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WINDFALL  作者: あおい
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1.両雄の再会編 15話

 プロカルの戦死、ヴァースの負傷撤退を受け、戦場となっていたリリアックの町から、イルカイザの構成員たちが逃走していく。

 すぐさま、王国軍を中心に、自警団や町人たちが力を合わせて消火活動が行われた。

 ジクードに袖を掴まれ、タクトも参加する事となった。両手にバケツを抱えながら、戦後の町を歩く。

 傷ついた路面や、崩れた外壁。そして石の焦げた臭いが、ここが戦場であったことを想起させる。

 火災に巻き込まれた建物はいくつか崩れてしまっているものがあったが、町全体の被害としては、戦闘規模と比較して小規模に収められたようだ。

 無事を確認し喜びの涙を流すものもいれば、瓦礫と化した家屋の前で泣き崩れるものもいる。イルカイザの襲撃は、彼らの安寧を大いに脅かした。

 あたりを観察していたタクトは、前を向き、歩を早めた。


 今回の被害報告を受け、王国政府からリリアック再建の援助が出ると耳にした。後ほど、そのための資材や人材がやってくるらしい。

 消火活動が落ち着き、タクトとジクードは王国軍宿舎の訓練所に座っていた。

 タクトは疲労に俯き、ジクードは空を見上げていた。

「自警団の先輩なんだけどさ、死んじゃったみたい。落ちてきた瓦礫に巻き込まれたって」

 独り言のように、空へ向けてジクードは呟く。その言葉に、タクトは何も返せなかった。

 ゆっくりと、タクトに視線が向くのを感じる。

「戦ってくれたんだってな。ありがとうな」

「巻き込まれただけだ。……宿屋が休業になった」

 タクトの不器用な言葉に、ジクードはクスリと笑う。

「そりゃ死活問題だ」


 背後から、足音がする。

 2人は、同時に背後へ振り向いた。

「おう、無事だったか」

 現れたのは、ロンだった。声こそ以前と変わらぬ明るさだったが、心なしか表情は曇って見える。

 師の帰還に、2人は立ち上がる。

「なんとかな。でも、リリアックが……」

 俯くジクードの頭に、ロンは手を置く。

「見てきたよ。イルカイザの仕業だってな」

 そして、タクトを見る。

「ミカヅキに聞いたよ。頑張ってたらしいじゃねえか」

 笑顔を浮かべるロン。だが、やはり目の奥が笑っていない気がした。これはもしかして、ロンは疲労している?あの鉄人鬼教官が?

「……ロン、何があったんだ」

 質問の意味がわかったらしく、ロンは困ったような顔を見せる。

「任務が思ったよりも大変でな。うっかりしてお土産を忘れちまった。怒んなよ?」

 いつも通りの軽口だ。その言葉の奥に、何か重大なものを感じる。

 じっと見ていると、ロンは諦めたように手を振った。

「前に、六席1人くらいなら余裕だと言ったな。あれは嘘だったかもしれねえ。年老いたのか、やつらのレベルが上がってきているのか」

 その言葉の裏には、壮絶な戦いがあったことを思わせた。しかし、ロンは五体満足で帰ってきた。決して負けてはいないのだろう。疲労を隠せないところから、余裕をもって戦えなかったことに焦りを感じているのかもしれない。

 確かめるように、尋ねる。

「倒せたのか」

「いや、逃げられた。……あれは化け物だ。まるで……」

 そこまで言いかけて、言葉を切った。

「いかん、おっさんの昔話ほどつまらないものはないな」

 ははっ、と乾いた笑いをこぼしながら、ロンはくるりと背を向け、歩き出した。どうやら宿舎に間借りしている自室へと戻るらしい。肩に食い込む、砂ぼこりをつけたままの鞄が、それを物語っていた。


 それから数日が経った。噂通り、リリアック再建の音が聞こえてきた。槌によって木材が叩かれ、カンカンと軽く鋭い音が鳴り響く。それがあちらこちらから鳴りやまない。重たい石材が土の地面に突き刺さる音も織り交ぜながら、町の復活が現在進行形で進められていた。

 王国軍は、今回の戦闘で家を失った者たちを対象に、宿舎の部屋を開放していた。身を寄せていた宿屋が休業している間、タクトはこれをありがたく利用している。

 再興の音に包まれながら、タクトとジクードは宿舎の訓練所にて、ロンと向かい合っていた。

「え!!?」

 ジクードが驚きの声を上げる。相変わらず声がデカい。

 片耳を塞ぎながら、ロンが言う。

「だから、軍属にならないかって話だ」

 タクトも内心、驚いていた。自分たちにそんな声がかかるとは、思ってもいなかったのだ。先日の戦火において、王国軍が危機感を持ったのだろうか。それとも、何かしらの推薦があったのだろうか。それはさておき、何よりも気になることがある。

