどがある。


それでも――この瞬間だけは、心の底から祈ってしまった。

どうか、まだ間に合ってくれ、と。


当然、女神がその祈りを聞き届けることはなかった。

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