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第6話 通貨とは何か税金とは何か

 街の様子を見て資料に目を通したその日の夜、富楽の考えた策を伝えるため、メディナと富楽は二人で話し合う事になった。

 富楽はメディナと向かい合い、話を切り出す。


「では、これからこの領の経済を立て直すための策を伝えていく訳だが。その前に、メディナさんには通貨と税金の基本を知ってもらう必要がある。ちょいと勉強する事になるぞ」


「はい。どんと来いです」


 メディナはフンスと気合を入れた。やる気がある様でなによりだ。


「メディナさんは紙幣が何故信用されているのかご存知かな?」


 メディナは顎に手を当て俯き考える。


「うーん、金本位制ですし、金と交換できるから、ですか?」


「半分正解。金本位制における金は言わば最低保証にすぎない。最低でも金と交換できますよ、だから安心して使ってくださいねって事だな。通貨の信用において重要なのは、その通貨と様々な物やサービスと交換できる事、その通貨が万能交換券として機能しているかどうかという事だ」


 再びメディナは考え、答えを出す。


「じゃあ国民の皆が色んな物を作ってくれていて、それが政府が発行する紙幣で買えるから、紙幣は信用されているという事ですね」


「そうだ。政府が発行する紙幣の信用、その本質はその国の生産供給能力にある。だから金を保有していなくても、その国に付加価値を生産するための人材や設備や資源があり、その紙幣で買う事ができるのであれば紙幣の信用は守られる。実際俺の世界では、管理通貨制度という金等の信用の裏付けを用いないシステムで紙幣が運用されているからな。その国の紙幣があれば食べる物を買える、その国の紙幣があれば工事ができる、そういったものが紙幣の信用を支えているんだ。ここまでは分かったかな?」


「国内に流通する紙幣の信用は国民の物作りに支えられている。分かりました」


「うむ。のみ込みが早くて助かる。じゃあ次に通貨発行と税の関係についてだな。メディナさんは、なんで政府が国民から税金を集めているのか分かるかな?」


「国が使う予算を確保するため。ですよね?富楽さん」


 メディナは自信満々に答えるが、


「自信を持って答えたのに悪いが、残念間違っている」


「え?違うんですか?ラジオでも新聞でもそういう風に言っているのに・・・」


 メディナも自分なりに学んだ結果の自信だったのだろう。腑に落ちない感情が表情からも見て取れる。


「じゃあ聞くが。なんで通貨を発行できる政府が、国民から通貨を貰わなきゃカネを出せないなんて事になるんだ?そもそも通貨を発行できる政府が先に通貨を流さずして、どうやって国民は通貨を納税するんだ?納税するための通貨を先に流さなきゃ国民も納税できんだろうよ」


 ここでメディナは頭の中で通貨の流れをシミュレートしていく。

 政府支出をして通貨を増やしてその後に納税であれば、納税する通貨が市場に存在するため国民は納税できるが、政府支出よりも先に納税しようとすると、国民が通貨を増やさない限り納税できない。

 その構造に気付いたメディナは閃いた様に言い放つ。


「確かに。先に納税出来ませんよね。だって納税するお金が生まれてないんですから」


 メディナの顔つきが確信を持った者のそれに変わった。誰かから聞きかじった程度のものではない、知識に基づいた人間の表情だ。


「気付いたか。そう、税金とは予算を確保する手段ではない。政府が支出する予算というのは政府の通貨発行によって確保し、税金とは通貨発行によって増やした通貨を回収して減らすための手段。国内の通貨は政府が支出する事で増加し、誰かが納税する事で減少する。この増減によって通貨を循環させさせている訳だ。政府支出が入水だとしたら納税は排水、政府支出が食事だとしたら納税はウンチってとこだな」


「う、うんち?」


 富楽の唐突な下ネタにメディナは戸惑い、突然何言ってんのと目線で語る。だが富楽はいたって真面目だ。


「別にふざけている訳じゃない。食事と排泄の関係だからこそ、政府支出があれば納税もなくてはならない。食事と排泄の関係だからこそ、政府支出よりも先に納税するのは非現実的。食事と排泄の関係だからこそ、政府支出よりも納税を多くするのは無茶なんだ。この政府支出と納税の関係を知らずして経済は語れんよ」


 下品な言い方ではある。だが、だからこそ心に強く刻まれる。下手に専門用語を使うよりも、この様な言い方の方が良く伝わるというものだ。


「じゃあ、国は金の保有量が足りなくならない様に税として通貨を回収しているって事で合ってますか?」


「うむ。それも理由の一つだな。政府が税金として通貨を回収し、通貨を減らさなければならない理由は三つある」


 富楽は指を一本立てて説明する。


「一つは、通貨の使用を強制させるため。政府が発行する通貨の納税を国民に義務付ける事で、国民が納税のために自国通貨を集めなければならない状態を作り、自国通貨での取引を促すというもの。皆が皆自国が発行する通貨ばかりを使っている理由がこれ、その通貨での納税が義務付けられているからだ」


 富楽は指を二本立てて説明する。


「二つ目は、国民の行動を抑制するため。増えて欲しくない事やあまりやってほしくない事に対して税を課して、課税対象となる者が増えすぎない様に抑制するというもの。関税が分かりやすい例か。出来るだけ国産の製品を買ってもらうために外国の製品に税を課す。こう言えば国が増やそうとしているのが納税している外国製品を扱う人ではなく、税が免除されている国産製品を扱う人である事が分かるだろう?ま、罰金に近いもんだな」


 富楽は指を三本立てて説明する。


「最後に、交換できる品が不足するのを防ぐため。先にも説明したが、通貨はそれと交換できる品があるからこそ価値がある。だから、通貨があっても交換できないじゃん、なんて事になると通貨の信用を失ってしまうから、交換できる品が足りなくならない様に通貨の量を減らして制限する。金本位制なら金、管理通貨制度なら供給能力が足りなくならない様にするって訳だ」


「へぇー。じゃあ必要な物を作ってくれている人にお金を流して、何も作らない人が増えすぎない様に税を課していくって感じですか?」


「そうそう、損得によって人を動かす、それが税制度の本質だ。適切な税のかけ方ができれば、好景気な時に自動的に増税し、不景気な時に自動的に減税するといった、景気を自動で調整する事だって出来るぞ」


 メディナは「おー」と感心の声を上げた。

 富楽はメディナがただの傀儡だと知って、もしかしたら勉強に対する意欲が低いのではないかと心配だったが、思いのほか知ろうとする意欲は強く、話も素直に聞いてくれる。

 メディナ話を聞こうとしない手合いであれば頭を抱えていたところだったが、これなら話も円滑に進めれそうだ。


「経済の基本は教えたし。満を持して伝えよう。ペンブローク領を救うための経済政策をな」

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