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WINDFALL  作者: あおい
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1.両雄の再会編 6話

 あれから、ロンによるスパルタ訓練が続いていた。

 訓練所で剣術訓練を行うこともあれば、実地訓練だと森へ連れて行かれた事もあった。


 王国軍宿舎内の食堂。

「今日は楽しい楽しい座学の時間だぞ」

 ロンの言葉に、ジクードは苦い顔をした。

「ざがくぅ?」

「生き残るためには知識も必要だからな」

 苦い顔を、ロンが指で弾く。相当痛かったらしいジクードは、額を抑えてうずくまった。

 確かにそうだ。これまでも獣の急所やどの素材が高値になるか、食べれるキノコか食べれな――。

「じゃあとっとと始めるぞ」

 巡らせていた思考が、遮られてしまった。せっかく巡らせたのに。

「お前らは魔力を持ってるようだが、それについてどう思ってる?」

「戦いにおいて、距離を取れるのはかなり有利だ」

 タクトが答える。

「たしかに魔力を持っていることは戦いにおいて優位だ。だがそれが全てじゃあねえ。」

「でも便利だよ?遠くからビリビリ出来るし」とジクード。

「便利なのはいい、プライベートでも大切にしろ。だが、魔力を持たない俺は魔力を持つお前らをボコボコにできる」

「おとなげねえ」

「それが強さってことだ。魔力に感けてたら、足元掬われるぜ?」

 魔力も、剣も、そのどちらも鍛えなければ魔力持ちと言えど実力者には負けてしまうと。却って無魔力の方が専念できて、化け物級の戦士が生まれると。それが俺だとロンは言い張る。

 たしかに、魔力というのはそれほど便利なものではない。必ず手を空けておく必要があるし、使用するのにそれなりの集中力を要する。必殺の一撃を出そうとしても、敵に距離を詰められたらどうしようもない。

「いまのお前らにとって、魔力は優位点じゃねえ。むしろ、判断を疎かにする足枷だ。俺は魔力がないから厳密にはわからんが、魔導士とはいくらでも戦ってきた。その上で言う。魔力に頼りすぎるやつから死んでいく」

 それはジクードに対する警告だった。「むう」と、反論できないでいる。

「その点を、イルカイザの連中もわかっていない」

「イルカイザが?」

 タクトが繰り返す。

「ま、その話は難しいから後でするとしてだ」

 ロンは言葉を一度切る。

「お前ら、イルカイザに幹部がいるのを知ってるか?」

「わかんねっす」

「イルカイザの構成員は、組織内で強さに差がある。便宜上王国軍は、下から、下位、中位、上位悪魔と呼んでいる。悪の魔導士だから悪魔だ。単純だよな。誰が考えたんだろうな」

 随分適当な称号だ。これが軍人の本来の姿なのか。

「で、今のお前たちだったら、そうだな。上位悪魔にあったら迷わず逃げたほうがいい。」

「そんなに強いのか?」

 ジクードが呑気に聞く。

「そのへんの兵士じゃ束になっても敵わないだろうな」

 それは、俺たちが王国軍兵士と同じくらいの強さということか?

「そしてその上に君臨するのが幹部、六席。その名の通り、6人いる実力者たちだ」

 六席か。ストレートな名前だ。少年兵時代には、聞いたこともなかった。

「ロンも負けちゃう?」またもジクードは呑気に聞く。

「2人同時は骨が折れるかもな、ま、1人なら余裕だろうな」

 余裕綽々なロンを、ほー、とジクードは眺める。

「てか、相手がどの階級かなんて、どうやってわかんの?」

 ロンは両手を広げて言い放った。

「あ?感じ取れや。それか最悪、直接聞いてみろ。あなたどれくらい強いの?ってな」

「聞く、のか」

 この人に修行を受けていても大丈夫なのか?そんな思いがタクトの胸をよぎった。

 ふと、食堂を覗く陰に気づき、タクトは廊下へと視線を移す。

 軍服姿の男だ。白髪だが、その顔はタクトと同世代かと思われるくらい若い印象だ。冷たい表情をしている。まるで氷のようなその男に、タクトは見入った。

「お、クローゼ。ちょうど紹介したかったんだ」

 ロンがその軍服の男に声をかけた。クローゼ、と呼んでいたな。

「申し訳ございませんが、これから任務があります。失礼します」

 クローゼは頭を下げ、廊下をツカツカと歩き去っていった。声まで冷たかった。ただ、まるで何かに操られているかのような、そんな危うさを感じさせる立ち居振る舞いだった。

「相変わらずかてえやつだ。……あ、あれがいまリリアックに駐在している隊の責任者、クローゼ隊長だ」

 彼が隊長なのか。イメージ通りの堅物そうだ。しかもあの若白髪、苦労していそうだ。


 

