第43話 僅かな目標のズレ
話し合いの場に一石を投じた富楽はその場を仕切り、話しを進めていく。
「先ずは情報を整理しようか。民主派の筆頭ディバルさん。ディバルさんを支持する民間の政治団体の皆さん。国の産業を支える生産事業者の皆様。それぞれが国の経済を良くするために何が必要だと考えているのか。そしてそのために何を伝えようとしているのか。主張を述べて頂きましょう。まずはディバルさんから」
そう言って富楽はディバルに手を差し伸べ、会話の番を回す。
「私がこの国の経済を立て直すために必要だと考えているのは、国民の生産活動と消費活動の二つがバランスよく成長していく事。そのために国民の皆様には、皆が必要とする商品やサービスを作ってもらい、それを国民が買える様なってほしいのです。そして我々政府側の人間は、国民の生産と消費を支えるために働かなければならないと考えています」
「では次に生産事業者の皆様、どうぞ」
続いて富楽は生産事業者の代表達に手を差し伸べ、会話の番を回す。
予めだれが代表で話すのか決めていたのか、迷う事なくその中の一人が席を立ち、話し始める。
「私達がルプス連邦の経済を立て直すために必要だと考えているのは、ディバルさんと同様、皆が様々な商品を作りそれを買える社会にしていくべきだと考えています。最近は多少消費も増えつつありますが、それでも十分なものではなく。それに生産の現場に利益が還元されない事も多いのが現状です。その上、最近では産業の現場で働いてくれる人も減少しています。だからこれからは、生産の現場にちゃんとお金が流れる構造と、産業の担い手が増えていく仕組みづくりが必要だと考えています。今回の集まりに参加したのも、それについて話し合おうと思ったからです」
「じゃあ次、民間の政治団体の皆さん」
富楽は民間の政治団体の代表達に手を差し伸べ、会話の番を回す。
誰が代表で話すのか決めてなかったらしく、今からザワザワと話し合い、その中の一人が席を立って話し始める。
「我々がルプス連邦の経済を立て直すために必要だと考えているのは、国民の事を第一に考えてくれる指導者に国の舵取りをしてもらう事です。ディバルさんは国民との交流の機会も多く設けてくれているし、話している内容も将来の不安を解消してお金を使える様にしようだとか労働者が豊かに暮らせる様にしようだとかの国民の生活に寄り添った内容。だからこそ、我々はこの人になら国を任せられると考え、ディバルさんが国の舵取りを出来る様に応援をしているのです」
3つの意見が出揃った所で、富楽は演劇のワンシーンの様に両手を広げこの場の皆に問う。
「さて皆様方。意見が出揃いましたが。何か気付いた事はありますか?」
この場に居る人達のほとんどが険しい表情を浮かべている。いまいちピンと来ていない様子。
少しの間騒めいた後、民間の政治団体の中の一人が声を上げる。
「特に問題は無い様に思います。ディバルさんは国民の生活や国を産業を守ろうとしていますし、生産業者はディバルさんと同じ目標を掲げていますし、我々はそのディバルさんを応援している。国の経済を立て直すべく一丸となっているではないですか」
「いんや。全然一丸となってないね。ディバルさんと生産事業者の関係は問題ない。どちらも国民の生産活動と消費活動の向上をゴールとしている。だが民主派を支持している人達はディバルさんひいては民主派の勝利をゴールとしている。これのせいですれ違いが起きてしまっている」
富楽の否定の言葉。それに対しまたもや民間の政治団体の中の一人が困惑の声を上げる。
「な!何が悪いと言うんだ!」
富楽はそんな政治団体の面々に向けてビシッっと指を差し答えていく。
「君達の活動を調べさせてもらった。これまでいくつも議論の場を設けて話し合ってきた様だな。その中で今さっき話題になった需要不足や利益の還元不足や現場の担い手不足が議題に上がった事があるんだが。その際に、どうやってカネを使える様にするのかだとか、どうやって現場に利益を還元させるのかだとか、どうやって現場で働く人を増やすのかだとか、そういった問題の解決を目指す議論じゃなく、ディバルさんは悪くないんだとか、民主派は悪くないんだとかの擁護意見ばかりで、問題の解決に進む事はなかった。民主派を勝たせる事が目標になっているから、政策が上手くいっていない場合、その言い訳が主な活動になってるんだよ」
