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追放された聖女は砂漠の国で愛される ~すべてを奪われたけれど、女神の祝福は私と共にありました~  作者: 黒猫ている


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5:偽りの就任式

その頃――ラドクリフ神聖国では、新たな聖女の就任式が盛大に執り行われていた。


既に“役立たずの偽聖女”ローレルの追放は、国中に触れ回られている。

干上がる大地も、不作も、水不足も、すべては偽りの聖女のせいだったのだと。


だからこそ、人々は期待していた。

新たな聖女が誕生すれば、再びラドクリフは豊かな国へ戻るのだと。


「聖女様、準備が整いました」

「ありがとうございます、叔父様」


声を掛けたのは、神官長カール・フォレット。

そして応じたのは、新たな聖女として人々の前に立つエリザベス・フォレットだった。


金糸を織り込んだ白の礼装に身を包み、宝石を散らした髪飾りをつけた彼女は、誰の目にも華やかで、美しい。

少なくとも見た目だけなら、民が思い描く“聖女”にふさわしかった。


「くくっ、上手くやるのだぞ」

「ええ、勿論ですわ」


カールの低い笑いに、エリザベスもまた妖艶な微笑を返す。

その胸元には、衣の内側に隠すようにして、淡く光る紫水晶の欠片が忍ばせてあった。


ローレルに神聖力を注ぎ込ませ続けた、あの紫水晶。

そこに蓄えられた力を使えば、神聖力を持たないエリザベスであっても、聖女の奇跡を演出できる。


――その、はずだった。


「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


王城のバルコニーに立ったエリザベスは、王都を見渡しながら、朗々と声を響かせた。


広場には人、人、人。

民衆は皆、食い入るように彼女を見上げている。

期待、歓喜、熱狂。

そんなものが視線の一つ一つに宿っていた。


エリザベスは満足げに唇を吊り上げる。

まるで、もう自分が王妃にでもなったかのような心地だった。


「これまで、偽りの聖女による偽りの祈りによって、神聖なるラドクリフの土地は長く穢されてまいりました」


澄んだ声が、広場に響き渡る。


「しかし、それも今日で終わりです」


ざわり、と群衆が沸いた。


王太子アリスターもまた、誇らしげな顔でその様子を見上げていた。

隣に立つべきなのは、やはりこの女だ。

平民の孤児ではなく、公爵令嬢であるエリザベスこそ、自分の妃として相応しい。


「――我が祈りで、乾いた大地に恵みの雨を降らせてみせましょう!!」


高らかに宣言し、エリザベスは両手を掲げた。

その言葉に、民衆は歓声を上げる。


「おおっ!」

「新たな聖女様だ!」

「これでまた畑が潤う!」


誰もが待ち望んだ、新たな聖女の誕生。

かつてのような豊かな実りと水の恵みが、再び戻ってくるのだと誰もが疑っていなかった。


――だが。

待てども、雨は降らなかった。


風が吹く。

乾いた砂が舞う。

ただ、それだけだ。


「……どうしたんだ?」

「すぐに雨が降るんじゃなかったのか?」

「おい、まだか?」


ざわつき始めた民衆の声が、エリザベスの耳にも届く。


(どうして……?)


エリザベスは笑みを張りつかせたまま、必死に胸元の紫水晶へ意識を向けた。

魔法を使う時と同じ要領で、石の中に溜め込まれた力を引き出そうとする。

けれど、何も起こらない。


(嘘でしょう……?)


もう一度。

さらにもう一度。

だが、やはり沈黙しか返ってこない。


「ちょっと……どうなっているの……?」


誰にも聞こえないほど小さく呟いた、その時だった。


「ご報告申し上げます!!」


王城のバルコニーへ、息を切らせた急使が駆け込んできた。


「何事だ、今は就任式の最中だぞ!」


カールが鋭く叱責する。

だが、急使は青ざめた顔で膝を付いた。


「は、ですが、急ぎの件にございます!」

「なんだ、手短に申せ!」

「それが……治癒院にいる神官達が、全員、神聖力を発動できなくなったと……!」


空気が、一瞬で凍り付いた。


「なんだと!?」


叫んだのはカールだけではない。

エリザベスの顔からも、さっと血の気が引いていく。


神官たちの神聖力が使えない?

そんなことがあり得るのか。

いや、それよりも──なぜ今、この時に。


「おい、一体どうなっている!?」


城の前庭で民衆とともに雨を待っていたアリスターが、苛立ちを露わにバルコニーを見上げる。

だが、答える者は、ない。


結局、その日。

ラドクリフ神聖国に、恵みの雨が降り注ぐことはなかった。

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