第40話 ダブルスタンダード
それから富楽は自分の部屋に籠り、資料を読み漁る。
机の上に置かれている資料は議事録。民主派を支持する民間の団体と、民主派の領主や有力者の活動を見比べ熟考している。
そんな富楽に、新たな資料を持ってきたヴィヴィエットが語りかける。
「今回はどうするつもりなんですか?フーさん」
富楽は手に持った資料をヒラヒラと揺らしながらこれからの方針を話していく。
「やるべきなのは方向性の修正だな。現状、民間の団体の主な活動内容が特定の人物や派閥の応援になっている。それを、政策の実現や政策の成功に向けてもらう様にする予定だ」
「今の応援の仕方だと空回ってかえって邪魔になっているから、やり方を改めてもらって、支持している人達とちゃんとした協力関係を作りたいって感じですか?」
「まぁそんな感じだな。あの人達の応援しようとする気持ち自体は本物だ。数も多くてそれなりの勢力もある。それが政策の成功に協力してくれる様になれば心強い味方になるだろう。敵対している訳じゃなく、あくまで協力の仕方が分からないだけだからな」
ヴィヴィエットは置かれている資料を覗きこんだ。
「ふむふむ。それで、説得のために彼らの詳しい活動内容を確かめていると。どんな感じなんですか?ディバルさんを支持する人達の活動って」
富楽は一枚の資料を手に取り、それをパンパンと叩きながら説明する。
「例えばこういったケースがある。一年程前にディバルさんが領内の産業を支えるための支援を決めたんだが、政府の腐敗が進んでいる状態だったんで、現場に十分な支援が行き届かなかったんだ。結果、現場で働く労働者層から不満や抗議の声が出てくる様になったんだが、そこでディバルさんを支持する民間の団体は、そこで不満や抗議をしている人達に非難を浴びせたんだ。利益を得られないのは彼らの自己責任だとか、ディバルさんを貶めようとしているんだとか言ってな。その結果、現場の不満や抗議の声は通らず、せっかくの進められていた産業を支えるための支援策は産業の現場を支える事に繋がらず、ディバルさんが進めようとしている政策は不発に終わってしまった」
富楽の説明を聞いたヴィヴィエットはむーっと唸り、感想を述べる。
「なんだか、政策が上手くいくかどうかよりも、自分達が応援している人の評判を気にしてるって感じですね」
「だな。ちなみに、これは本人に聞いた事なんだが。ディバルさんはある程度の不満や抗議の声が出てくる事は織り込み済みで、むしろその不満や抗議の声を元に不正が起きている個所を炙り出す予定だったとの事だ。だから政策を進める前にも、もし支援が行き届いていなかったら遠慮なく言ってくださいとちゃんと説明だってしている。ディバルさん自身は、自分の評価よりも政策の成功を優先する人だからな」
経済政策の目標は、国民が優れた商品を供給出来る様にする事と国民が自身の求める商品を買える様にする事。だからこそ生産者や消費者である国民の意見が重要になる。だが、ここで国民が政府を擁護し、ろくに生産や消費をしていないのに経済政策を上手くいってる成功している等と言ってしまうと、ろくに生産や消費が出来ていない問題が解決されないままになってしまう。組織で言えば虚偽の報告をされている様なものなのだから、これでは上がしっかりしていても経済政策は失敗してしまうだろう。間違った報告は単純に邪魔なのだ。
富楽の話を聞いたヴィヴィエットは少し悲しそうに言う。
「やるせないですよね。せっかくディバルさんが民の声を聞いて問題を解決しようとしているのに、よりにもよって支持者の擁護で台無しになっちゃうなんて」
「そもそも、ディバルさんを応援している人達の大半はディバルさんの政策の内容が分かってないからな。ディバルさんは、国全体が一丸となってルプス連邦の経済を立て直すために他の領主や有力者とも経済政策についてよく話し合っている。そのかいあって、ディバルさんと同じ経済政策を目標とする人は結構多いんだが、政策の内容ではなく誰が言うかによって政策の評価が変わっている。例えば、不況で苦しむ産業を助けるために政府が支援して産業が失われない様にしようという政策をディバルさんは進めているんだが、ディバルさんが言った場合、素晴らしいだの国民の事を考えてくれているだのと絶賛されていて、他の領主や有力者が同じ事を言うと、都合のいい事ばかり言うなだの騙そうとしているんだのと批判が浴びせられる傾向にある。政策の是非が内容で決まっていないんだ。まぁ他の民主派の領主や有力者が信用されないのも分からなくはないんだがな。今まで不正に加担してた様な奴らも多いし、メディナさんの様に傀儡にされていたケースもある。そんな人が言う政策が信じられるかといったら、まず信じないだろうしね」
同じ政策であっても、信じている人が言えば全肯定で、信用していない人が言えば全否定。前日賛成していた政策を次の日には全否定なんて事をするのだから、政府側からするとたまったものではないだろう。いくら信用していない人が言っていたとしても、そこでダブルスタンダードをかましてしまうとろくに政策を進める事は出来なくなってしまうのだ。
「なんだか、裏目に出ちゃってるって感じですね。ディバルさんは大勢の人と話し合って皆が一丸となって経済を良くしていく事を目指しているのに、国民が意見を言うと文句を言うなと支持者が黙らせてしまうし、ディバルさんと意見を同じくしてくれる人が増えても支持者が二重基準で批判してしまうなんて」
富楽はまとめに入る。
「だからこそ、民間の政治団体をどうにかしないといけない。幸い国民が政治に意見できる環境作りも、他の民主派と連携できる体制もある程度はディバルさんがやってくれている。かなり惜しい状態なんだ。後は暴走気味な民間の政治団体をどうにかすれば、ある程度は形になるだろう」
今回富楽がするべき事は、いわゆる無能な働き者タイプの人間になってしまっているディバルの支持者達を修正する事。現状ディバルの支持者の多くは、やる気はあるけれどそれが空回りして邪魔になっている。そんな人達を余計な事をしない人達に変える事が今回の目標となる。
富楽は資料の内容とやらなければならない事を照らし合わせて考え、しばらく考えた後「よし」と決断の声を上げた。




