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古風な二人  作者: 八島唯
第1章 目覚める二人
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『異世界』の星を見る二人

 地を這うように腰を落とし、二人はそうっと入室した

 ソファの影を伝いつつ、息を殺して大ホールの中に忍び込む。『異世界』での軍人であればこの程度の隠密行動は朝飯前である。

 ふと、天井を見上げるイ。合点がいく。丸い天井の上に満点の星々がきらめいていた。どうやら模擬的なプラネタリウムを誰かが投影しているようだった。

 憂衣那がイをつっつく。床の上でハンドサインを示す憂衣那。オストリーバ軍共通の手信号であった。

『見ろ。星。地球の星にあらず。『異世界』の天球なり』

 さすがは海軍軍人である。プラネタリウムの星空を見ただけで、それが地球から見た製図ではないことに気づいたのだ。そして、それは『異世界』の星空であることを。

 夏の大三角形もなければ、さそり座の姿もない。

 ゆさか副会長の仕業か、と二人は確信した。

 となれば、このホールに彼女がいるはずである。

 ゆっくりとホールを見回す二人。

「いた......!」

 中央の大きなテーブルに座っているゆさか副会長の姿。制服姿で、茶を飲んでいるようだった。

 そして、その前に座しているのは同じく一人の少女。椅子の背もたれに長い髪を流し、手にティーカップを持って静かに香りを楽しんでいるように見えた。

(藤原霞桜みおんさん......!)

 間違いない。ここにいても印象の強さからはっきりとわかる。

 ゆさか副会長と霞桜みおんが二人で夜の茶会を催しているのだ。

 当然二人は顔見知り、いやそれ以上の関係と考えて間違いない。

 香も焚いているようだ。星と地上の間をまるで流れる川のように、煙がたゆたう。

「『異世界』の夜空を見ながら、茶を楽しむのはいかがかな?」

 ゆさか副会長の声。

「結構な御趣向で。ただ――」

 霞桜みおんがティーカップをそっとテーブルの上に置きながら答える。

「わたしは、あまりこの星空は好きではありません。どれだけの魂に降り積もる灰がこの星空から降りてきたことか。この星を見るたびに、ぬぐいがたい宿痕が自分の体に刻まれていることを――強く感じるのです」

 まるで詩を読むような霞桜みおんの述懐。すこし声が震えているようにも思えた。

 イはその言葉の意味するところに、思わず息を呑んだ。

 この星空を知っているということは――自分たちと同じ『異世界』の記憶を持つものなのか!

「お客様が来ましたね。お二人、お茶はいかがですか?『異世界』であれば酒でもふるまいたいところですが、この世界ではそうもいきません。軍人は法律を順守すべきでしょう」

 ゆさか副会長がそう天を見つめながら大きな声でつぶやく。

 すでに見つかっていたのだ。二人の存在を。

 イと憂衣那はあきらめて立ち上がる。

「おかけになって。このような時間にお会いできることをうれしく思いますわ」

 霞桜みおんが優雅な手振りでそういざなう。

 テーブルに着く二人。

 霞桜みおんは手際よく、二人分の茶を用意する。

 目の前のティーカップをじっと見つめる憂衣那。

「毒など入っていませんことよ。『異世界』とは違ってこの世界は平和――この世界にあるのは、争いを遠ざける眠りのような静謐のみですから」

 イはぐっとティーカップを傾ける。

 紅茶ではなくハーブティーのようだ。イはお茶にうるさいほうである。それは『異世界』でも趣味の一つであった。

「信じられない――」

 驚くイに憂衣那は不思議そうな顔をする。

「これは――これは『異世界』のハーブティー......私の大好きだった......」

「ナハトヒンメル・ティーですわ。この星空にぴったりでございましょう。あわせてイさまをお迎えするのには一番良いかと思いまして」

 霞桜みおんがなんでもないように、そう答える。

 確信する――霞桜みおんという少女は自分たちの同類であることに――

 その時、憂衣那が机を叩きつけるようにひっくり返す。ティーカップが空中に舞う。

 そして、イむんずと抱きしめると後方へ身を翻す。

「どうも、友好的とは思えねぇな。いや、なにか悪意すら感じるよ」

 憂衣那が身構えながら、そう言い放つ。

「おやおや、お気に召さなかったですか」

 ゆさか副会長が直立しながら、そうため息を漏らす。

「怪しいじゃねぇか。これ以上ないくらいに真っ黒に。『異世界』では上官として従っていたが、ここは違う。あんたのそのうさん臭さは健在のようだしな」

 イは思い出す。憂衣那はあまりゆさか――コンラート=フュルステンベルク副総参謀長をよく思っていなかったことに。

 同じ海軍であり、かつ敗軍の参謀本部の責任者である。よく思う理由はない。

 構えをとる憂衣那。

 明らかに攻撃的なスタンスであった。

 それに対してゆさかはただ冷たい視線を、こぼれた茶の向こうから送るのだった――

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