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古風な二人  作者: 八島唯
7/17

バスの中で寝る二人

 山道を行くバス。合宿所は学園の所有らしい。幼稚園から大学までの一貫校ならではである。

 最初は珍しかった景色も、だんだん単調さに眠気を催してくる。

 イもうとうとし、いつの間にか眠りに落ちたようだった。

 最近よく見るのは『異世界』の思い出。

 それは現実に起きた出来事であり、そして戦争の記憶。

 エリーアス=フォン=ヒルベルトという陸軍中尉の物語である。



「こちら五号機――友軍機、応答せよ」

 雲海の中を行く一機の戦闘機。そのグレーの機体にはいくつか弾痕が見られ、戦闘の後であることをうかがわせた。

 何度も無線で交信を試みるエリーアス。しかし、いつまで経ってもその返信はやってこなかった。

(ワレヲノコシ、ゼンキゲキツイサル)

 出力を最大限にして、そう基地に連絡するエリーアス。

(ナオ、ワレモヒダンセリ。イジョウヲサイゴノレンラクトス)

 その時、左足に激痛が走る。

 先程の戦闘でコクピットにも銃弾か破片が飛び込んできたようだった。

 戦闘機の操縦桿を左手で固定しながら、三角巾を左足の付け根にぎゅっと締める。これでしばらくは大丈夫だろう。幸い足の動脈は外れているようだった。

 しかし、問題はそこではなかった。

 敵爆撃機を襲撃した際に、返り討ちを食らった。戦闘機は大きく破損し、残りの燃料も乏しい。帝都の近くゆえ、不時着すればなんとかなりそうだがそもそもそのショックにこの戦闘機が耐えられるか――偉大なるオストリーバ陸軍航空隊の誇る『ルフトドラッヘ―T5』の機体が――

 ほぼ、戦局は決まりつつあった。

 四方を敵に囲まれたオストリーバ帝国。卓越した工業技術と石炭資源によって当初は優勢に『大陸大戦』を進めていたが、それも二年のことであった。敵連合国に次々と自由主義諸国が参戦し、敗色は誰の目にも明らかとなっていた。

 大陸暦一八四四年春、連合国軍はついにオストリーバへの全面攻勢を開始する。東西からはさみうちされる、オストリーバ。

 帝都も連日のように空襲を受ける。

 対空砲火も戦闘機も、質量に優勢な連合国にオストリーバはなすすべがなかった。

 それでも、なけなしの防空部隊をかき集めて帝都の防衛に当たる陸軍。

 その中のパイロットの一人がエリーアス=フォン=ヒルベルト中尉であった。

 貴族の出身で、オストリーバ帝国でも名前の知られた飛行機乗りである。エースとして『帝国陸軍航空隊の至宝』と呼ばれたこともあった。

 それほどの秘蔵っ子を使わなければならないくらいに、オストリーバは疲弊していた。

 敵の爆撃機――B34スカイハンマー。三〇トンの爆弾を搭載し、高度一万メートルをゆうゆうと飛ぶ空の要塞。これが開発されたことで、オストリーバの都市部は焦土と化す。

「われらが『ヘファイストス』よりも、敵の『ヘファイストス』がまさっていたということか。『ヘファイストス』の技術はオストリーバが世界一だと思っていたが」

 不思議なことをエリーアスはつぶやく。

 現代戦は『ヘファイストス』の技術の差によって決定する。

 これが、この世界の常識であった。

 段々とエリーアスを乗せた『ルフトドラッヘ―T5』の機体がローリングを始める。

 この機体は本来、液冷式の戦闘機『バッセルドラッヘ―T3』の機体を空冷式に改造したものである。その設計の無理が来ているのかもしれない。

 ゆっくりとエリーアスは目を閉じる。

 最後の時を迎えるために――


「おい、ついたぞ」

 目を開けるとそこには憂衣那の顔がある。そして大きな胸。

 合宿所についたようだ。

「なんか、うなされてたけど大丈夫か?すごく抱きつかれてな。まあ、ねがったりかなったりではあるんだけど」

 ハッとする。無意識に憂衣那にすがりついていたようだ。

 顔が真っ赤になるイ

 にひひ、と憂衣那は笑みを浮かべる。

 それにしてもあの夢――間違いなくあの時の記憶であった。

 先日、ゆさか副会長に指摘された『マシーネンフュルスト』の能力が発現した日のことである。

 この世界とあの世界では物理法則が違っている。

 よって、『マシーネンフュルスト』が現われるのはありえない、ありえないことなのだが。

「まあ、副会長も来ているようだしな。いろいろ決着つけるのも面白いかもな。まずは風呂、そしてメシだ!」

 こういう時は前向きな憂衣那の言葉に救われる。そういえばあの世界でもよくあったな、とイは思いながら。

 バスはゆっくりと合宿所に着く。

 そこはちょっとしたホテルのような雰囲気の建物だった。

 バスを降りる二人。

 入口の方でたまっている生徒会の集団――小池ゆさか副会長の姿を横目に見ながら。

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