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古風な二人  作者: 八島唯
第1章 目覚める二人
11/19

夜徘徊する二人

 てきぱきと給仕をこなす霞桜みおん。生徒なのになぜ働いているのか。

「彼女はねぇ」

 後ろから声がする。こほんという咳払いも。

「模範的な生徒で、ぜひ手伝わせてほしいとの申し出でね。奇特なことです」

 副会長のゆさかが二人の後ろに立っていた。やや猫背で、後ろ手にして。今日は眼鏡をかけていない。

「副会長.......」

 右手を差し出すゆさか。

「遠慮せず食べたまえ。その食事も彼女が調理したものかもしれん」

 イは自分のプレートの上を見る。よく焼かれた鯖。これを霞桜みおんが焼いたというのか。

「藤原霞桜みおんどのは良家の出身でね。旧華族にも連なる家のご令嬢だ。本学ではJRC委員会に属している。将来の夢はナイチンゲールのように戦場で傷ついた人々を敵味方関係なく救えるような医者か看護婦になりたいらしい」

「すげぇな」

 憂衣那がそうもらす。

 イも畏敬の念を持たざるを得なかった。

 この学校でこんな聖人のような同級生がいることに。

 いつの間にかゆさか副会長は姿を消していた。

「では、霞桜みおんちゃんに敬意を表してもう少しおかわりしようかな!」

 憂衣那が皿を手に能天気にもそう叫ぶ。


 イは空になった皿を見つめて、静かに目を閉じた。

 自分のこれからのことを考えながら――



 夜。すでに消灯の時間から二時間以上が経過していた。さすがににぎやかだった各寝室もしんと静まり返る。

 四人で一部屋の寝室。カーテンで仕切りがなされ、すでに皆眠りについていた――はずだった。

 イはむくっと起きる。寝巻の半袖とハーフパンツ姿。艦内であればこの服装でも問題ない。

 静かに部屋を抜け出し、廊下に出る。

 フットライトがぼんやりと足元を照らす。じゅうたんの床をスリッパでゆっくりと歩みを進めるイ

 まるで深夜の宮殿の中を散策しているような感じでもある。もしかしたら、そこには何かが潜んでいるかも――

「一緒にいくぜぇ、イ

 ひいっとのどまで出かかるが、イは必死にそれを止める。

 目の前のでかい人影。よく見覚えのあるその姿は憂衣那のものであった。

「な、なんでお前が――」

「いやーなんかねむれなくてさ。そしたらイセンサーが働いてな。見つけたってわけさ」

 タンクトップ姿の憂衣那。ショートカットの髪も乱れている。それをかき上げる憂衣那。

「なんだよそのセンサーって」

「まあ、好きなものの動向には敏感ってやつでね。GPSよりもこれ、信用できる」

 何とも怖いこと言う憂衣那を無視して歩き出すイ

 そのあとを子犬のように追う憂衣那。

「どこ行くんだよ」

「ちょっと一人で考えごとしたくなって」

「じゃあ、一緒に行くよ」

「お前、人の話聞いてないだろ。一人といった」

「まあ、一体同心じゃん。じゃましないから一緒にいさせろよ。おもしろそうだし」

 イは憂衣那の言葉を無視してただ通路を進んでいく。

 ほとんどの部屋は施錠されていた。

 しかし、イは知っていた。この施設のはずれにある大ホールだけは施錠されないことを。

 そこでソファに座りながら、いろいろ考えてみたことがあった。

『異世界』の記憶とどう決別をつけるのか。

 この世界で『草野イ』として、どのように生きていくのか。

 さらに、ゆさか副会長の存在。

『異世界』の記憶を持っているのは自分と憂衣那だけではなく、小池ゆさかすなわちコンラート=フュルステンベルク副参謀長が現世にいることが明らかになった。これで三人である。

