表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古風な二人  作者: 八島唯
6/13

合宿に行く二人

 二人の間を抜け、階段を降りるゆさか副会長。

 後ろ手に組み、ゆっくりと歩みを進める。

「君たちのことに気が付いたのは、私が三年生になってからだ。生徒会の副会長になったことで、いろいろ生徒情報が手に入るようになってね」

(生徒会に個人情報のぞかれるって......この学校大丈夫かよ?)

 心の中で憂衣那はつっこむ。

「さっきの技はなかなか。さすがは格闘戦ではトップの成績を取っていたフォン=ヒルベルト生徒、いや中尉か」

「草野イです。この世界では」

「そうか、失礼。草野生徒」

 じっと二人を見つめるゆさか副会長――見た目は小柄な少女であるがオーラが違う。異様なモノクルとともに、何とも言いがたい存在感。あたりの温度が一度は下がったようだった。その雰囲気はコンラート=フュルステンベルク校長そのものであった。

 士官学校時代の教官――校長でもあった。学者肌であり、提出したレポートに何度も『再提出』のハンコを押されたことを憂衣那は思い出す。

 二人の卒業とともに、フュルステンベルク校長も現場復帰し最終的にはオストリーバ帝国の副参謀長という顕職につくこととなる。まったくもって雲の上の存在であった。

「で」

 イは恐れず問う。

「この世界はわれわれは全く別人のはず。我々に関与する必要性を感じません」

 憂衣那は思わず身を乗り出す。あまりに強い語気に驚いて。

 少し間をおいてゆさか副会長はうなずく。

 その次の瞬間、けたたましい音が空間を切り裂いた。

 二発。

 気がついた瞬間、二人の少女は受け止めていた。

 ゆさか副会長は手に小さな拳銃を構えていた。その銃口からゆっくりと紫煙がたなびく。

「アンティークだが、初速は速い。私の腕は知っているだろうね?少なくとも現役の軍人としては上位三%にはランキングされるだろうね。さて、君たちは銃弾をどこに受けたかな?」

 イ。体を斜めにして銃弾を紙一重で避けた。壁に小さな弾痕ができて、ひびから細かい礫が舞い落ちる。

 憂衣那。あろうことか両の掌で弾丸を受け止めた。床に丸い弾丸が落ち、コロコロと転がる。

「君たちが、ただ記憶を持ってこの世界に転生しただけなら私も干渉はしません。しかし――君たちはどうやらこの世界にも持ってきたようなのですよ――『マシーネンフュルスト』の能力を――」


 スポーツ大会は終わり、終業式を迎える学校。

 あれ以来、ゆさか副会長と二人は接触していない。

 あきらかに、二人の様子があの時から変わっていた。

「イちゃん、どうしたの?」

「う、ううん。ちょっと調子悪くて」

 イはそれらしくごまかす。

「憂衣那、お前らしくないな~フリーキック外すなんて」

「おう、どんまい!」

 憂衣那は助っ人に入ったサッカー部で珍しくミスをする。

 それだけ二人にとって、あの言葉は衝撃的であった。

 『マシーネンフュルスト』の能力――という言葉が。

「遊びに行くぞ」

 夏休み初日、憂衣那がそう切り出す。

「行かないよ」

 そっけないイ。とても憂衣那にたいしては塩々しい。

「お前なぁ......せっかく気分転換させてやろうと思っているのに......」

 憂衣那は説明する。

 この学校、清萩学園高校では夏季合宿が予定されていた。部活動の生徒を集めて、勉強と練習をフルに行うらしい。元女子高にしてはなかなかの脳筋である。

「わたし部活はいってないし」

「それ言ったら私もだわ」

 憂衣那は特定の部活に入っていない。しかしそのスポーツ万能さから助っ人やコーチ的なことをよく頼まれていた。

「で、私が行くとなるとマネージャー的な人が必要になってな。そうしたらイしかいないわけで」

 普段だったら断る誘いであるが、気分的に鬱屈としていたこともある。

 合宿は自然豊かな森の中で行うらしい。夜星を見ながらさぞかし読書もはかどることだろう。

 イはなるべくしぶしぶの態で了承する。


 当日。

 学校の校庭にきれいに大型バスが十台ほど並んでいた。引率する教員の姿も見える。そして、私服姿のイと憂衣那も。

「う~ん、イはやっぱりかわいいな」

 憂衣那のふざけた言葉に肘鉄をくらわすイ

 その時、先頭のバスに乗り込む人影にイは気づく。小柄な少女――それはゆさか副会長の姿だった。

「......そうか、生徒会の執行部も参加するのか。確かにこの行事、生徒会の主催で生徒会の予算だからな......」

 なんとなく、ゆさか副会長がこちらを見て微笑んだような気もする。

 大きく首を振るイ。余計なことを考えるべきではない。

 まずは、この合宿楽しく過ごさないとと思い直した。

 それぞれの思惑を胸に、大型バスは走り出す。

 イのとなりに当然のごとく憂衣那が席を占めながら――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