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古風な二人  作者: 八島唯
第1章 目覚める二人
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茶会を終える二人

「私が説明しよう」

 こほんと咳払いをしてゆさかが名乗り出る。

「この事に気づいたのは一年前のことだった。『異世界』の記憶は存在する。しかし、能力はない。まあ、女性に生まれたとはいえそれなりにこの平和な日本の人生を全うするつもりだったのですが――」

 霞桜みおんが視線を落としながら、目を閉じる。

「藤原霞桜みおん氏に出会うこととなりました。当時は、別な学校に通学されていたのですが――」

 霞桜みおんは転校生だったのか。同学年でありながら、道理でイたちが知らないわけである。

「街角の雑踏で彼女の姿を、一瞬見ました。その時の感覚――忘れることはできません。ああ、『異世界』の記憶を持った人物がまだいたのかと。私は彼女の後を追いました。そして、見てしまったのです。あの、『マシーネンフュルスト』の能力を。その時、私は確信しました。この世界でも『マシーネンフュルスト』の能力を発動させることができると」

 そう言いながら、『マシーネンフュルスト』の能力を具現化するゆさか。三人の眼の前に平面の写真のように要塞の姿が浮かび上がる。

「よく見てください――この要塞を」

 イがまじまじとその画像を見つめる。そして気づく。

「違う......これは、国境要塞『インクイジツィオーンス』じゃない......!」

 まるで教え子が口頭試問に正解したかのように微笑むゆさか。

「そうです。これは異世界の『インクイジツィオーンス』ではない。これはこの世界の第一次世界大戦後、フランスとドイツの国境沿いに作られた要塞――『マジノ線』の要塞の一つです」

『マジノ線』。その名称は聞いたことがある。ドイツとフランスの国境沿いに建設されたフランス軍の対ドイツ要塞群である。何気なく見た歴史の番組で取り上げられていたその要塞。『役立たず』の代名詞のように言われていると。

「『マシーネンフュルスト』の能力はこの世界において、『異世界』と似たような兵器があることで発動する。こちらの世界に国境要塞『インクイジツィオーンス』が存在しなくても、同じように『マジノ線』があればそれが『マシーネンフュルスト』となって私達能力者にのりうつることを発見したのです」

 憂衣那が会得のいかぬ顔をする。

 それを見越したように、霞桜みおんが『マシーネンフュルスト』の能力を具現化する。

 そこにはいかにも無骨な戦車が表示される。イは気づく。似ているが、これは『異世界』の重駆逐戦車『ゼーレンヤーガー』ではないことに。

「これはドイツの重駆逐戦車『ヤークトティーガー』と申します。前面250 mm、主砲は55口径128 mmと『異世界』の重駆逐戦車『ゼーレンヤーガー』とスペックはほぼ同様ですのよ。ベルリン攻防戦には参加しませんでしたが――果たせる役割は似たところがありますわね」

 ふふっ、と霞桜みおんがいたずらそうに笑う。まるで自分の飼っている猫がなにかそそうでもしたのを、たしなめるように。

「じゃぁ俺達の『マシーネンフュルスト』もこの世界に似たものがあるってことか――?」

 ゆさかが小さくうなずく。どうやらそれも調べ済みらしい。

「具現化をしてみてください――」

 ゆさかの言葉に戸惑いつつも、イと憂衣那は自分の『マシーネンフュルスト』を具現化しようと、念を込める。

 ゆっくりと二人の前に浮かび上がる機影。

 一つはレシプロの戦闘機であり、もう一つは戦艦である。

「草野生徒の『ルフトドラッヘ―T5』は第二次世界大戦で日本の陸軍機として活躍した、『五式戦闘機』。そして永井生徒の戦艦『ラングトール』は同じく旧日本海軍の戦艦『長門』がこの世界では『マシーネンフュルスト』の役割を担っているようです」

 ゆさかが、ゆっくりとティーカップをテーブルに置く。

 一拍の沈黙。三人の視線が集まる。

「……私は、この現象を――」

 声の調子をわずかに落とし、言葉を刻むように続けた。

世界重奏メーアヴェルテン・アンサンブルと名付けました」

 その響きは静かに、しかし確かに場を支配した。

 四人の胸に刻まれたその名は、やがてこの物語を貫く鍵となる。

「いずれにせよ、この秘密は四人で共有したいと思います。もっとも、四人ですんでいるうちはいいのですが――」

 新たな『マシーネンフュルスト』の能力者――それが敵対的な存在で害悪をなす場合はどうするのか――ゆさかも霞桜みおんもそのことには触れずに、殻になったティーカップをそっとテーブルの上においた。

 長い茶会はここに幕を下ろしたのである――



 

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