第41話 民主派の今後
それからしばらく時は過ぎ。富楽はメディナと共にスパニエル領のとある会議場に来ていた。
格式高く相応の権力を持った者が集まるであろう事が一目で分かるその会場には、多くの民主派の領主や有力者が居て、これから始まるであろう話し合いに身構えていた。
この集まりは民主派の派閥としての方針を決めるものであり、民主派で政策に関わる様な権力者が集まり、今後の活動を決める話し合いをするために集まっている。
今回富楽がここに来た目的は、これからやろうとしている事を民主派全体に伝える事。言うなれば根回しだ。支持者の説得は場合によっては支持を失う事にも繋がるので、やるとしたら事前にある程度は周知してもらわなければならない。全体に伝えもせずにリスキーな事は出来ないのだ。
会議が始まり、参加者が各々挨拶をし、少し話しを進めた後、会議は富楽にとっての本題に入った。
ディバルが壇上に上がり、議題を語る。
「今、我々民主派は支持を失いつつあります。かつては民意が尊重される社会になると期待されていましたが、民主化が進められても労働者層の意見が政治に反映される事はなく、むしろ現場の声が政府に届かなくなった言われる始末。我々民主派は、現場で働く人達の声が政府に届く事で産業の成長に繋がると国民に説明し、それが支持されたからこそ存続している。ですが、現状労働者層の声が政治に届く事も、産業の成長も上手くいっていません。我々は今失望されているのです。その結果、民主化そのものが疑問視される様になり、復権派の勢力拡大を許してしまう事態になっています。このままでは民主派は勢力を失い、ルプス連邦の舵取りは復権派が行う事になってしまうでしょう。故に、我々民主派はこれから国民の信用を取り戻さなければなりません。そこで今回は、どうすれば国民の信用を取り戻す事が出来るのかを話し、今後の方針を決めようと思います」
ディバルが現状の説明をすると、他の者は後に続く様に意見を出していく。
「ここはやはり、国民との交流の機会を増やし、多くの人に親近感を持ってもらう事が必要では?国民と接する機会を増やし親しみを持ってもらえれば、民主派を信じてくれる人も増えるのではないでしょうか」
「民主派の結束を見せつけるのも良いのでは?民主派が一致団結している様子を見れば国民も安心してくれる事でしょう」
「後はいかにして民主派が国民を第一に考えているという事をアピールするかですね。我々民主派こそが国民を第一に考えているのだと周知してもらうべきでしょう」
如何にして国民の機嫌を取るかを話していく他の参加者。
そんな皆の意見を聞いて思う所があるのか、メディナは神妙な顔で富楽に話しかける。
「富楽さん。これって・・・」
「あぁ。思った通り、どうやって国民に経済活動をしてもらうのかとか、どうやって現場の声を聞くのかじゃなく、どうやって国民のご機嫌を取るのかを話してる。これじゃあまともな議論にはならんな」
ついさっき話された議題は、民主化によって実現されるとしていた経済成長が実現されず、民主化自体が不安に思われつつあるという話。民主派という派閥の信用喪失も無くは無いが、本題はあくまで民主化を経済成長に繋げなきゃいけないというもの。国民に不満が溜まっているからご機嫌取りをしようなんて話はしていない。
ここに居る人達の大半は現状の問題を解決しようという考えを持っておらず、政策が上手くいかない時でも不満の声を逸らす方法を考えている。問題の解決に意識が向いていないのだ。意識が向いていないのだから、解決策が出てこないのも道理である。
民主派の領主や有力者の多くは、民主化の聞こえの良い理想や特定の人物の人気にあやかっただけの者達だ。積極的に悪さをする者は少ないものの、率先して問題を解決しようとする者も少ない。そんな消極的な姿勢が一部の悪意を持った人間に利用されている。それがルプス連邦の民主派で起きている腐敗の実態なのだ。
「他に意見は有りませんか?」
ディバルは意見の催促をしたそんな時、富楽は挙手をし「俺からも良いかな?」と言い、ご機嫌取りの方針の意見ばかりが出てくる中、待ったと言わんばかりに意見を出す。
「皆さん。ハッキリと言わせて頂きますが、このままでは民主派は支持を失い、復権派に負ける事になりますよ」
