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WINDFALL  作者: あおい
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1.両雄の再会編 13話


 クローゼは漆黒の剣を振るう。空気を斬り裂き、音を立てて走る刀身。プロカルへと放たれた斬撃は、ダガーにより受け止められる。

 衝突の瞬間、重厚な金属の跳ねる音が鳴ったと思えば、地響きのように反響する。

 なぜわざわざリーチの短いダガーを使っているのか。クローゼの中に、疑問が浮かぶ。

「口だけじゃなさそうだ、楽しませてくれるんだな!」

 口元をニヤつかせるプロカル。

 余裕を見せている。それが本当なのか、それとも癖なのか。

 迫り合っていた剣を、振り払う。2人の間に距離ができる。

 隊員の2人は、周りの下位悪魔たちを相手取ってくれている。彼らに任せ、クローゼは推定上位悪魔へと集中することができた。

「ロン元団長さえ居なければ余裕だと、高を括っていたようだな」

 クローゼは、静かに言い放つ。

 プロカルは、「まあな」と返し、続ける。

「しかし、ドネルがやられたわけだ。お前みたいなやつがいたとはな」

 腰に手をやり、もう1本のダガーを抜く。両手にダガーを持つプロカル。

 恐らく、やつの言うドネルとは、あの岩魔力の男だろう。

 それにしても、両手にダガーを持つとは。イルカイザの構成員はほとんどが魔力を持っていると聞いているが、あのプロカルという男、もしや無魔力か?

 いや、決めつけるのは命取りだ。下手に攻め込むのは早計。

「珍しい装備だ。敢えてか?」

「性に合ってるだけだ、細かいこと気にすんな」

 流石にベラベラと手の内は明かさないか。

 クローゼは、黒剣を納める。そして、もう一振りの剣へと手を伸ばす。

「そうか、では遠慮しない」

 地面を蹴り、瞬時に距離を詰めるクローゼ。その勢いを使って鞘剣を抜き放ち、そのまま横薙ぎする。

 居合斬りのような動きに、プロカルは遅れて反応する。ダガーを十字に重ね、防御を図る。

 そこへ衝撃と、耳障りなほど甲高い金属音が轟く。

 鍔迫り合いですらなかった。プロカルはダガーごと吹き飛ばされる。商店の外壁へとぶつかり、砂煙が舞い上がる。

 状況は優勢だ。だが、手応えがない。敢えて抵抗せず、衝撃を逃がしたのか。

 剣を見る。刀身の中央に、刃毀れができている。先ほどの居合斬りによる負荷だ。こうなることは、わかっていた。だからこそ彼は黒剣ではなく、普段遣いの剣に持ち替えたのだ。

