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WINDFALL  作者: あおい
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1.両雄の再会編 1話

 暗い闇の底、機械の脈動だけが響く空間。


 精巧な金属で作られた床と壁。冷たささえ感じる無機質なその空間は、中央に鎮座する、鉄製の棺のような機械のために作られたようだった。


 その棺は、怪しげなランプを灯し、絶え間なく低く鈍い音を発し続けている。その重低音が金属製の壁に伝播し、空間そのものが脈打つ命のようである。棺はさながら命に包まれた胎児のように、その存在を鳴らし続けている。


 棺に対し、白衣の男が視線を向けていた。


 予定ではもうそろそろのはずだ。成功しているかどうかは、賭けではあった。だが、限りなく勝ちに近い賭けのはずだ。


 カウントダウンは秒読みまで来ている。まだ準備は整っていない。彼のためにも、今は少しでも先へ進めておかねば。


 白衣の男はその部屋を出た。




  静寂が戻った部屋で、残された棺が脈動を早める。  ランプが激しく点滅し、発する音の間隔が狭まっていく。


 その時を待っていたかのように、部屋の共鳴がそれに合わせて徐々に音量を上げる。


 未知の生物が誕生するかのような、異様な空気が部屋を彩る。


 カウントダウンが終わったようだ。


 棺の上部、蓋のような鉄板が2つに割れて迫り上がる。


 開いた端から白い煙が漏れ出る。それは煙ではなかった。天井に向けては立ち上らず、部屋の床を包むように滞留する。冷気だ。


 棺の中から冷気が溢れ出て、中身が明らかになる。


 それは、人の形をしている。男性だ。


 筋骨隆々なその男の体は、冷気に包まれ芸術品のように輝いて見える。異質なのは、その右腕だ。肘から先が金属の筒に入れ替わっており、金属の手のひらが確かにある。機械であることを剥き出しにした、義手だった。


 義手の男の目が開く。続けて、上半身を起こす。そして、彼の棺を囲んでいた空間を見渡す。


 彼は、思うように動かない体に鞭打ち、立ち上がる。棺の縁に足をかけ、降りる。


 棺から漏れ出していた冷気が霧散する。まるで彼の誕生を祝う舞台装置のようだった。


 義手の男以外は誰もいない、静かで無機質な部屋。


 歓迎もなしか。彼は右腕の義手を見る。義手の中央に備えついた丸いガラス面が、ほんのりと青い光を灯す。そして感触を確かめるように、手を握りしめ、開く。


 部屋の出入り口たる、鉄の扉が開いた。外から光が差し込む。


 こっちに来いとでも言っているのか。義手の男は、その光の先へと歩みを進め始めた。




                   ◆




 同じ頃、とある森の中。


 修道女ステラは、教会の花壇に植える花を探していた。


 日が差し込み、葉が光を反射する。そよ風が、光る木々たちを優しく揺らす。もうすぐ冬が来るというのに、まるで春のような温かみを感じる。


 今日は外仕事日和ですね、とステラはしみじみと感じる。


 しかし季節がら、目的であった花はあまり見当たらなかった。小脇に抱えた手持ちカゴには、青い花が数本程度。群生には程遠い数だ。


 このあたりにはもう咲いていないのかしら、と彷徨う。いつの間にか、普段は来ないような森の中心地まで歩を進めていた。


 森には、真ん中を突き抜けるように街道が走っている。都会のように舗装された道ではないが、先人たちが切り拓いた道をありがたく使わせてもらっている。だからステラは安心していた。こんな道沿いに、危険な生き物は出ないだろうと。


 その時、草むらから音が聞こえる。激しく植物を揺らすその音は、明らかに生き物が中にいることを証明するものだった。


 ぎょっとし、草むらを見る。まさかね、と一瞬気を取り直そうと思ったが、やめた。そこまで楽天的ではない。


 踵を返そうとした瞬間、小石に足を取られた。「あっ」と小さな声を上げ、たたらを踏む。なんとか持ち直したものの、その拍子にカゴから青い花がこぼれ落ちたことに、彼女は気づかなかった。


 様子を見ようと思ったが、やめた。命より大事なものはない。


 ステラは街へ向かって音を立てないように、だが持てる力の限り早く歩く。


 危険は嫌いだ、やはり花は花屋に行くべきだったか。とはいえ教会は町の人の善意で成り立っているから、経済的に余裕があるわけではないし。


 努力の甲斐あって、例の草むらからは距離が出た。


 その時、空気を引き裂くような破裂音が聞こえた。


「ひっ」


 ステラは涙目になりながら、生活拠点であるリリアックの町の方へと走り出した。




 ぽっかりと草むらに穴が空き、中には1体の獣が倒れている。灰色の毛を蓄えた巨大な狼だ。


 ある青年が、穴に近づく。それは先ほど彼が放った一撃によるものだった。


 まだ息はあるかと、青年が確認しようとさらに近づく。


 すると穴の中で傷ついた狼が立ち上がった。青年に向かって吠え、残った力を振り絞り襲いかかる。


 彼はそれを躱し、右手で腰に携えた剣を抜く。


 躱した先から飛びかかってくる狼に対し、剣を振るう。狼の爪にあたる。弾ける音。その獣は距離を空けた。


 青年は剣を持っていない左手を前に突き出す。手のひらへ空気が圧縮されていく。彼の胸元から、甲高い、金属を擦り合わせたような振動音が鳴る。


 狼が再度飛びかかるのと同時だった。青年の左手からは、圧縮された空気の塊が押し出される。


 乾いた破裂音が森に響き渡る。


 狼の息の根は、今度こそ止まっていた。


 生活のためだ、悪く思うなと彼は心の中で語りかける。


 ふと、足元に花が落ちているのに気づいた。青い花だ。


 1輪か。こういうのは花屋に売れたりするのだろうか。いや、難しいか。


 花を捨て、青年は戦利品を回収するために狼の亡骸へ向かう。


 獣の素材を剥ぎ取り終えた彼は、うす汚れた地図を広げる。王都への道中、町があるようだ。まずはそこを目指そう。


 青年は、目的のない旅をしていた。もう3日ほど人里には寄れていなかった。


 腹が減っているのに気づく。町に着いたらまずは飯と、風呂だ。その前に宿屋を取ろう。先程の獣の毛皮と牙は需要があるから、そこそこの金額にはなるはずだ。





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