挑発的な言葉。富楽の発言に周囲はざわつく。
せっかく話がまとまりそうな所で煽る様に茶々を入れる形となったためか、心よく思われていない様子。中には富楽を睨みつけている者も居る。心象は悪い。だがこれでいい。事なかれ主義な連中を動かすなら、強気な態度と発言が必要だ。
富楽は注目が集まる中で語っていく。
「まず現状の問題についてですが、民主派の支持者達が政治活動に夢中になりすぎていて、経済活動を阻害してしまっているいる点にあります。今の民主派を支持している人の多くはディバルさんを強く支持しており、ディバルさんがトップになればこの国は良くなるんだと信じ切っている。そのせいで、彼らの活動はディバルさんを応援する内容ばかり。景気を回復させようと言っているのに、どうすれば自分達がカネを使える様になるのかだとか、どうすれば自分達が優れた商品を供給出来る様になるのかといった、経済活動に関する意見も出さず、ディバルさんが国の舵取りをすれば良くなるんだの一点張り。あまりにも経済活動を軽んじる意見ばかりなので、産業従事者との軋轢も生まれ、だんだんと奇異の目で見られる様にもなってきています。このままディバルさんの支持者達を放置していれば、いずれ支持者も減っていき、民主派は力を失う事になるでしょう」
富楽が説明を終えると、参加者の一人が攻撃的に聞く。
「では、どうしろと言うのだ?」
それに対し、富楽は余裕そうな表情で回答。
「ある程度支持者と対立する事にもなるでしょうが、ハッキリと言うべきでしょう。今の様な応援の仕方は迷惑だと」
その言葉にせきを切ったように怒声が浴びせられる。
「民主派の支持者と対立するだと!?ふざけているのか!?」
「そうだそうだ!ただでさえ支持を失いつつあるのに、今の支持者を大事にしなくてどうする!」
「アンタは例のペンブローク領の経済顧問だろう?いくらペンブローク領の経済を立て直したからと言って何でも言って良いと思わんで頂きたい」
そんな中、参加者の一人がディバルに質問を投げる。
「あの様な事を言っていますが、ディバル殿はどう思いますかな?」
ディバルは既に考えが決まっていたのか、考える間もなく答えを返す。
「私としては、富楽さんの言い分が正しいと思います」
富楽に賛同の意を示すディバルに再び周囲はざわつきに支配された。そんな空気の中、ディバルは話を続ける。
「残念な話ですが、私を支持してくれている人達が経済政策の邪魔になってしまっているのは事実です。現場で働いてくれている方々が現状の不満を訴えた際、私を庇うために支持者達は、文句を言うな苦しいのは自己責任だと言い、不満の声を攻撃していたのです。この様な事が続くのであれば、民主化を進める事など出来ません。これが改善されない様であれば、私は領主の座を捨てる事も視野に入れています」
民主派の領主や有力者は動揺をあらわにしている。無理もない。民主派の領主や有力者の中にはディバルの人気にあやかって支持を集めている者も少なくないのだ。そんな人達にとって、ディバルが民主派から抜けるのは死活問題だろう。
「な!どういう事ですか!?ディバル殿」
慌てた様子で聞く声にディバルは淡々と答える。
「当然でしょう。私が民主化を良いと考えているのは、現場で働く人達の声を政治に生かすという理想があったからこそ。それが私のせいで出来なくなっているというのであれば、私は今の地位に居るべきではない。この問題は必ず解決しなければならない課題なのです。この問題を後回しにしてしまえば、どの道民主派は衰退の一途を辿る事になるでしょう。支持者とちゃんと話し合うのは、今、やらなければならないのです」
キッパリと言い切るディバル。参加者の多くは渋い顔を見せるが、反論はない。
彼らも今の民主派がディバルの人気で持っているのは重々承知。支持者との関係悪化も問題だが、ディバルとの関係悪化も問題。そして事なかれ主義の彼らは自分で答えが出せず、黙って唸る事しか出来なかった。
結局支持者の説得はやらなければならない事として富楽の意見は通り、失いつつあった産業従事者の支持の獲得を条件に、富楽はディバルと共に支持者の説得をする事となった。