 砂煙のほうを見る。油断できない相手だ。追撃すれば敵の策に嵌まる可能性もある。今は様子見だ。

「その程度なわけなかろう」

 クローゼの言葉が届いたのか、砂煙の中から立ち上がる人影。

 ゆっくりと首を左右に曲げ、音を鳴らしている。

「いい一撃だった。ちょっと予想外だったぜ」

 擦り傷はついているが、気にも留めていない。ダメージはほとんどないと見られる。

「それにしては反応が早かったな。何かの魔力か?」

「へっ、そんないいもんじゃないさ。ま、あんたなら、魔力無しでも勝てそうだわな」

 それは自信か、過信か。プロカルの余裕を含んだ表情は崩れない。

 ダガーは、至近距離において効力を発揮する。剣の間合いより、さらに内側だ。

 わざわざそれのみを携行しているということには、何か意味がある。

 考えながら敵との距離を図っていると、聞き慣れた声が飛んできた。

「クローゼ隊長!」

 隊員2人が、駆けつける。周囲の下位悪魔の殲滅を終えたようだ。

「珍しく手間取っていますね」

 悠々と笑う、隊員シルバ。

「上位悪魔なんだ、気を引き締めろ」

 そんなシルバに対して、注意を促すネクタール。

 頼りになる隊員たちだ。彼らは古参隊員だが、歳下であるクローゼに嫌な顔せずについてきてくれる。副隊長のレティシア含め、よい部下に恵まれたと感じている。

「油断するな、やつはまだ魔力を見せていない」

 手短に、状況を伝える。2人は、プロカルの横へと散開する。

「忠実な部下だ。立派に上官を務めてんだな」

 相変わらずニヤけた面をするプロカル。

「背負っているものが違うのでな。悪いが仕留めさせて……!」

 高周波音が響く。クローゼが言い終わる前に、周囲に霧が立ち込める。

 しまった、逃げる気か……と思った瞬間だった。背後に気配がする。

「何を背負ってるか知らねえが、その背中もらったぜ!」

 勝機を確信したプロカルが雄叫びを上げる。ダガーを振り下ろした。

 キンッと鋭い金属音。隊員ネクタールの剣が、クローゼを守る。

 助かった。次の瞬間、クローゼは考えた。

 霧に紛れたやつを捉えるのは難しい。やつはこの魔力で近づき、至近戦闘を行うために、ダガーを使いこなしているのだ。それはさながら、闇に紛れるアサシン。

 それが、プロカルの真の姿だったのだ。

 ならば、霧を晴らして、正体を暴けばいい。

「シルバ!温度を上げろ!」

 短く指示を飛ばす。

「了解!」

 シルバは手を突き出し、力を込めている。

 彼の魔力、それは周囲の温度を操る魔力。操れる温度はおよそ摂氏10℃から25℃まで。はっきりと言えば、戦闘向きの魔力ではない。

 だが、霧を操るプロカルには弱点たり得た。気温が上昇し、晴れ渡る。

 霧に隠れていた奴の姿が、顕になる。

 プロカルは舌打ちする。そして動き出した。

 霧魔力がなくとも、やつの動きは脅威であることには変わらない。

 目の前のクローゼに、俊敏な動きで接近する。

「おらあ!」

 すかさず移動したシルバが剣を振り、プロカルの進路を妨害する。

 プロカルは予想外の攻撃に、体勢を崩す。

 その隙にネクタールがプロカルの片手のダガーを叩き落とす。

「いっちょ上がりだ!」

 ネクタールは、勝機の声を上げる。

 彼らの活躍を見たクローゼは、口元がほころぶ。

 流石だ。頼りになる。

 近距離で体勢を崩しているプロカルへ、容赦なく黒剣を振るう。

「ぐゔ!」

 力の入った剣に対し、片手のダガーで防御するが、明らかに力が足りないようだ。ジリジリと、黒剣がプロカルへと迫る。

 そのまま、振り下ろされる黒剣。クローゼの剣が、敵に届いた。

「がはっ!」

 胸元から腹部にかけて、一直線に振り切られる。またたく間に斬り伏せた。

 地面へと倒れ込む、プロカルの体。

 クローゼは黒剣を振り、血を飛ばす。

「やる……な」

 息も絶え絶えの、プロカルの声が聞こえる。

 吐血しながら、彼は呼吸を荒くしている。

 クローゼは剣を、突きつける。

「何か言い残すことはあるか」

「へっ、ねえよ」

 目を閉じるプロカル。

 クローゼは、剣を振り上げる。

 そのまま、無言で彼の首を斬り落とした。





 ロンは、リリアックより北方に位置する、クアルタの町を訪れていた。

 六席の1人らしき人物の目撃情報があったとのことだ。現騎士団長のシヴァンは別用で留守にしているようで、急遽ロンに白羽の矢が立ったのだ。

 全く人使いが荒いやつらだ。ロンは心の中で、総司令であるウラナスに向かって舌を出した。

 クアルタは、王都への新たな流通経路開通に伴い生まれた、比較的新しい町だ。リリアックより活気があり、経済規模も大きい。かつてのリリアックも、この活気があった。だがそれも遠い昔のことのように感じる。

 目撃情報があったのは、町外れの屋敷だという。折角の出張だが、観光もしていられない。下請けの悲しい実情だな、と、ロンは町の大通りを泣く泣く通り過ぎる。

 そういえば、タクトとジクードも折角の王都出張で、とんぼ返りさせてしまった。私は王都には何度も行き慣れていたが、二人とも、同じような気持ちだったのだろうな。

 あとでお土産でも買っていってやろう。


 暫く歩くと、件の屋敷が見えてきた。ボルドーに染まった屋根に、煉瓦造の外壁。2階建ての、比較的コンパクトな造りだ。

 中から人の気配はしない。ロンは、腰に携えた剣に、手をかけて進む。

 屋敷に近づき、扉に手をかけようとした時だった。

 ロンは、後ろを確認せずに、体をひねって剣を振るう。

 それは、空を切った。だが、無意味な一振りではなかった。

 何者かが、後方へと飛び退いている。ローブを目深に被った、剣士だ。

「躱したか。お前が六席だな」

 ロンが問いかける。その剣士は何も答えない。

 不気味な雰囲気だ。やはり普通とは何かが違う。

 その剣士の背後から、もう一人、現れた。老人だ。何やら白い服を着ている。

 ローブの剣士がイルカイザの六席の一人だとすると。話を聞いたことがある。イルカイザの首謀者である、とある男の話を。聞いてみる価値はあるな。

「お前がトルキアか?」

 イルカイザの総帥、トルキア。その名を聞いた老人は、ゆっくりと頷く。

「如何にも。元王国軍団長ロン。流石の勘だ」

 あっさりと認めやがった。それに、私が来るのを分かっていたかのような口ぶりだ。

「そうか、助かるな。わざわざ本拠地を潰しに行く手間が省けるというものだ」

 ロンは、重厚な龍の装飾が施された剣を構える。

 それを前にしても、トルキアはその不遜な態度を崩さない。

「噂の龍剣。見せてもらえるとは光栄だ」

 そう言うトルキアの前に、ローブの剣士が立つ。

 主人を守る忠犬ということか。やつのことは、耳にしたことがない。ならば、小手調べだ。

「そこまで興味があんなら、見せてやるよ」

「フッ、いけ」

 トルキアの指示により、ローブの剣士が走り出す。

 早い。人間とは思えない速度の動きだ。

 だが、こちらとてそれには慣れたものだ。

 ロンが迎え撃つ。ローブの剣士と、鍔迫り合いになる。

 それは凡そ、人の力同士がぶつかったとは思えないほどの衝撃だった。分厚い爆音が、周囲に鳴り響く。

 



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