そこまで言った所で、生産事業者の代表の一人が「私も一ついいですか?」と言った後話しに割り込んできた。元々言いたい事が色々あったのだろう、語気は強い。
「私達も彼らの行動には思う所があります。私達は以前、現在の経済政策が上手くいっていない事に不満を感じ、政府に異を申し立てた時があったのですが。その時ディバルさんは快く対応してくれたのですが、なぜかディバルさんの支持者達が私達に、贅沢を言うなだの自己責任だのと抗議をしてきたのです。正直ディバルさん本人には悪感情は無いのですが、その支持者はどうかと私は思いますね」
民間の政治団体の面々はばつが悪そうにしている。
ディバルを批判している内容であれば強気に言い返していた所だろうけど、ここで問題視されているのはディバルではなくそれの支持者達。つまりディバル当人が批判されている訳ではないのだ。これではいつも通りに、ディバルさんを悪く言うな民主派を悪く言うな、というノリで言い返す訳にはいかない。
それどころか、せっかくディバルが親切な対応をして好印象を与えたのにそれにツバを吐く様な対応をしてしまったのだから、そりゃあ黙って目を逸らすしかできなくもなる。
「さらに、君達の政治活動は生産者の担い手不足にも繋がっている」
富楽はパンパンと手を叩いて合図をし、外で待機していた人を呼ぶ。
会場に入って来たのはビルの両親だ。見た目明らかな一般庶民の二人の入場に「一体何者だ?」「何を言うつもりだ?」とヒソヒソ声が湧く。
騒めきの中、ビルの母親は口を開く。
「私の名はオルア・サイデンです。私の息子は政治活動に専念するために仕事を辞めてしまいました。昔はとても働き者で農園の仕事をよく手伝ってくれていたのですが、政治活動に力を入れるにつれて仕事の時間が減っていき、今では農園の仕事を全くしなくなってしまったんです。今息子はスパニエル市民会という団体の会長をしています。息子は国の産業を守るためと言っていますが、私は現場で働くのを辞めてまで民主派の人達を応援する事が、産業を守る事に繋がるとはとても思えません」
今回この場にはビルも参加している。そしてそれはビルの母親にも伝えてある。だからこそ、彼女は自分の息子に言い聞かせる様に語っていた。
続けてビルの父親が叱る様に話していく。
「この問題は俺の息子だけの問題じゃねぇ。他の政治団体の人達も同様だ。あんた達の中にも政治活動のために仕事の時間を削ったり仕事そのもの辞めてしまったりした人も居るだろう。確かに政治に関心を持つ事は重要だ。それは分かる。だがな。そもそも政治ってのは国を豊かにするためのものなんじゃねぇのか?経済を成長させるために必要なんじゃねぇのか?政治に関わるために国民一人一人の経済活動を疎かになってちゃあ元も子もねぇだろ。違うか?」
力強い言葉に気圧されたのか、少しの間沈黙が流れる。
そんな沈黙の中、ディバルが優しい口調でその沈黙を破った。
「政治活動のために経済活動を疎かにしてしまっては元も子もない。確かにそうですね。政治、特に経済政策は国民の経済活動のためにするものなのですから。どうやら私を支持してくれている方々は、気持ちが空回りして本来するべき政治活動が出来ていなかった様です。では富楽さん。彼らはその活動をどの様に変えていくべきなのでしょう。教えて頂けますか?」
富楽は静かに頷き答える。
「ではお話ししましょう。民主化を進めていく上で、国民がどの様な政治活動をしていくべきなのかをね」
とりあえずはちゃんと話しを聞いてくれる状態までは持ってこれた。
大義を掲げて行動している団体には癇癪を起してまともに話を聞かない場合も多いため、彼らが聞く耳を持たずに話し合いにならないケースも覚悟していたが、この人達はちゃんと聞いてくれる人達で助かった。これなら順調に話しを進めていけそうだ。




