第42話 揺らぐ安心感
時は過ぎ、民主派の領主や有力者と話し合ったのと同じ場所で、ディバルは国民との話し合いの機会を設けた。今後の国全体の政策をどうするべきかを国民と話し合うという名目の元、民間の政治団体や特定の産業従事者の代表等の民間の団体を集め、民主派の代表であるディバルと議論を交わすというものだ。
名目上は国民との話し合いではあるが、実際の目的は暴走状態にある政治団体の説得と、生産事業者の支持を得る事。生産活動から気持ちが離れている国民の心を生産活動に向けさせるかが肝となる。
参加は別に強制等ではなかったけれど、政治団体の多くがディバルさんの支持者であった事や生産事業者が現状を変えたいという意欲が強かった事もあり、会場が満席になる程の参加者が集まった。そして当然、富楽とメディナも参加している。
ディバルは参加者に向け始まりの挨拶をし、少し間を置いてルプス連邦と民主派の現状を話し始めた。
「現在ルプス連邦は長きにわたる不景気も明けつつあり、需要も回復傾向、これから産業を成長させていこうという段階に来ています。しかし、不景気が長く続いた結果、多くの既存産業が失われており、せっかく需要が増えてきても供給能力が足りていない状態です。国民には出来る限り生産活動に従事してもらいたいのですが、不景気の経験からかなかなか労働者の増加に繋がっていません。現場で働く労働者の不足は今やルプス連邦における最大の課題になっているのです。そして残念な話ですが、我々民主派は労働者の減少を解決できてはいません。労働者の減少による産業の弱体化により、民主派は支持を失いつつあります。そこで今回は、生産者を増やし供給能力を増加させるための話し合いを、民主派らしく国民である皆様としていこうと考えています。重ねて言います。この国には今生産事業者が不足しており、生産事業者が増えてくれる様な政策を実施しなくてはならないのです」
ディバルの話しに声が沸く。
「素晴らしい意見だ」
「よく国民の事を考えてくれている」
「やはりこの人に任せればルプス連邦は発展する」
といった暖かい絶賛の声が上がる一方、
「どうせ人気取りで言っているだけだろ」
「また都合のいい事ばかり」
「信用できんな」
といった冷ややかな不信の声も出ている。
予想通り、政治活動にのめり込んでいる人達と国の産業を支えている人達とで民意は二色に染まっている。産業に関わる人と関わらない人とで対極的だ。
ディバルは辺りを見渡し、一呼吸。自分の支持者との対立を覚悟し、神妙な面持ちでこの場の者達に語っていく。
「私は労働者の増加が何故遅れているのか独自に調査を進めました。主な原因は、不景気で働いても報われない状況が長く続いたせいで労働者になろうという意欲が失われてしまった事によるものでしたが、もう一つ、労働者の増加を遅らせる無視できない要因があったのです。それが国民の政治活動。これは主に私の支持者の間で起きている事なのですが、私を応援する事に時間を割くために労働時間を減らしたり、政治活動のために労働そのものを辞めてしまうなんて事態も起きてしまっています。これまた残念な話なのですが、私を支持する活動そのものが国の産業の停滞を招いてしまっていたのです」
支持者を裏切る様なこの発言。当然多くの政治団体は驚愕し、騒めいた。不安の表情でキョロキョロしたり、所々で動揺の言葉を漏らしている。
そんな中、ディバルを支持していた人達から抗議の意見が沸いて出てくる。
「それはどういう事ですか!?ディバルさん。我々が経済を立て直す上での邪魔になっているとでも言うのですか!?」
「私達も国の経済のために労働者が重要な事は重々承知。だからこそ、常々現場で働いてくれる人達の大切さを語っている貴方が国の舵取りが出来る様に支持しているんじゃないですか」
「そうですよ。国の産業を第一に考えるからこそ、我々は産業を第一に考えてくれる貴方を支持し、応援しているのです」
ディバルを支持していた団体の代表達が言い訳の様な抗議を言い並べている。
今まで彼らはただ応援していればいいだけだった。ただ盲目的に、ただ信じていれば良かった。支持している人が国民を第一に考えると言ってくれていて、大勢の人が同じ人を支持しているという共有の安心感。自分の支持している人は正義感を持った素晴らしい人物だという安心感が彼らの思考停止を生んだのだ。そしてその思考停止が、自分達の労働をしなくなっている事と供給能力の低下を結びつけなくしている。
しかし、その安心感は今揺らいでいる。支持している当人に否定の言葉を浴びせられ、思考停止という湯船から出なければならない時がきているのだ。
そんな揺らぎを見計らい、満を持して富楽は声を上げる。
「君達はディバルさんの話を聞かなかったのか?今この国の経済を再生させるのに必要なのは必要な物を作り供給してくれる労働者、いかにして現場で働く人達を増やすのか、いかにして現場で働く人達を支えるのか、そういった話をしているにも関わらず、よりにもよって自分の支持者が応援をするために生産活動を辞めるという事態が起きてしまっている。それに嘆いているって話だ。そして実際に、君達は仕事を辞めてまで政治活動にのめり込んでしまっている。これが問題でなくて何だ?」
堂々たる様子で語る富楽。狼狽えている所に口出しをしたからか、政治団体の人達から富楽へとヘイトが向く。
「なんだお前は!いきなり口を出して。何者だ!」
「俺か?俺は笹霧富楽。ペンブローク領の経済顧問と言えば分かるかな?」
富楽が名を名乗ると会場がざわつく。富楽の名はそこそこ有名になっているので、名乗るだけで「貴方が例の」というノリになる。
そして富楽が名乗った事で政治団体の代表の一人が何かを察したのか、怒りを込めた声を上げる。
「まさかこの状況はお前が仕組んだのか!?お前が我々と対立する様にディバルさんをたぶらかしたのか!?」
その言葉に続いて他の政治団体の面々も立て続けにブーイングをぶつけてくる。が、 怒りと疑惑の声を投げられつつも富楽は余裕そうに答える。
「半分は正解。支持者との対立を提案したのは俺だが、支持者が労働を辞めてしまう問題に関しては元々民主派全体で問題になっていた。俺はそれの解決のお願いされたって訳だ」
「領主とその支持者を対立させて、一体どうするつもりだ?復権派が力を付けつつある今、領主と有力者を対立させるなんて。何を考えている?」
「復権派が力を付けつつあるからこそだ。今復権派が力をつけているのは、民主派が産業の再生を円滑に進めれていない事が主な原因。復権派が国民を生産活動に誘導できているのに対し、民主派の領は生産活動に従事する人を十分に増やせていない。その結果、民主派は支持を失い、復権派は支持を伸ばすという事に繋がっている。今のままだと民主派は復権派に負け、ディバルさんどころか民主派そのものが力を失う事になるだろう。どの道この問題は解決しなきゃダメなんだ」
富楽の話しにさっきまで怒りの言葉を投げていた人達は口を塞ぐ。富楽を睨みつけてはいるものの、今のままじゃいけないという意識はあるらしい。
「じゃあ本題といこうか。国の産業を守り成長させて経済を成長させたいと言うディバルさん。そんなディバルさんを支持する人が増えているにも関わらず現場で働く人が全然増えない問題。それを解決させるための話し合いをな」
一先ずは計画通り。ディバルの支持する者達の心を揺らがせ、思考停止のままではいられない様にする事ができた。彼らの説得はここからだ。




