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古風な二人  作者: 八島唯
第1章 目覚める二人
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一緒に食べる二人

 朝。イはいつものように登校する。

 すでにクラスメイトが何人か教室で雑談していた。

「知ってる?あのファミレス」

「そうそう、ニュースでやってたね」

 ぎく、とイは身構える。なるべく目立たないことをイは『この世界』では目指していた。ただ、外国文学を読んでクラシックの音楽を毎日楽しめればそれでこの人生は終了と心に決めていた。

 そっと、自分の席に移動する。なるべく気配を消しながら。

「草野さん!知ってる!」

 あまり親しくもない生徒が大きな声でそう問いかける。

(まずい......)

 イは固まってしまう。

「草野さんと仲良かったよね!Aクラスの永井さん!学年首席でスポーツ万能――」

「で、な、永井さんがどうかしたの」

 知らないの?友達なのに、とその生徒は不思議そうな顔する。

(友達関係は異世界で完了したはずなんだけどなぁ...)

 憂衣那の顔がぐるぐる頭の中で回る。とても不快だな、と自分で突っ込みを入れながら。

「きのうその永井さんが、通り魔を捕まえたんだって!なんかうちの高校の生徒を守るために......こう!」

 そういって右足を上げる生徒。

「護身術てやつ?さすがは永井さん!一刀のもとに組み伏せたんだって」

 あれ、憂衣那のやつ抜刀してたかなと思いつつ。

 まあ、自分が目立ってなければいいやと思いつつ。

「イ~!いるか~!」

 憂衣那の声が教室に響き渡る。きゃぁ!と生徒たちが歓声を上げる。

 両手でイは顔を覆うのだった――


「もう、クラスに来るな」

 学校の裏庭。緑が広がりその中に小道が伸びる。その一角のベンチで弁当を食べる二人。イと憂衣那である。

「つれないねぇ――」

 そういいながら、イの弁当を狙う憂衣那。今日は冷食のささ身チーズフライがターゲットらしい。

「自分のを食べろ」

「いやぁ、休み時間に食べちゃってな~。最近、部活の真似事みたいなことしてるから腹が減って」

 確かに燃費は悪そうだな、とイはもぐもぐしながら心の中でつぶやく。

 自分よりは一回り大きい体。胸もおしりも。

 ああ、そういえば敵の戦車がこんなんだった。装甲が厚くて、そのくせ機動性は高く――厄介な敵だった。まあ、こいつほど厄介ではないが――

 ふと弁当の中を見る。いつの間にか半分くらいおかずもご飯も消滅していた。

「......」

「そう怒んなよ。帰りおごっから」

 無言で弁当の蓋を閉じるイ

「そもそも――」

「ん?」

「なんで人気者が私に粘着するの?いくらでも一緒に食べる人はいるだろうに――」

 んー、と人差し指を口に少し憂衣那は考える。

「そりゃあ、イと食べたいからだろうな」

「なんで」

「前の世界でもこういう風に平和にメシを食べたかった。それが今は毎日可能だ。しない手はなかろう」

 口調がローベルトっぽくなる。

 いまいち、呑み込めないイ。つまりエリーアス。

「まあ、あまり深く考えるな。そうしたいってことだ」

 そういいながら憂衣那は軽くイの長い髪をかき上げると立ち上がり、背中を見せて立ち去る。

(食い逃げ......)

 イはまだ気づいていない。憂衣那の本心に。



「夏休み前にスポーツ大会があります。今日はその競技の割り当てをしたいと思います」

 担任の声がクラスに――あまり響かない。

 LHRが始まってから、もうすでにクラスはジャングルである。

 このクラスは女子だけのクラス。若い女性の担任にはその猛獣を抑えるだけの能力に欠けていた。

 体育委員がかつかつと黒板に競技名を書く。

 なるべく、すぐ終わって目立たなくて憂衣那とからまないような競技がいいな、とイは策をめぐらす。

 駅伝リレー。論外だ。こんなのやったらしゃれにならん。

 障害物競走。まあ、悪くはないが目立ちがちだな。

 借り物競争。だめだめ憂衣那が絶対何か絡んでくる。

 騎馬戦。騎馬――戦?

 おかしい。元女子高のこの学校にそんな競技があるはずがない。目をこするイ

「はーい、残りは騎馬戦だけです。まだ登録してないのは――」

 体育委員の子がチョーク片手にそうアナウンスする。

「イさんかな?じゃあ、騎馬戦と」

 かつかつと騎馬戦のところに名前を書く体育委員。

「ちょっちょちょちょちょ」

 不審な電波を吐き出すイ

「えー、もうここしか空いてないよ。大丈夫、イさんどんくさいけど運動神経はいいし」

 おい!落とした後に持ち上げたろ!っていうかそれアンチノミーだから!

「今年からできたらしいよ。生徒会の発案で。学年対抗でやるんだって」

 いろいろ聞いたことのない情報が洪水のように押し寄せる。

 そうすると、次に予想されるのは――

「おう、騎馬戦にしたよ。え?イも?!こりゃあ運命だな。まかせとけ!昔のように背負ってやるぜ!」

 休み時間に教室に響く憂衣那の声。ただイは頭を抱えるばかりだった――


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