 翌日、タクトは宿屋の荷物を片付けていた。あれから怒涛の日々で、結局住む家は決まっていなかった。だが、ロンからの資金提供により、悠々自適に宿屋生活を送っていた。

 しかし、昨日の夜のことだ。ロンより、しばらく遠出になるかもしれないと言われた。2、3日程度とのことだったが、その間の宿代が勿体ない。使えば使うほど、資金は減るのだ。

 しばらく歩き、待ち合わせ場所である、宿舎へとたどり着く。ジクードは勿論まだ来ていない。

「いつも遅いなあいつ。隠れとくか?」

 ロンが子どものように笑った頃、ジクードが走って合流した。寝癖を連れた彼が加わり、3人は歩き出す。

 目的地は、王都エルシアだ。


 王都までの道のりは、歩いて2日ほど。今までの流浪の旅と比べたら、そう遠く感じない。

 だが、山を1つ越える必要があった。王都から程近いはずのリリアックが田舎町のまま発展していないのは、この山に阻まれているからだろう。

 道中、ロンは自分の昔話を聞かせてきた。

「私は昔、王国軍の団長をしていたんだよ。ウラナス……総司令とは昔からの付き合いでね。だから今も、仕事を回してもらっているわけだ」

 彼が元王国軍団長とは初耳だった。どれぐらい偉い地位なのかは知らないが、恐らく凄いのだろう。総司令とお友達のようだし。

「そんなすげえ人が、なんで下請け仕事なんかやってんの?」

 ジクードが真っ当な疑問を投げかける。

 少しの間。ロンは腰の龍があしらわれた剣に触れる。

「……次の世代に、託すことにしたのだよ。私が居座っていては、新しい芽生えの、邪魔になるからね」

 彼にも思うところがあるのだろう。普段の軽口ではない。珍しく神妙な声でロンは話した。何かを思い出すように。

 


 王都エルシア。その初印象は、真っ白。だった。

 アステリア王国の政治の中心地であり、砕いた貝殻のように白く、背の高い建物が立ち並ぶ経済の要。

 かつての統一戦争終結前には既に有数の都市だったが、王国統一に伴い政府が置かれさらに発展を遂げた、らしい。中心には、王国の象徴であるエルシア城が、他を圧倒する規模で構えられていた。

 エルシア城へと向かうまさにメインストリート。人の数には吐き気がするほどだった。この世界には、こんなにも多くの人間が存在するのかと思うと、個人の悩みなど小さなものだと思……いたかった。

「すげえな、初めて来たぜ」

 ジクードは、目を輝かせ、街をキョロキョロと見回している。様々な商業店が、彼の興味を惹きつけてやまないようだった。歩くペースが遅い。

 タクトはというと、人の多さに苦しんでいた。歩けば人に当たる。歩かなくても人が当たる。なんとも住みづらい街だと、肩をすぼめて歩く。

「おいジクード、遊びに来たんじゃねえんだ。さっさと来い」

 ロンがジクードの首根っこを引っ張ってくれたお陰で、進む速度が速まった。助かった。


 そうこうしているうちに、目的のエルシア城へとたどり着く。いくら見上げても見上げ足りないほどの城門が、彼らを歓迎してくれた。

 ロンの姿を見た衛兵たちは、すぐさま通してくれた。彼が元偉い人なのは間違いないらしい。

 やはり城内も真っ白だった。血よりも赤い絨毯の上を歩く。今泊まっている宿屋のベッドよりもふかふかかもしれない。


 城内を歩きながら、ロンは行き交う様々な人たちに挨拶されていた。胡散臭くて強いだけのおじさんの印象が、少しずつ変わっていく。だが、この別世界のような景観の中では、そんなこと考えている余裕はあまりなかった。

「ここだ」

 ロンの声に、我に返る。総司令室のようだ。大柄な彼をゆうに超える、黒木の重厚な両開き扉。果たして押して開くものなのだろうかと考えているタクトをよそに、その扉が音を立てる。

「お待ちしておりました」

 ひょろりと細身の老人が、巨大な扉を開けていた。

 眼鏡をかけた、灰色の髪の老人。これが総司令か?と訝しんでいると、奥から声が聞こえた。

「わざわざすまないな、ロン」

 広い部屋の突き当たりに、これまた重厚なテーブルがある。扉側へ向き、1人の男が椅子に腰掛けていた。明らかに風格のある、恰幅のいい体つき。そしてその白銀の髪は、誰かを想起させるようだ。

 間違いない。あれがウラナス総司令、その人だ。

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