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第9話 資本家エイマンとの対峙

 富楽の経済政策が公表されて数日後。

 今後施行される政策という事もあって、世間では富楽の政策の話でもちきりとなっていた。

 世論は説明会での印象とおおよそ同じ。貯金を止めてもらう政策に関しては理解を得られているが、領内限定通貨の発行は納得できないという感じで、元々メディナに信用が無かった事もあり、評価は不信寄りの半信半疑であった。


 そろそろ制度が施行されようとしていたそんなある日の事。

 メディナの屋敷にある有力者が来訪し、メディナと富楽は応接室でその人の対応をする事となった。

 メディナの前に座っている男性が不遜な態度で話す。


「勝手な事をされては困りますなぁ、メディナ様。勝手にこの様な者を経済顧問に据えたうえ、社会保障の強化だの、限定的な通貨発行だのと、政策を決めるのなら我々に話を通してくれないと」


 小太りでいけ好かない雰囲気の中年男性。名をエイマン・ジール・フーザーというペンブローク領有数の大資本家だ。豪華な装飾品に飾られた豪華そうな服を身に着けていて、成金のイメージをそのまま張り付けたかのような人物だ。男性の背後には使用人だろうか、痩せ型の男性が立っている。

 横柄な態度の男性に対し、メディナはオドオドと遠慮がちに話す。


「えっと、エイマンさん、それはですね。今のペンブローク領の産業は深刻な状態で、なにぶん急を要するものでして、話を通す時間もなかったというか・・・」


 このやり取りを見ただけで二人の力関係は明らかだ。

 エイマンは様をつけて話しているものの、高圧的で明らかに上から目線。一方メディナの方は半ば怯えている様子。

 エイマンは反論は許さんと言わんばかりに言葉を放つ。


「優秀な人に通貨を流し、優れた産業に利益を集中させる事で成長させる。我々が示した正しい経済政策を進める事こそ、ペンブローク領を救う唯一の道なのです。稼げない産業を救うために、稼げる産業が犠牲になるなんて事があってはなりません。貧しい者は努力を怠ったせい、本人の自己責任なのです。大金を稼いでいる人は増えているのだから、このまま優秀な人を増やし、領全体の成長に繋げていくべきでしょう。メディナ様には領民全てを救う等という夢物語を追うのではなく、現実的な政策を進めて頂きたい」


 それっぽい事をスラスラと言い並べるエイマンだったが、富楽は呆れていた。

 カネを独占したいだけの奴がよく言う。資本家の利益増加が、現場で働く者への還元を減らした事で達成させたのはカネの流れを見れば明らかだ。これで現場で働く人達の貧困が自己責任とは、随分と面の皮の厚い事で。

 ここで、いい加減にしろと言わんばかりに富楽は口を開く。


「お言葉ですが、現在ペンブローク領で衰退しているのは、大半がインフラを支える様な主要な産業。このまま今の方針を進めようものなら、インフラの維持も危うくなりますよ。それに、メディナさんには領主として領民の生活を守る責任があります。弱者だからと切り捨てる訳にはいきません。ですよね?メディナさん」


 不意に話を振られたためかメディナはすっとんきょうな声を上げる。


「ふぇ?あ、はい。領主として領民を見捨てる様な政策を認める事はできません」


「ほう?ではワシが言っているのは、領民をないがしろにする案だとでも言いたいのかね?メディナ様」


「えーっと、そのー」


 キッパリ領民を見捨てられないと言ったメディナだったが、高圧的に詰められるとすぐに目を逸らし、自信のない様子に戻ってしまった。

 エイマンは舐めた様子で追撃の言葉を放つ。


「メディナ様はお忘れか?領主は我々有力者の意見を聞かねばならない事を。我々の意見を無視する様であれば、領主として認める訳にはいかなくなるという事を。そして元の貧乏貴族に戻り、没落の道を歩む事を」


 それに対抗する様に富楽は挑発的に言い放つ。


「おや?エイマンさんはお忘れか?政策決定の権限は、あくまで領主であるメディナさんにある事を。それに、有力者が領主を辞めさせる権限があるのは確かですが、それは半数以上の賛同意見が必要だったはず。現段階でそれを実現するのは難しいのではないですか?」


