1.両雄の再会編 3話
タクトは、リリアック自警団の事務所で、所長と面と向かっていた。
自警団職員であるジクードの紹介もあって、話はスムーズにいく。はずだった。
「これまでの経歴は?」
「何かと戦ったことはありますか?」
「挫折した経験はありますか?」
「魔力が使えるって本当?」
所長は絶えず質問を投げかけてきた。口下手なタクトは言葉少なになんとか答える。しかし、心ここにあらずだった。
面接があるなんて聞いていなかった。ちらりと同席しているジクードを見る。彼は目玉が出そうなほど面食らっていた。この事態は、彼も想定していなかったようだ。
もしやとは思うが、こいつ、所長から信用されてないのでは?だから紹介した人間にもこんな仕打ちを。
正直言って、胸を張って誇れる経歴はなかった。これまで流浪の旅で狩人をしながら日銭を稼いで生活してきただけだ。それ以外で生活する術を持ち合わせていなかったのだ。害獣駆除に関してはそれなりの経験はあるのだが。
「では最後です、あなたが自警団に入る動機はなんですか?」
所長の声に、我に返る。
タクトは考える間もなく言い放った。
「生活のためだ」
面接は無事に終わった。
「では明日からよろしくね。事務所の鍵は役職者しか持っていないから、あんまり早く来ても開いていないよ。気を付けてね」
トントン、と書類をまとめ、所長は出ていく。
明日からよろしくと言われたな。採用されたということか?
「よ、よかったなタクト。明日から一緒にがんばろうぜえ」
ジクードのわざとらしく前向きな言葉が聞こえてきた。タクトは一旦無視した。
事務所を出ると、もう夕暮れだった。
ジクードは事務所でほかの職員から話しかけられ、世間話をしていた。あまり輪に入れなかったので、タクトだけ先に出てきたのだった。
緊張を解き、ほっとする。これでとりあえず定職が決まった。先行きの不安は解消されたんだ。となると次は住むところか。今夜は宿屋に泊まるとして、仕事をしつつ家探しもせねば。やることは山積みだ。まさに新生活だ。
事務所から、ジクードが出てくる。
「んじゃあまた明日な!うん明日な!」
扉を開けながら、中に向かって挨拶をしている。相変わらず明るく、忙しい声だ。
そんな彼らの様子を見張る、怪しい人影があった。腰元には、他とは全くの異彩を放つ、重厚な剣が携えられていた。
翌朝、タクトは宿屋で目を覚ました。身支度を整え、部屋を出る
自警団の事務所へ向かうと、所長が迎えてくれた。ジクードはまだ到着していなかった。
「彼はいつも遅めだからね。君は早いね、しっかりしてらっしゃる」
所長は明らかにジクードを評価していないように思えた。だからか。面接の恨みを思い出すが、所長にも立場があるのだ。ここは引き下がろう。
「おはよっございまーす」
寝癖をつけたジクードが登場した。完全に寝起きそのままの様相だが、その眼だけはばっちりと開いていた。
所長は、二人の前に、1枚の紙を差し出した。
「君たちには、この調査を行ってほしい。もしものことがあっても、魔力があるなら何とかなるかな」
穏やかに笑いながら説明するのを聞きながら、タクトはその紙を見る。
リリアック郊外にある、とある小屋の調査任務とのことだ。住民からの情報で、どうやら不審な人物たちが出入りしているらしい。敵の詳細は不明、数も不明。
「随分と不明点が多いんだな。いつもこうなのか?」
タクトは思ったことを口走る。
ジクードはその言葉に首を横に振る。
「いや、こんな依頼初めてだ。所長、こいつは調査だけってことでいいんだよな?」
「うん、危険だと思ったら引き返してくれていい。……実を言うとこれは、王国軍からの依頼なんだ」
「王国軍から?」
ジクードは素っ頓狂な声を上げた。
王国軍とは、このアステリア王国の治安を維持する、政府お抱えの正規軍のことだ。そのことはタクトも知っている。
「公的機関が我々のような私設団体に任務を依頼することは今までなかった。私もなにか変だなとは思ってる、思ってるんだよ。だけどね……」
所長の声が曇っていく。
だけど、どうした?次の言葉を待つ。
「かなり多いんだよ、報酬。私もちまちまと小さな仕事請け負うよりも、このほうが話が早くてね」
所長はにこやかに言った。
「そういうことならわかった。いこうジクード」
タクトはすぐに立ち上がった。
ジクードは笑い声をあげて彼の肩をたたいた。
リリアック郊外の森の中。
