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古風な二人  作者: 八島唯
第1章 目覚める二人
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ディナーをとる二人

 二人が『異世界』で経験した戦死。

 イが自分の愛機『ルフトドラッヘ―T5』が撃墜された時に。

 憂衣那が自分の乗艦『ラングトール』を撃沈された時に。

 一度戦死を経験したはずだった。

 しかし――彼らは生き残る。そして二つの兵器は二人に『マシーネンフュルスト』の能力を授けたのだった。

 『異世界』は『工業』が崇拝される世界である。

 こちらの世では科学や物理などと呼ばれる技術は、一種の崇拝の対象とされた。単に無機物を組み合わせるだけではなく、その機械に魂が宿ってこそその役割を果たすのである。

 兵器に命を預ける兵士たちは戦場でまさに、その魂の息吹を肌に感じることになる。どれだけその魂と心を通じ合わせるかによって、その兵器は実力以上の能力を発揮することもあった。

 そして、その兵器が『死』を迎えるとき、まれにその所持者にその兵器の魂が憑依するという神秘的な出来事が語られることとなる。

 『マシーネンフュルスト』の能力――それこそが、『異世界』における神に愛された証拠であった。


「あの時さぁ、確かに感じたんだよ。戦艦『ラングトール』の声を。『もう私は終わりだ。お前に、わが能力を伝えようと』な。そしてお前も――戦闘機の魂を受け継いだ。本当なら戦死するはずの俺たちは生き残り、さらにあの戦争を戦うことになった。しかし戦争は結局敗北し、最終的には――」

 トラックに背を預けた憂衣那。視線の先には『異世界』とは変わらない青い空。その空に向かって過去の出来事を静かに語る。

 イは静かに憂衣那の話を目を閉じながら聞いていた。不意に風がトラックを吹き抜ける。トラックの上にあおむけに寝ていた二人の髪がゆっくりと舞い上がる。

 『マシーネンフュルスト』の能力――この世界にはありえない能力を、トラックに巻き起こったの一陣の風に感じながら――


『皆さん、夕食です!たくさん学び、たくさん運動しそしてたくさん食べる!勉強も運動も体力を非常に使います。この合宿の間はとにかく、食べてください!夕食もぶブッフェ形式です。お代わり自由!足りなくなったら追加しますよ!』

 調理服をまとった職員が手にお玉を持ちながら、そう全生徒の前で宣言する。

 この合宿所は一度に三百人の食事が可能な大食堂があった。食事は、戦いの要である。皆でディナーを食べることにより、一体感を醸成するとともにテンションを果てしなく上げることができる。

 イは皿の上にちょこんと焼魚と野菜のおひたし、そして卵焼きを盛る。ご飯は雑穀米。みそ汁は具が多めの豚汁である。

 一方、憂衣那は大ききな皿の上にステーキ肉を何段も重ね、そして大きなどんぶりにご飯を山盛りにして何度もお代わりをする。

「この蛮族が」

 イは隣に強引にやってきた憂衣那にそう嫌味をぶつける。

「......だってよ、こんなに......食べもんがあるのに......くわなきゃ......失礼というもの......」

「食べながら話すな」

 もぐもぐする憂衣那にくぎを刺すイ

 まあ、戦いということには違いない。命は取られないまでも、この合宿で将来の進路が決まる。人間はそういうプレッシャーを受けたときに、食欲が爆発しやすいものだ。男子生徒がいるとはいえ、きわめて少数。人の目を気にせずに、ほかの女子生徒も結構食べていた。

「『異世界』の糧食はひどかったな」

 そういいながら、上品な自分のお膳をイはまじまじと見つめる。

「ああ、肉なんかまともになかった。靴底のような形成肉が月に二枚、乾燥野菜が一キログラム。それがなくなったら缶詰生活だ」

 オストリーバはその人口を満たすほどの農業力を有していなかった。というより、資源――肥料をはじめとする農業に必要な物資を自給することが極めて貧弱であった。海軍はまだ良い。陸軍は戦闘のさなかに糧食が尽きることもしばしばであった。

(この国も、かつての戦争で同じような経験をしたようだな。やはり、資源のない国は戦争に勝てないということか)

 箸を空中にめぐらしながら、イはそう思いを巡らす。

 かつてこの国が経験した戦争。

 アメリカ相手に戦争を仕掛け、結果南の島のジャングルで多くの兵士を飢餓で失う。戦争末期には日本周辺の海がすべからく機雷によって封鎖され、飢餓列島と化した歴史である。現在ですら、ちょっとした不作不良で食糧供給に赤ランプがつくこの国日本。オストリーバも苦しいが、この国もかなりの苦しさを抱えているようだった。

 ふと、ブッフェカウンターを見やるイ

 給仕の職員が忙しそうに空になった皿を運んでいる。その中に生徒の姿があった。制服に白いエプロンをかけた少女。長い黒髪、それは藤原霞桜みおんの姿であった。


 

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