「それで、ほうしゅ――」

「報酬は下請けの時よりもいいぞ。正式採用だからな」

 納得し、タクトは頷いた。

 なにより、ミカヅキ副団長には、命を救われた借りがある。あと、認めたくはないがあの白髪隊長にも。彼らは今のタクトを数段上回る。その環境は、今後の食い扶持のためにも有利だと判断した。

 隣を見ると、ジクードは目をぴくぴくしている。今まで見たことがない動きだ。と思えば、親指を立てる。

「俺も乗るぜ!」

 2人が承諾したことに、ロンは胸をなで下ろしたようだ。

「よかったよ。ここ数日、色んなところに掛け合ったからな。甲斐があったってもんだ」

「なぜそんなことを」

 不思議に思い、尋ねる。

 そうだな。と言葉を選びながら、ロンが話す。

「軍備増強の必要が出てきたからだ。ちなみに俺も軍属に戻る。特別補佐って肩書だ。かっこいいだろ?」

 かっこいいのかはよく分からない。

 釈然としない2人を見たロンは咳払いし、真面目な顔に戻った。

「ここ最近、お前たちの目の色が変わった気がしていた。目指すべきものを見据えたような、そんな目になっている。違うか?」

 2人は目配せをした。そして、頷く。

 ロンは満足そうに、穏やかな笑顔を浮かべた。

「進むべき道は、きっとこの先にある。目指してみろ」

 タクトは、無言で肯定した。

「おう!楽しみだ!!」

 ジクードは、声高らかに頷く。相変わらず声がデカい。

「というわけで、だ」

 後ろを振り返るロン。

 そちらを見ると、宿舎から訓練所に繋がる出入り口に、人影があった。

「あとは頼んだぜ、クローゼ隊長」

 その人影、白髪のクローゼがこちらへと歩いてくる。

 苦手な顔の登場に、タクトは内心で苦い顔を浮かべている。

 クローゼはその冷たい表情を保ったまま、口を開く。

「上からの命令だ。不本意だが、貴様らを受け入れることになった。これからよろしく頼む」

 よろしく頼むと言いながら、態度はよろしくなさそうだ。

「こちらこそ、よろしく頼むぜ!」

 手を差し出しながら、元気よく、よろしく頼むジクード。

 珍しいものを見るかのように、クローゼはその手をじっと眺めていた。

 そこへロンが口を挟む。

「というわけで私も軍属になったんだ。この前の話、忘れてねえよな?」

 無言のまま、神妙な顔つきになるクローゼ。

 この前の話?なんだろうか。

「了解」

 そんな彼から、小さく、低い肯定が聞こえてきた。

 

 軍所属になるからには、正式に自警団を辞めなければならない。2人で、自警団の事務所を目指す。

 道中、ジクードは鼻歌を口ずさみながら、跳ねるように歩いている。どうやら、軍所属になったことが相当嬉しいらしい。

「いつにも増して機嫌がいいな」

 タクトの言葉に、ジクードは素早くこちらを見る。とても眩しい笑顔だ。

「そりゃ嬉しいさ!」

 彼にそこまでの向上心があるとは知らなかった。元々、自分の正義感に人を巻き込むきらいはあったが、その延長線だろうか。


 そんなことを思いながら歩いていると、事務所には、すぐに着いた。

 幸いにも、事務所の建物は被害を免れたらしい。以前来たときと変わらぬ様相を保っている。

 扉を開けると、懐かしの所長が目に入った。

 辞職の話は、ジクードがしてくれた。事情を話すと、所長は深く頷き、了承した。

 彼の肩をポンと叩き、「今までありがとうね」と伝えていた。

 

 自警団を辞めることが伝わり、事務所の表に、団員たちが集まった。皆が笑顔や涙を浮かべながら、ジクードと握手したり、抱き合ったりしていた。わいわいと、涙涙の見送り。

 タクトはというと、1日しか出勤していないから、蚊帳の外だった。

「初転職だからな、一旗揚げてくるわ!」

 そう言ってジクードは自警団の皆に手を振る。

 どこに行っても人に好かれるんだなこいつはと、タクトはその横顔を見ていた。



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