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WINDFALL  作者: あおい
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1.両雄の再会編 12話

 捕虜を搬送し終えたクローゼは、戦場へと戻っていた。

 彼は隊員の2人を連れ、敵を斬りながら進む。

 敵がイルカイザの連中であることは、やつらの見た目や戦い方、そして異常な魔道士の多さから、分かっていた。大方、先日の拠点制圧の報復だろう。しかし、それにしては1週間の空白期間が引っかかる。しかも、ちょうど元団長の不在のタイミングだ。何か裏があるかもしれない。

 六席が出没したと言っていた。彼をつりだすための布石ということか。つまり、それは。

 クローゼの鋭い斬撃が、敵兵を斬り裂く。力いっぱいに振られた一撃は、目標を断ったあとも勢いを失わず、地面を抉る。

 それを見た隊員は、ギョッとする。

「なんか怒ってんな隊長」

 小声ながら、聞き逃さなかった。だがそれは、クローゼを冷静にさせた。

 ロンという男は、たしかに巨大な壁だ。それを避けるための作戦を練ったのは、利口と言えるだろう。しかし、敵はこちらの戦力を見誤っている。

「侮られたものだな」

 心から漏れ出た声が、小さく吐き捨てられる。それは隊員の耳には届かなかった。

 その時、目の前に、道の向こうから歩いてくる人影を確認する。不穏な雰囲気を漂わせている。どうやら只者ではないらしい。

「恐らく上位悪魔クラスだ。背中を補い合う」

 クローゼは素早く、言葉短く隊員たちに指示を飛ばす。恐らく今回の襲撃の親玉だろう。目に物見せてやりたい気持ちは抑える。油断してはならない。

 その上位悪魔が歩みを止めた。

「どうやらてめえのようだな。大切な弟子の仇は討たせてもらう」

 やはりか。弟子というのは、恐らくあの拠点にいたうちの誰かだろう。恐らくあの中位悪魔程度の、岩魔力の男だ。

 ひとまず、今はかき乱すのが先決だ。

「弟子?知らんな。人違いだろう」

 上位悪魔はふっと笑う。

「顔に書いてあるぜ?俺がやりました、ってな。流儀だから名乗らせてもらう。俺はプロカル。このあたりを任されている」

 クローゼは目を細めた。名乗ってくるイルカイザの構成員など、初めて見る。よほどの自信がその風格からも伺える。王都に程近い、リリアック周辺の責任者ということだけはあるのだろう。

「俺は名乗らん。貴様はただの討伐対象だからな」

 クローゼは、2本携えている剣のうち、黒い刀身の剣を抜く。これは通常使わない。強敵相手に使うものだ。上位悪魔相当の敵は久々だ、腕が鳴る。



 タクトは、戦場を歩いていた。強奪した剣を、まじまじと見て、振ってみる。

 上等品とまではいかないが、実戦に耐えうる品質ではあるようだ。これを雑多な下位悪魔程度の兵にも配給できていることに、イルカイザの軍事力が伺える。

 とりあえず武器を入手するという当初の目的は果たした。これからどうしようか。

 今はこのリリアックを拠点にしている。町が襲われているということは、安定した生活の危機ではある。王国軍が動いているとは言え、少数だ。自警団も頭数はいるが、実戦となると心もとない。

 考えながら歩いていると、大声が耳に入った。

「君、剣を持っているということは戦えるんだろ!なんで戦ってくれないんだ!」

 それは、避難中らしい町民の男の声だった。

 彼を見て、タクトはキョトンとする。

「逆に聞くが、お前はなんで戦わないんだ?」

「なんでって……!」

 文句を言ってきた町人こそ、住処であるリリアックは守るべき対象であるはずだ。それを人任せにし、自分を責めるのかと、不思議でしょうがなかった。

「この剣、お前が使うか?」

 タクトは町民に剣を差し出す。心にもないことではあった。折角手に入れた剣なのだ、受け取ると言われればまた困るし、やっぱり嫌だと言うだろう。だが、彼は受け取らない。そんな覚悟のある人間ではないと、タクトには分かっていた。

 町民と押し問答していると、またも声をかけられる。

「何をやっているのですか!」

 涼やかだが、激しい熱のこもった声。聞き覚えのある声に、タクトは小さく舌打ちした。

 例の修道女が、立っていた。しかし、敵の陰がないとはいえ、ここは戦場だ。なぜここにいるのだろうか。

 救われたと言わんばかりに、町民の男は逃げ出した。

「人でなし!」

 そう叫びながら、明後日の方向へと走り去る。そっくりそのまま言い返してやるよ。

 修道女はツカツカとタクトへと歩み寄ってくる。怒ってるな。どうしようか。

「奇遇だな、なぜここにいる」

 話を逸らそうと、声をかける。

「勿論、皆さんの避難誘導です」

 意外と律儀に答えてくれた。

「そうか、ご苦労だな」

 そう言ってその場を後にしようとした。が、呼び止められた。

「ちょっと待ってください」

 そりゃそうだよな。タクトは足を止める。

「あなたは、ここへ戦いに来たのですか?」

 その疑問に対しては、半分イエスで半分ノーと言わざるを得ない。武器調達に来たのだから、戦いに来たと言えばそうだし、そうでないとも言える。

 どうしようか迷ったが、無難な答えをすることにした。

「いや、戦いに来たのではない」

 修道女の顔を見て答える。彼女は口を少し開け、言葉の意味を咀嚼しているようだった。訝しげな視線が、タクトに突き刺さる。逃げ出したいな。うんざりした顔で、俯く。

 少しして、彼女は口を開いた。

「では、逃げるなら逃げてください。この町に、1人でも多くの血は流させたくないんです!」

 タクトはその言葉に、顔を上げた。

 この修道女、逃げろと言ったか?

