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古風な二人  作者: 八島唯
8/18

一緒に走る二人

「えー、では合宿のオリエンテーションを始めます」

 大きなセミナールーム。二百人近くの生徒がここに集められる。

 正面のスクリーンに投影される日程。それぞれ、個人用のタブレットでも確認する。

「午前は主に学習。昼休みのあと、午後は基本体を動かしてほしいと思います。運動部の生徒はそれぞれの指示に従い、それ以外の生徒は図書室もしくは野外に似て自主研究に励んでもらいます」

 私立高校ならではの自由度。ある意味修学旅行よりも充実したカリキュラムかもしれない。

 午前の学習は進度別となっている。憂衣那は当然特Aクラス。イはそれより一ランクさがり、標準Aクラスである。軍人として身につけた知識を用いれば高校の内容など大したことはないのだが、イはあえて実力をセーブしていた。

 一つには目立たないようにするため。この世界で注目をあまり浴びたくないのが、第一の目標である。

 もう一つは憂衣那とあまり一緒にならないようにするため。四六時中そばに『アレ』がいるのは実際、うざいものがあった。

 あっという間に午前は終わる。

 昼食は合宿所の大ホールで摂ることになっていた。

 ブッフェ、という程でもないがおかずに選択肢が多い。やはり高校生、そこは食べるのが仕事である。

 イは比較的控えめに皿におかずを盛り、なるべく人のいないテーブルに腰掛ける。

 これでいい。この間の騎馬戦では少し目立ちすぎた。自重、モブ化、ステルス発動.......そんなことを思いながらゆっくりと食事を口に運ぶ。

「草野......イさまですよね......」

 思わず吹き出すイ

「.......すいません、大丈夫ですか?」

 差し出されたハンカチを受け取りながらイは振り向く。

 イよりも長い黒髪。ザ清楚という面持ちの少女。メガネを掛け、身長はやや高めだがいかにも東洋のお姫様といった感じの生徒がそこに立っていた。

「隣で餐にあずからせていただいてよろしいでしょうか」

 文語調の言葉にイはオロオロしながらも頷く。

 食事を始める二人。

 イの目はその和風少女に釘付けとなる。

 なんとも食事をする姿が絵のように美しい。箸の運びまで端正であるように感じられる。

「わたくし、七月に転校してきましたの」

 ああ、そうかとイは合点する。自分のクラスではない転校生など知る由もない。

 しかし――

 なぜ彼女が自分に声をかけてきたのか――それが不思議であった。

「先日の騎馬戦――感動いたしました。失礼ながら体の小さい草野さまが柔道部の主将をあんなに軽々と投げてしまうことに。一度お話したいと思えど、中な中機会を得ず――この合宿にてそのお姿を見つけましたこと、何よりの僥倖と卒爾ながら声をかけさせていただいた次第で」

 文語体をコンパイルするのに少し大変ではあるが、言いたいことは理解できた。

 つまり、イにこの美少女は興味があるということである。

 イにはそれほど友人はいない。

 憂衣那を例外として、彼女の求める友人は静かで文学談義ができるような少女である。

 なかなか、そういう存在に巡り合うことができなかったがついに――

 何より顔が好みである。

「失礼、名乗っておりませんでした。二年A組、藤原霞桜みおんと申します。また、お会いすることもあるでしょう。逢瀬の時まで、どうかご壮健にあられますよう」

 いつの間にか霞桜みおんは食事を終えていた。皿は洗ったあとのように白い。

 すっと立ち上がると、トレイを手にゆっくりと歩き出す霞桜みおん

 その立ち振る舞いに圧倒され、イは息を呑んだまま、ただ彼女の去りゆく姿を見送るほかなかった――



「お、図書室じゃないのかイ

 ショートパンツ姿のイを見て、憂衣那は不思議そうに言う。

 合宿所に敷設されたグラウンド。公式の陸上トラックを十分満たしていそうな広さである。

「いや、ちょっと気分転換」

 そう言いながら準備運動を始めるイ

 ニヤニヤしてみてくる憂衣那の視線を尻目に、ダッシュを始める。

 下手な陸上の選手よりは遥かに早い。異世界での肉体をなくしたとはいえ、体を動かす能力の記憶はあった。あとは異世界に比べて出力の極めて低い少女の体をどう有効に活用するかである。

 周りに人がいないことを確認したうえでの、能力解放である。

「じゃあ、おれもいっちょやるか。お相手願うぜイ!」

 そう言いながら一気に追いつき並走を始める憂衣那。

 二人はまるで風のようにトラックを駆け巡る――

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