 『異世界』の記憶がある意味。そして今の自分が生きる意味。

 大人になる前になにかしらの一区切りをイはなにより欲していた。

 突然、憂衣那の右手がイの行く手を遮る。いつもとは違う、まじめな様子。

 通路の奥に見える大ホールの入り口から光が漏れていた。それはほのかな、そして頼りなく。

 明らかに感じる人の気配。

 それも、『異世界』の。

 二人は顔を合わせて身構える。

 ゆさか副会長か。いや、複数人の気配を感じる。

 こんな夜中に何をやっているのだろうか。

 いまだにゆさかのことを信頼していない二人。

『異世界』では尊敬する上司であったが、この世界では全くのニューフェイスである。

 まして彼女は 『マシーネンフュルスト』の能力について、言及していた。

 この世界にはありえないはずの 『マシーネンフュルスト』の能力。

 自分たちに対して躊躇なく発砲したあの初対面の時の行動。

 すべてが、何か不気味に感じられたのだ。

 二人は姿勢を低くしてゆっくりと大ホールに忍び込む。

 そこは――暗闇に満点の星がきらめく小宇宙が広がっていた。

「彼女はねぇ」

 後ろから声がする。こほんという咳払いも。

「模範的な生徒で、ぜひ手伝わせてほしいとの申し出でね。奇特なことです」

 副会長のゆさかが二人の後ろに立っていた。やや猫背で、後ろ手にして。今日は眼鏡をかけていない。

「副会長.......」

 右手を差し出すゆさか。

「遠慮せず食べたまえ。その食事も彼女が調理したものかもしれん」

 イは自分のプレートの上を見る。よく焼かれた鯖。これを霞桜みおんが焼いたというのか。

「藤原霞桜みおんどのは良家の出身でね。旧華族にも連なる家のご令嬢だ。本学ではJRC委員会に属している。将来の夢はナイチンゲールのように戦場で傷ついた人々を敵味方関係なく救えるような医者か看護婦になりたいらしい」

「すげぇな」

 憂衣那がそうもらす。

 イも畏敬の念を持たざるを得なかった。

 この学校でこんな聖人のような同級生がいることに。

 いつの間にかゆさか副会長は姿を消していた。

「では、霞桜みおんちゃんに敬意を表してもう少しおかわりしようかな!」

 憂衣那が皿を手に能天気にもそう叫ぶ。


 イは空になった皿を見つめて、静かに目を閉じた。

 自分のこれからのことを考えながら――



 夜。すでに消灯の時間から二時間以上が経過していた。さすがににぎやかだった各寝室もしんと静まり返る。

 四人で一部屋の寝室。カーテンで仕切りがなされ、すでに皆眠りについていた――はずだった。

 イはむくっと起きる。寝巻の半袖とハーフパンツ姿。艦内であればこの服装でも問題ない。

 静かに部屋を抜け出し、廊下に出る。

 フットライトがぼんやりと足元を照らす。じゅうたんの床をスリッパでゆっくりと歩みを進めるイ

 まるで深夜の宮殿の中を散策しているような感じでもある。もしかしたら、そこには何かが潜んでいるかも――

「一緒にいくぜぇ、イ

 ひいっとのどまで出かかるが、イは必死にそれを止める。

 目の前のでかい人影。よく見覚えのあるその姿は憂衣那のものであった。

「な、なんでお前が――」

「いやーなんかねむれなくてさ。そしたらイセンサーが働いてな。見つけたってわけさ」

 タンクトップ姿の憂衣那。ショートカットの髪も乱れている。それをかき上げる憂衣那。

「なんだよそのセンサーって」

「まあ、好きなものの動向には敏感ってやつでね。GPSよりもこれ、信用できる」

 何とも怖いこと言う憂衣那を無視して歩き出すイ

 そのあとを子犬のように追う憂衣那。

「どこ行くんだよ」

「ちょっと一人で考えごとしたくなって」

「じゃあ、一緒に行くよ」

「お前、人の話聞いてないだろ。一人といった」

「まあ、一体同心じゃん。じゃましないから一緒にいさせろよ。おもしろそうだし」

 イは憂衣那の言葉を無視してただ通路を進んでいく。

 ほとんどの部屋は施錠されていた。

 しかし、イは知っていた。この施設のはずれにある大ホールだけは施錠されないことを。

 そこでソファに座りながら、いろいろ考えてみたことがあった。

『異世界』の記憶とどう決別をつけるのか。

 この世界で『草野イ』として、どのように生きていくのか。

 さらに、ゆさか副会長の存在。

『異世界』の記憶を持っているのは自分と憂衣那だけではなく、小池ゆさかすなわちコンラート=フュルステンベルク副参謀長が現世にいることが明らかになった。これで三人である。

 『異世界』の記憶がある意味。そして今の自分が生きる意味。

 大人になる前になにかしらの一区切りをイはなにより欲していた。

 突然、憂衣那の右手がイの行く手を遮る。いつもとは違う、まじめな様子。

 通路の奥に見える大ホールの入り口から光が漏れていた。それはほのかな、そして頼りなく。

 明らかに感じる人の気配。

 それも、『異世界』の。

 二人は顔を合わせて身構える。

 ゆさか副会長か。いや、複数人の気配を感じる。

 こんな夜中に何をやっているのだろうか。

 いまだにゆさかのことを信頼していない二人。

『異世界』では尊敬する上司であったが、この世界では全くのニューフェイスである。

 まして彼女は 『マシーネンフュルスト』の能力について、言及していた。

 この世界にはありえないはずの 『マシーネンフュルスト』の能力。

 自分たちに対して躊躇なく発砲したあの初対面の時の行動。

 すべてが、何か不気味に感じられたのだ。

 二人は姿勢を低くしてゆっくりと大ホールに忍び込む。

 そこは――暗闇に満点の星がきらめく小宇宙が広がっていた。

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