 そんなことを言われたのは、初めてかもしれない。しかも戦闘力のない一般人にだ。彼の心は揺らいだ。

「逃げろ……って?」

 その時、空気に突き刺さるような、高周波音が流れる。この音は……!

 修道女の右方背後。距離はあるが、冷徹な雰囲気をまとった男。直感でわかる。イルカイザだ。手には、黒鉄が液体のように蠢いている。

「伏せろ!」

 タクトは、修道女の背後へ周り、剣を構える。

 射出された黒鉄を、受け止める。鈍く擦れる音。打ちたての鋼のような臭いが鼻を突く。勢いが強い。横方向へ、なんとか受け流す。

 一瞬、後ろを確認する。修道女は腰を抜かしたように倒れているが、怪我はなさそうだ。

「今のうちに逃げろ!」

 その言葉にハッとし、彼女は立ち上がる。心配そうな顔でこちらを見たが、走り出した。

「ありがとうございます!」

 こんなときにもお礼は欠かさないらしい。律儀なものだ。

 タクトは、敵を見やる。ゆっくりと歩き、距離を詰めてきている。その速度は、警戒ではない。早く動く必要などないと言わんばかりの、漫然とした歩み。

 強いな。先ほどの魔力攻撃の手応えもだが、やつにはあの時の岩男以上の余裕を感じる。

 あの修道女は、無事に逃げおおせただろうか。……ん?

 そんな心配をしていた自分に戸惑う。怪我治療の恩を感じているからだろうか。恐らくそうに違いない。そうだと決め、タクトは敵に集中する。

 先ほどの攻撃、あれは恐らく鉄の魔力だろう。鋭く、射程距離が長い。威力も強い。あれがジャブ程度の出力とは思いたくないほどだ。

 鉄魔力の男、鉄男は、歩みを止める。無表情。まさに鉄の権化かのような様相。黒く光沢のある髪が、肩下まで伸びている。

「迷いが見えるな」

 地金を打ったような声が、低く響く。

「なんのことだ」

 迷い?なんだ、この男。タクトも無表情に、その言葉に返す。

 鉄男は、表情を一切崩さない。

「生き方が歪んでいる。芯が見えないのだ」

「初対面の相手に言うことではないな」

「御尤もだ。だが、それだけ透けている」

 何が言いたいんだこの男は。揺さぶってきているのか?やつの余裕ぶりを見るに、そうとは思えない。もしかして本気で心配してくれてるのか?

「ありがたいお言葉だな。人を殺そうとしたばかりの男のセリフとは思えないが」

 鉄男の口から、ふっと息が漏れる。表情は崩れない。本当に今笑ったのか?

「余裕そうだな。その仮面、どう剥がれるか見物だ」

 手に、液体金属が暴れる。それは長く形を成し、1本の剣となった。レベルの違う魔力操作能力だ。あの余裕ぶりも納得だな。これが上位悪魔か?

「そっくりそのままお返しする。……自慢のキューティクルを切り刻んでやるよ」

 そう言いながら、タクトは剣を小さく横に振る。

 先に動いたのは、鉄男だった。一瞬の間に、間合いが詰まる。

 魔力で構築した剣が、振り下ろされる。口の割には、単調な攻撃だ。タクトは体の軸をずらし、最小限に攻撃を躱す。鉄剣は、路面に衝突しヒビを入れる。

 あの鬼教官の指導に晒されてきたのだ。そのへんの剣士など、造作もない。タクトは、この一週間を思い出し、すぐに心にしまった。やはり思い出したくないかもしれない。

 違和感を覚える。鉄剣は、地面に突き刺さったまま。少し、振動を感じる。

「っ……!」

 タクトは危機を感じ、飛び退いた。

 そのすぐ後のことだ。立っていた場所の路面が割れ、鉄剣が伸びてくる。

 あのままだと、串刺しだった。冷や汗を浮かべる。

「避けたか。思ったよりはやるようだ」

 鉄剣が、縮んでいく。一瞬にして、元の長さに戻っていた。

 伸びるのか。道理でわざわざ剣を持たないわけだ。

「随分便利な魔力だ。羨ましい限りだ」

 軽口を言いながら、体勢を立て直す。一瞬も油断できないな。

 鉄男は、タクトへと自前の剣を向ける。

「その減らず口、断ち切ってやろう」

 無表情に、宣告した。


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