 エイマンは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。どうやら図星らしい。

 富楽は資本家系の有力者も一枚岩ではないと考えていた。メディナは傀儡でないといけないと考えている訳ではなく、メディナが傀儡になるのを良しとしていたのも、あくまで自分が稼げるからという理由で、稼げるのならメディナが自分の意思で統治しても良いと考える有力者も相当数いるとふんでいたが、見立て通りだった様だ。

 今回打ち出した政策は通貨の流れを良くする政策だ。それで景気が良くなれば良し、悪くなれば責任を全部メディナに負わせればいい。そんな者達であれば、富楽とメディナの活動を見逃すのも道理というものだ。

 都合の悪い指摘だったのだろう。エイマンは話題を変える。


「うーむ。貴方達はどうしても自分達の政策を進めたいと思っている様ですが、ワシはその政策がうまくいくとは到底思えません。貯金を止めてもらう政策は他の領でも実施して失敗していますし、領内限定の通貨の流通に至っては領民に全く信用されていない始末。これで成功するとはとても思えませんなぁ」


 その言葉を聞いた富楽はニヤリと笑い、エイマンに言う。


「まぁ見ていてくださいよ、エイマンさん。見事このペンブローク領の経済を立て直してみせますよ。ね、メディナさん」


「は、はい。私達に任せてください」


「ふん。そこまで言うならやってみるがいい。もし失敗したら責任は取ってもらいますよ」


 エイマンは捨て台詞を吐き、使用人と共にメディナの屋敷を後にした。

 応接室には富楽とメディナが残っている。

 メディナはまともに対応できなかった自身の不甲斐なさに打ちひしがれているのだろう、俯きしょぼくれてしまっている。

 そんなメディナを見て富楽は思う。

 メディナのこの気の弱さ、どうしたものか。領を良くしたいという意思はあるし、反省する気もあり、話もちゃんと聞いてくれる。知識不足も富楽が教えればいいが、領主として毅然と対応できないのは致命的だ。ペンブローク領を立て直すなら、これもどうにかしないとな。

 富楽はもう一つの課題についても考えを巡らす事となった。


 一方その頃。メディナの屋敷を後にしたエイマンは、使用人が運転する自動車に乗り、移動していた。

 移動している最中、エイマンは吐き捨てる様に言う。


「メディナの奴め、生意気に逆らいおってからに」


 それを聞いた使用人は運転しながら語る。


「あの笹霧富楽とかいう男の入れ知恵ですかねぇ。こちらが他の有力者の賛同を十分に得られていない事も分かっていた様ですし」


「だろうな。まったく、あいつらが協力すれば経済顧問程度どうとでもなるんだがなぁ。領主を傀儡にするワシの策にのったから多額の利益が得られたと言うのに、恩知らずどもが。いっその事、富裕層と完全に対立してくれれば、他の有力者連中を味方に出来ていたものを」


「まぁいいではないですか。あの程度の政策であれば、どうせ失敗しますよ」


 使用人の言葉を聞いたエイマンは、さっきの不平不満に満ちた雰囲気から余裕の雰囲気へと切り替わる。


「確かにそうだな。貯金に回るカネを減らす政策は領民にアンケートで調査してそれを元に政策を決めるとの事だが、それは他の領で実施して既に失敗しているものであるし、領内限定の通貨を発行する政策に関しては全く信用されていない。メディナも他の有力者連中もすぐに目を覚ますだろう」


 富楽の策の失敗を確信し不敵な笑みを浮かべるエイマン。

 だが、エイマンは政策が施行されてすぐに自分の読みが外れた事を自覚する事になる。


 ペンブローク領が発行する通貨、ペンブローク商品券が発行されると、初日からちらほらとペンブローク商品券での取引が見られる様になり、七日も過ぎた頃にはペンブローク商品券での取引が当たり前になり、もう一つの通貨として完全に受け入れられる様になっていた。


 領民に信用されていないから失敗するだろうと考えていた領内限定の通貨。それが当たり前に使われる様になった事を知ったエイマンは、自宅で新聞を掴みワナワナと震えながら言い放つ。


「いったい。何が起きているというのだ」

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