木々に隠れるように、その小屋は存在していた。木で組み立てられたそれは、生活感を一切放たず、つい先ほど突然建立されたのではと思えるほどだった。
木陰に隠れながら、タクトは注意深く様子を伺う。敵が何者かもわからない。慎重に越したことはない。
「なあタクト」
ジクードが小声で話しかけてくる。彼のほうに顔を向ける。
「なんだ」
「どっかーんって行かねえか?そっちのほうが話が早えじゃん」
タクトは再度、小屋の様子を伺う。ジクードが腰をつんつんしてくるのもかまわなかった。
しばらくすると、一人の男が小屋に向かっていくのが見えた。二人は音を立てないように細心の注意を払う。小脇になにか箱のようなものを抱えた男は、周りを気にしながら例の小屋へと入っていく。
「動いたな」
「あいつが小屋を出たら突入しよう」
二人は小声で会話する。方針が決まった。
木製のドアが開いた。先ほどの男が周りを窺いながら外へ出る。こちらの存在には気づいていないようだ。例の男が森の中へ消えていく。
二人は同時に木陰から飛び出す。小屋へ向かい、その入り口たる扉に手をかける。
「気づかれてねえとでも思ったか!」
背後から野太い声が響く。二人はとっさに振り返る。
5人ほどの屈強そうな男たちが、各々槍を手に、立ちはだかっていた。タクトとジクードも、腰に携えた剣を抜く。
「バレてたってのかよ!」
ジクードが絶望したような声を出す。
「うるさいのが一緒だったからな」
タクトは冷静に敵を見やる。5人か、全員武器は両手持ちの槍。ということは。
「ジクード」
「うるさいのはわかってるよ」
「違う、槍を持っている。……間合いの外から攻めよう」
ジクードは手をたたいた。
「なるほど、承知だ!」
槍を持つ敵に対して、片手振りの剣しか持っていない二人が、間合いの外から攻める理由。それは、魔力の存在にある。
突き出されたジクードの左手に、電撃が溜まっていく。それを見た男たちはたじろぐ。
「ち、距離を詰めるぞ」
二人の男がジクードへ突撃する。しかし、遅かった。
ジクードの手から放たれた電撃が、直撃する。電気による攻撃を受けた二人の男は、悶えながら倒れこむ。
魔力を持って生まれた人間である魔導士は、戦闘において限りなく有利だ。魔力を持たない無魔力者からしてみれば、理不尽なほどだ。しかしその力を使いこなすには、片手を空ける必要がある。そのため、魔導士は通常、片手持ちの剣を携行する。
逆に言えば、両手持ちの武器を持つ者は、魔力を持っていないと言い張っているようなものだった。
タクトも手を構えた。彼は風魔力を扱う。そこに空気が収束し始める。彼の胸から、高周波音が鳴る。
「ダミーじゃなかった、引くぞ!」
男たちは、撤退を始めようとした。そこへ空気弾が着弾する。地面が掘り返され、衝撃で男たちは倒れる。
その隙にタクトは彼らに距離を詰める。振り下ろした剣が、敵の唯一の戦力たる槍を粉砕していく。ジクードも続き、彼らが逃げないように痺れさせる。
ただただ、男たちの悲鳴が響き渡った。
すっかり伸ばされた男たちが、地面に転がっていた。ジクードが木の棒でつんつんするが、体力的にも精神的にも追い込まれ、身動きできない。
ジクードが彼らを見張っている間に、タクトは小屋に入った。
中は薄暗い。ガス灯もないようなので、目を凝らして室内を見渡す。
木と埃のにおいに混じり、何か別のにおいを感じる。鉄と燃料の臭いが混ざったような。タクトにはそのにおいに覚えがあった。いつそれを嗅いだのかは、思い出せない。
棚がある。何かが収まっているようだ。先ほどの男が持ってきたあの箱だろうか。
それは手のひらの収まる形状の直方体の箱のようだった。手触りで判断するに、無機質な金属板が覆っているようだ。ひんやり冷たい。
タクトはそれを小屋から持ち出した。暗いところから急に明るいところに出たので目が眩む。
目を凝らしながら、ジクードへ近づく。彼は、目を見開いてこちらを見ていた。
「おいタクト、それって」
目が慣れてきた。タクトは手に持ったその箱に視線を移す。
無機質な金属の箱というのは触覚通りだった。それは鈍い銀色の鉄の箱だった。びっしりと幾何学模様状の回路のような白い線が入っている。
「え?」
タクトもまた、硬直してしまう。そうだ、見覚えがある。
「アンプ……」
それは不気味に駆動する機械だ。
タクトの脳裏に、かつての記憶が蘇る。




